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008二階堂さんの追及

(8)二階堂さんの追及


 翌朝、俺は用心して昨日とは別の道を使って登校した。あの中年私立探偵、新郷哲也(しんごう・てつや)のおっさんが、また待ち伏せていたらたまらなかったからだ。

 策は奏功(そうこう)し、あのツラを見ることはなかった。


 無事に六田高に到着して1年B組に入る。そこには昨日休んでいた二階堂さんがいた。暗赤色の長髪を団子にし、常に眠そうな目をしているのはあいかわらずだ。そこに欧州の外国人風の顔立ちと、白磁の肌が加わって、日本人離れした美をかもし出している。

 彼女は俺の姿を見るなり、それまで和気あいあいと会話していた友達から離れた。急に機嫌が悪くなったのか、こちらへよこす視線がきつい。

「ちょっとお話してよろしいですわね?」

「ああ」

「鞄はそのまま持って、ついてきてくださいませ」

 八尾刀についてだな、ということぐらいは、馬鹿の俺でもわかった。少し緊張する。彼女は教室を出て階段を上っていった。


 屋上には人がいない。そりゃそうだ、1時間目が間近なのだから。空は青く、千切れたような雲が散見されるのみだった。少し肌寒い。春もまだまだ真価を発揮していないらしかった。

「八尾刀を返してほしいですわ」

 正対して開口一番、二階堂さんは俺に要求してくる。

「ハチビトウって何だ?」

「とぼけないでくれませんか? これの仲間ですわよ」

 二階堂さんはあの『放射火炎』の小短刀を取り出すと、豪華なあつらえの鞘から抜いて、先端を俺に向けてきた。おいおい、炎を飛ばしてくる気じゃあるまいな。俺は緊張を気取られまいと、いたって平然としたふうをよそおう。

「銃刀法違反じゃね?」

 彼女は無視した。

「昨日は小刀を探して一日中街を歩き回りましたわ。立花先生にも迷惑をかけました。でも今朝、真理ちゃんとの話で、あなたが八尾刀を鞄に入れて持ち歩いていることを知りましたわ。持っているなら返してほしいのです。あれはなくしてはいけないものなのですから」

 真剣な瞳で俺を見つめる。浜辺さんのおしゃべりめ。俺は狼狽(ろうばい)を悟られぬよう、いたって普通の態度で鞄を差し出した。

「そんなもんは持ってねえ。疑うのなら二階堂さんの手で調べていいから。その代わり、もし何もなかったら何でもひとつ、いうことを聞いてもらうぞ」

「上等ですわ」

 二階堂さんは俺をひとにらみして了承した。俺が鞄を床に置くと、一歩前進して中をあさり始める。俺の緊張は極限に達した。

 バッグに入っているものは勉強道具とブラシ、ブルーベリーガム、ペットボトルのコーラ、黒い折り畳み傘といったものだった。もちろん『爆裂疾風』は影も形もない。

「ない……ですわね」

「な? もういいだろ」

 俺は鞄をひったくるように取り返す。だが二階堂さんはしつこかった。

「待って、まだ折り畳み傘を調べていないですわ」

 俺はわざとらしくイライラしてみせながら、再び鞄を置く。黒い安物の折り畳み傘をその中から取り出して、彼女に手渡した。二階堂さんはそれを袋から出して広げる。だがやはり八尾刀は隠れていなかった。

「どうだ、持ってねえだろ?」

「は、はい……。疑ってごめんなさいですわ」

 俺は背中にかいた冷や汗もそのままに、小さく、だが深々と息を吐いた。実は八尾刀の刀身は、俺が作った鞄の二重底に隠してあったのだ。小刀はガムテープでぐるぐる巻きにしてあるため、底が切れる心配はない。

 用心しといて良かったー……

 ほっと胸を撫で下ろし、俺はにやりと笑った。

「何でも言うことひとつ、聞いてもらえるんだよな?」

 二階堂さんがひるんで、一歩後退した。その顔に怯えの色がある。

「エ、エッチなことじゃないですわよね?」

 ああ、それは思いつかなかった。

「もしそうでも拒否権はないぜ、二階堂さん」

「ぐっ……」

「ま、今はいいや。1時間目も始まるしな。帰ろうぜ、二階堂さん」

 こうして俺たちは1年B組へ戻るべく、足早に屋上を後にした。

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