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059転校生

■転校生


 7月ともなると、日本海に面する我が萩市もさすがに暑くなってくる。俺は駐輪場に自転車を停めると、上山と浜辺さんとともに昇降口へ入った。そのとき、意外なことを聞かされた。

「転校生? この7月に?」

「ああ。期末考査が終わったからかな。2人、1年B組に入るらしいぞ。俺も担任の葛西(かさい)から小耳に挟んだだけで、詳しくは知らんが」

 そんな情報を漏らした上山は、昭和の番長的な風体で、筋肉盛り盛りだった。元は暴走族『刃亜怒(バード)』の一員だったが、恋人の浜辺さんの説得で脱け出している。

 その浜辺さんはほがらかな笑みを浮かべた。割烹着(かっぽうぎ)姿が似合いそうな和風の乙女だ。

「雄大ちゃんと話してて、楽しみだなぁって。新しい友達ができるのは嬉しいよね」

 俺は心からうなずいた。俺もこの二人と仲良くなれて嬉しかったもんな。


 1年B組にはいつの間にか、誰も使わない机と椅子が2人分運び込まれていた。それを前に、クラスメイトたちはぼそぼそささやき合っている。転校生の登場か、と誰しもが期待しているのだ。

「よーし、今日もホームルーム始めっぞー」

 担任の葛西が入ってきたのを契機に、生徒たちが各々の席に戻る。日直が「起立、礼」と声を張って、一同は頭を下げた。そして一斉に着席する。葛西は教壇に両手をつき、30余名の学生を見やってにやりと口角を持ち上げた。

「今日からこの1年B組に転校生がやってくる。それも二人もだ」

 クラスは騒然となる。やはり、とか、まさか、とか、みんなの反応はさまざまだ。俺は前もって聞いていただけに驚かなかったが、やはり噂ではなく事実として告げられると、緊張と高揚で胸が高鳴る。どんな奴らなんだろう?

 葛西が戸口へ行き、ドアを開けた。

「よし、入って来い、ふたりとも!」

 そうして入室してきたのは――

 ひとりは背の小さい少女だった。可憐でか弱き容貌で、抱きしめれば折れてしまいそうなきゃしゃな体をしている。青みがかった髪の毛を背中まで伸ばし、その瞳は灰色だった。つんと()ましている。

 もうひとりは、その少女と瓜二つの相貌の少年だった。高校1年生としては平均的な身長と体格で、少女に比べて少し猫背である。巻き毛が寝癖で飛び跳ねており、眠たげな半目とあいまって、これはルネッサンスの絵画に描かれる天使のような見た目だった。

 うちの男子は少女に、女子は少年に見とれた。その中で事務的というにはやや砕けた葛西の声が響く。

「自己紹介しろ、ふたりとも。黒板に名前を書いて、大きな声で……」

 少女の名は『西川(にしかわ)ほとり』。西川さんはこちらを向いてお辞儀をした。

「西川ほとりです。弟とは二卵性の双子です。どうぞよろしくお願いします」

 少年の名は『西川昌伯(しょうはく)』。昌伯は髪の毛をかき回した。ふてくされているようにも見受けられる。

「西川昌伯です。姉と同じ日に生まれました。よろしく」

 西川さんは鞄だけだが、昌伯は鞄と枕を持っている。え、学校で寝るのか?

「よし、西川。空いている席にそれぞれ座れ」

 クラスメイトたちの視線をその身に受けながら、西川さんも松柏もそろって気にせず、言われたとおりに着席した。

 その後、伝達事項を伝え終わると、葛西はホームルームを終わらせて外へ出て行った。とたんに生徒たちは双子の新入りたちを質問攻めにする。

「何でこの時期に六田高に?」

「まあ、父親の転勤に合わせて仕方なく、ね」

「綺麗な髪ね。いつごろから生やしてるの?」

「いいでしょう? 子供の頃から手入れしてるの」

 てきぱき答える姉の西川さんは、どうもリーダーシップを取る才に長けているように思えた。一方の昌伯は素っ気ない。

「なあ西川、お前運動できるか? よかったら俺の部活に……」

「ごめん。眠たいんだ。寝かせてくれ」

 昌伯はそれだけ言うと、枕を机の上に置いて頭を預けた。そして、きっかり3秒で寝息を立て始める。

「寝た……」

 戸惑う生徒たちは、仕方なく如才(じょさい)ない西川さんに質問の矛先を向けた。俺と上山、浜辺さんは呆れてその様子を眺めやる。

「個性的なふたりね」

 浜辺さんの言葉に、俺は肩をすくめた。それ以外に何がいえるだろう?

「とりあえず、俺たちは様子見だな」

 上山がもみ上げを指でかく。苦笑していた。

「そうだな。目立たなくなってから声をかけるとするか」

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