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071曲玉再び

■曲玉再び


 耳が、肩が、目が足が熱い。しかしかなり出血したせいか、体の芯はむしろ冷え切っており、繰り出す片足は重くて仕方なかった。

「大丈夫かい?」

 心配そうにする探偵助手・山城光輝に、俺は強がって笑ってみせる。

「へっちゃらだよ。ただ早く曲玉を飲み込んで、この痛みとはおさらばしたいな」

 周囲の観光客の耳目(じもく)がこちらへ集中していた。そりゃそうだ、16歳の少年が体中血まみれになりながら、公園を横切っていこうというのだから。下手なお祭りよりよっぽど関心を引くだろう。その一方、唯さんは杖をつく新郷をサポートし、ひとり闊歩(かっぽ)する磯貝さんは2本のシャベルをかついでいる。何のイベントだと疑われても仕方なかった。

「俺の『飛翔雷撃』が熱くなってきやがったぞ」

 おっさんが興奮気味にささやく。そう、八尾刀には『真実の瞳』に近づくと熱を持つ性質があるのだ。俺の腰にある『爆裂疾風』の鞘の中身も、カイロのように温まってきている。唯さんの『つぶて氷』、山城の『放射火炎』も同様らしく、ふたりは感嘆しうなっていた。

 石彫公園を見下ろす場所にある丘へ、俺たちは登り始めた。木々が生い茂って足元が悪い中を進むと、じんわりした湿気に汗が流れる。ときおり吹き抜ける風に蘇生する思いだった。

「ん、ちょっと離れたな」

 新郷が軌道修正する。進行方向を是正すると、八尾刀の熱はまた息吹を取り戻した。

「この辺りか」

 木の根元、不自然に草花が除かれている地べたへ、俺たち一行は視線を落とした。俺はたぶんここに埋めたんだ。間違いない。

「じゃあ早速掘り返しましょうか!」

 宮内庁『文化継承室』の特務員・磯貝さんが、張り切ってシャベルを土へと食い込ませた。俺は唯さんの手で近くに座らせてもらう。そうして、山城と磯貝さんの作業を見守った。

 と、そのときだった。

「『飛翔雷撃』!」

 私立探偵・新郷が、いきなり空中目がけて電光を走らせた。それに打ち据えられたのは――『目』の化け物だ! 俺はがく然とした。

「まさか……!」

『そう、そのまさかよ』

 今度は『口』の怪物が現れる。それから漏れ聞こえてくるのは、あの西川ほとりの声だった。

『あとはつけさせてもらったわ。今行くから待ってなさい』

 探偵助手・唯さんが『つぶて氷』で『口』を叩き殺す。俺は山城と磯貝さんをせかした。

「は、早く曲玉を! 半分の5割とはいえ、あの草薙の剣には、もう絶対に勝ち目はねえから……! それこそ、『八尺瓊曲玉(やさかにのまがたま)』を使っても難しいぐらいに」

「まかせて、夏原くん! 今ちょっと緑色の光が見えてきたところよ」

 曇り空に陽光が遮断されているおかげで、晴れているときより探しやすくなっていたみたいだ。

「あった!」

 最後はシャベルを放り出し、両手でかき分けて、磯貝さんは『真実の瞳』を掘り当てた。両手ですくってたたずみ、その不思議な輝きを放心状態で眺める。

「これが……曲玉……!」

 そのときだった。木々の間からのぞく石彫公園に、6台もの漆黒のベンツが乱入してきた。紺や黒のスーツ姿の男たちが続々降り立ち、仰天する観光客を押しのけながらこちらへと迫ってくる。西川ほとり、昌伯の姉弟の姿も見えた。

 奴らはオロチの一族だ。

 俺は磯貝さんから急いで曲玉をもらうと、土が付着しているのも構わず一息に飲み込んだ。

「よし!」

 従前からの俺の痛みがすべて吹き飛ぶ。左耳は元通りに接着し、右目も右足も復元された。左肩の傷もふさがる。何より貧血気味だった頭が明瞭になって、力が足から湧き上がってきた。股間を見ると、男性器がひさびさに生えている。それはたまらなく嬉しいことだった。

 相棒の『爆裂疾風』を持ち直す。今度こそ草薙の剣に負けやしない。みんなを守って、双子とその眷属(けんぞく)たちを撃退するんだ。

「俺がひとりで行く。新郷のおっさんたちはここで待っていてくれ。草薙の剣さえどうにかできれば、勝ちはこっちに転がり込むって寸法だからな」

「私が援護するわ」

 ニューナンブM60を手に、磯貝さんがきりりと顔を引き締める。

「でも、街中で発砲したことがさっきの1回しかないんでしょ?」

「これでも町内会の福引きで一等ハワイ旅行を当てたことがあるんだから!」

 ともかく、俺たちはそれぞれの得物を確かめた。その上で、俺は皆を待機させて丘を降りていく。

「いくぞっ!」

 俺はドスを抜いて切りかかってくるスーツたちを、『爆裂疾風』で吹き飛ばした。

「あれっ、夏原! 何であんた、ケガが治ってるのよ!」

 ほとりが驚きつつも、右手の指を鳴らして『口』の怪物を召喚する。8回鳴らすと8匹が現れた。

「いけっ! 夏原を食っておしまい! ただし前にも命じたとおり、八尾刀は食べちゃ駄目よ!」

 俺は一族の男たちと『口』の化け物たち、双方を相手に縦横無尽の活躍を見せた。基本的には木々の中から外へ出ず、上から見下ろす地理上の有利を確保して、『爆裂疾風』を次々に見舞っていったのだ。

「ぎゃあっ!」

「ぐはぁっ!」

「痛てぇっ!」

 人間には手加減で、怪物たちには全力で爆風を叩きつけた。う回して新郷たちに向かった連中は、八尾刀や唯さんの格闘術、磯貝さんの発砲で死なない程度に痛めつけられる。その様子を見ていきり立ったほとりが、弟をうながした。

「面倒くさいなあ……」

 敵の本丸である昌伯が、腕の入れ墨から剣を取り出す。草薙の剣だ。

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