表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

51/93

050駐車場の攻防

(50)駐車場の攻防


 新郷が怒りを隠さない。握った拳がわなわなと震えていた。

「俺の弟の(たけし)を殺したのもきさまか!」

 蛇川は馬鹿にしたように肩をすくめてみせる。

「けけけ、いちいち殺した相手の顔なんか覚えてられるかよ! ただ、『兄さん、助けて……』って最期の言葉を残した奴は知ってるがな!」

 おっさんは俺から借りていた『波紋声音』を懐中から取り出した。おいおい、唱える気か? 俺も唯も耳栓してないぞ……!

 だが蛇川のほうが速い。奴はやけに優れた跳躍力を生かして、飛び蹴りを放ってきたのだ。新郷はもろに顔面を蹴られて吹っ飛ぶ。落ちた『波紋声音』はワンボックスカーの下に転がった。

「弟の後を追え! 『つぶて氷』!」

 仰向けに倒れて動けないおっさんは、真上に現れた大量のつららに恐怖の表情を浮かべる。だが俺は『爆裂疾風』を唱えて氷の山を吹き飛ばした。

「起きろおっさん、俺はあんたの仇討ちまで背負いたくねえぞ!」

「すまん!」

 蛇川が邪魔されたことに怒ったようだ。八尾刀を構えて直接躍りかかってきた。

「このガキぃっ!」

 俺は八尾刀で刃を受け止める。次の瞬間、蛇川は俺の股間に容赦ない膝蹴りを突き刺してきた。どうやら俺を純粋な男だと信じて、睾丸(こうがん)を潰しにきたようだ。

 にやりと笑う蛇川は、次に平然と『爆裂疾風』を唱えた俺に驚き、驚いたまま爆風の直撃を受けた。後方へ吹っ飛び、さっきと同じように背中から壁に叩きつけられる。最強の威力の突風を至近距離で浴びたのだ。今度こそ終わりだろう。

 俺たちの戦いに興味をひかれた野次馬たちが、遠く俺たちを囲み始めた。

「映画の撮影か?」

「今のはワイヤーアクションってやつだろ」

「でもカメラはどこだ?」

 そこで俺は信じられないものを見た。蛇川がにやにや笑いながら立ち上がったのだ。左腕が折れて反対方向にねじ曲がっている。それでも痛みは感じていないらしかった。

 新郷が折れた鼻骨を押さえながら看破する。

「どうやらあいつは、あらかじめキメておいた薬で痛覚を鈍らせているみたいだな」

 蛇川はぶつぶつつぶやいた。

「接近戦はこっちが不利か。……そうだ、いいこと思いついたぜ。これならどうだ? 『つぶて氷』!」

 奴は嘲笑しながら、駐車場の他人の軽四に『つぶて氷』を叩きつける。車がひしゃげたかと思うと、直後に爆発が起きた。

「うわぁっ!」

 俺と新郷は吹っ飛んで別の車に激突する。息がつまった。あまりのことに、周りの野次馬たちが驚愕していっせいに逃げ出していく。

「うわあっ、本物だっ!」

「でも何だよ今のは……っ」

「いいから遠ざかるんだよ!」

 俺とおっさんは倒れ伏して激痛に苦しんだ。蛇川が勝利の笑いをひらめかせる。

「けけけ、動けまい。さあとどめだ、食らいやがれ! 『つぶて氷』!」

 俺は観念して目をつぶった。

 だが……

 大量のツララに突き刺される前に、唯が蹴りを放って蛇川の八尾刀を吹っ飛ばしていた。結果、俺たちの頭上の氷群は、たいして加速もせずただ降ってきただけだった。もちろん痛いことに変わりはなかったが、死ぬほどのことでもない。

「このアマぁ!」

 蛇川が激怒して、右拳で唯を殴り飛ばした。そのうえで再び『つぶて氷』を手にしようとする。

 しかし俺はその動きを読んでいた。必死の思いで『爆裂疾風』を唱える。

「ぐぎゃあっ!」

 奴はみたび爆風に吹き飛ばされた。痛みをこらえて起き上がった新郷が、走って『つぶて氷』を先に手にする。それを大きく構えてぶん投げた。

「俺の弟の苦しみを知って死ね!」

 蛇川は逃げようとして足が折れていることに気がついた。彼の左胸に八尾刀が突き刺さる。深紅の薔薇がつかの間現出した。

「そんな……俺がこんな奴らに……!」

 蛇川はそんな言葉を残して仰向けに倒れた。その胸に立つ小短刀は墓標のようにも思える。

 奴は絶命した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ