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080衝撃波10回

■衝撃波10回


天羽々斬(あめのはばぎり)の剣』――通称アメは、俺に疲労を訴えた。

『ちょっと休憩しようぜ、姫英』

 俺はオロチの首たちを必死でかわしながら、相棒に罵声を浴びせた。

「アホかてめえ。この状況でどうやって休むっていうんだよ」

『別にヤマタノオロチを今倒さなくてもいいじゃねえか。ここは奴の首が届かない遠くへ飛翔して、いったん態勢を立て直すってのもありだと思うぜ。俺さまの神気(しんき)も残り少ないしな』

「神気?」

『神々の力だよ。焚き火の(まき)みたいなもんだ。空飛んだり、衝撃波を放ったりすることで消費されるんだ』

 俺は充電池みたいなものかと思った。まあ、確かにヤマタノオロチの首から逃れるのはひとつの策だろう。

 だけど、俺は……

「……まだ生きている気がするんだ」

『何?』

「磯貝さんが、まだオロチの体内で生きているような――俺の助けを求めているような、そんな気がするんだ。勘じゃなく、決定的な事実として……」

『そういうのを勘っていうんだろ』

 龍の頭を次々に割り砕いていく。俺は再び、8つすべてを沈めた。土煙が視界に幕を作る。

「くそっ、やっぱり駄目か」

 俺は舌打ちした。砂のカーテンの向こうで、8本の首がゆるゆると回復しつつある。死んだはずの目が生き生きと輝き始め、仇敵の俺をにらんだ。

「しかし、何で俺ばっかり狙うんだ? 新郷のおっさんや山城たちは狙わないのに……」

『そりゃお前が曲玉を含んでいるからだろ。三種の神器はお互いに引かれ合うっていうからな』

「そうか……。そういえば、ヤマタノオロチも草薙の剣を使って復活したんだっけな」

 草薙の剣、か。そうだよ。草薙の剣だ!

「アメ、こうは考えられないか? ヤマタノオロチの力の源――神気の塊である刀、『草薙の剣』は、きっと今オロチの尻尾のどれかに入っている」

『まあそうだろうな』

「それを取り除けば、この怪物も再生能力を奪われて死に至る――そうじゃないか?」

『それだな!』

 俺は俄然やる気になった。オロチがみたび首をもたげる。問題は、どうやって巨獣の背後に回りこむか、だ。

「アメ、衝撃波はあとどれくらい使える?」

『10回だな。それ以上使うと今度は墜落する』

「よし。それじゃちゃんと微調整してくれよ、アメ!」

 オロチの首が襲い掛かってきた。俺は両手で剣を構え、対抗して突っ込んだ。彼我の距離が急速に縮まる。

『うわあっ! 何やってんだ!』

 俺はこの突撃に死を覚悟して(のぞ)んだ。後は相棒が上手くやってくれるかどうか、だ。

 オロチの口が俺を飲み込もうとする。それをミリ単位で避けながら、俺は首の付け根の隙間へと躍り込んだ。

 成功だ!

「よっしゃあっ! 食らえ、化け物どもっ!」

 俺は振り返り、無防備な首の付け根8つを、すべて衝撃波で切り裂いていった。オロチの首が根元から切断され、伐採された木のように大地へ落ちる。そのために、俺は剣を7回は振った。

『あと3回だぞ姫英! 尻尾へ急げ!』

「おう!」

『……それにしても無茶する奴だ。スサノオさま以上かも知れん』

 俺はヤマタノオロチの胴体を見下ろしつつ、その後部へ進む。

「8つか……」

 そこには8本の尻尾が生えていた。このどれかに草薙の剣が入っているはずだ。そしてそれこそが、この怪物の力の源であるに違いない。

 取り除かなくては――!

 俺はあと3回の余裕しかない衝撃波を、どう使うべきか迷った。頭部がすべて死しているにもかかわらず、オロチの尾はまるで生きているかのようにのたくっている。草薙の剣が内蔵されている尻尾がどこであるか、俺の目では判別できなかった。

 そうこうしている間にも、振り向けばオロチの頭部は新しく生え変わりつつある。時間も余裕もなかった。

『衝撃波はあと3回だぞ。有意義に使え、有意義に』

 俺は手の中の相棒の言葉に、何だか違和感を覚えた。ことさら『衝撃波』をアピールしているが……

「確か岩を真っ二つにできたほど、アメは切れ味よかったよな」

『ああ、そうだな』

「じゃあ衝撃波じゃなく、そのまま刃で直接尻尾を断ってみるか! それなら神気も使わずに済むんだろう?」

 アメのため息は深かった。

『気づいちまったか……。ああ、そうだよ。神気は使わずに済む』

「よっしゃ!」

 俺は飛翔して、ヤマタノオロチの尻尾を左から順番に輪切りにしていった。これは違う。これも違う。こいつはどうだ? じゃあこっちか?

 次々に斬っていくうち、6番目の尻尾で、硬い手応えに剣が跳ね返った。

『ぎゃあああっ!』

「どうしたアメ!」

『欠けたーっ! また欠けたーっ、俺の刀身ーっ!』

 見れば、確かに刃がごっそりと欠けている。オロチの尾に隠された硬質な何かに、天羽々斬の剣が負けたのだ。

『だから嫌だったんだ! 草薙の剣相手だと、俺は絶対に欠けちまうんだから!』

 なるほど。アメが衝撃波で済ませたがったのは、神器に当たって自分の刃が欠けるのを嫌ったからか。

 そのとき、獣じみた咆哮(ほうこう)が再開された。見れば新しく生え出てきた8つの首が、こちらへ急速に迫ってきている。弱点を知られて焦っているみたいだった。

『姫英、草薙の剣を奪え! 早くしろ!』

「おう!」

 俺は衝撃波を3回叩き込み、草薙の剣を露出させる。そして口を開けて襲いかかってくる8つの頭より早く、草薙の剣をつかみ取った。

 その瞬間――

 ヤマタノオロチは、再び死の眠りについた。

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