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049仇敵

(49)仇敵


 俺はタクシーに揺られながら、懐中の八尺瓊曲玉(やさかにのまがたま)を触っていた。今、俺は教団ナイトフォールの全信者から命を狙われていることになる。そう考えると、緊張と戦慄(せんりつ)のさざなみが全身を伝っていった。


 新郷探偵事務所に着いた。料金を支払うのももどかしく、俺は早速そこへ入る。誰か信者に見られてはいやしないかと、気が気じゃなかったのだ。助手の桧垣唯(ひがき・ゆい)に話をつけ、応接室に入る。

 軽くウィスキーを飲んでいる新郷哲也がそこにはいた。彼は俺の包帯だらけの姿を見て苦笑する。

「どうした? 誰かとケンカでもしたのか。派手にやられたな」

「そんなことよりこいつを見てくれ。『真実の瞳』だ」

 俺が薄緑色に光る曲玉を見せると、とたんに彼は目の色を変えた。酔いが一気に吹っ飛んだらしく、わなわなと近づいてきてのぞきこむ。

「こいつが『真実の瞳』か。こいつが――! ほのかに光ってやがるが、いったいどういう仕組みだ?」

「さあ、俺にもさっぱりだよ。でもこれで間違いないんだ」

「お前、教団を裏切ったんだな?」

「そうでもしないと曲玉は手にできないからな。当然だ。これからどうすればいい?」

「そうだな――とりあえずここをずらかるか」

「何でだよ」

 新郷は曲玉をつまみ、裏表を確認しながら俺をたしなめた。

「馬鹿かお前。ナイトフォールを調査している探偵や弁護士は、その居所を全部教団に逆把握されてるんだ。俺の探偵事務所なんかすぐに調べ上げられるぞ。信者連中がここに押し寄せてくる前に、さっさと退散するべきだ」

「退散って……どこへ? 当てはあるのかよ」

 哲也はにやりと笑った。

「こういうときのために隠れ家を用意してあるんだ。車でそこへ向かえばいい。時間はない、今すぐ行くぞ!」


 俺、おっさん、唯は事務所から出て、近くの月極(つきぎめ)駐車場にやってきた。他にもここを利用している客の車が置かれている。俺たちはワンボックスカーに乗り込もうとした。

 と、そのときだ。

「けけけ、熱い、熱いぞ! 俺さまの八尾刀が熱すぎるぜ!」

 長い舌をちらつかせ、現れたのは禿頭の男。黒革の派手なつなぎを着ている。その手に小短刀が握られていた。八尾刀か?

 俺はとっさに『爆裂疾風』を放った。男は突風に吹っ飛んで、隣の建物の壁に背中から叩きつけられる。

 だが、奴はまるで痛くなさそうに立ち上がった。『爆裂疾風』が効かないだと!? 俺は驚愕する。

「俺さまは蛇川充(へびかわ・みつる)。先制攻撃とはいいなぁ。けけけ、そうこなくちゃよ、曲玉の持ち主としてふさわしくねえよなあ! 『つぶて(ごおり)』!」

「上だ、夏原!」

 俺は新郷にいきなり首ねっこをつかまれ引っぱられた。

 見ればさっきまでいた位置の真上に、何か青い固まりのようなものが無数に浮かんでいる――と思ったら。次の瞬間、それらはすさまじい勢いで地面へと落下し、次々に砕け散った。

 俺はアスファルトにヒビが入るほどの威力に戦慄(せんりつ)する。危ないところだった。

「これがてめえの八尾刀『つぶて氷』の能力ってわけか。……あれ、でも待てよ。この氷の散弾銃は、どこかで……」

 俺は記憶の引き出しを片っ端から開けた。そして思い出す。

「じいちゃんだ! 夏原寛治(なつばら・かんじ)は、全身に穴を開けられて出血多量で死亡したんだ! お前――蛇川が俺のじいちゃんの仇なんだな?」

 蛇川はけけけとのけぞって笑った。

「そうよ! 龍覇さまの命令で夏原寛治は暗殺させてもらったぜ。ほかにもいろいろ殺してきた。俺さまは教団秘蔵の暗殺者なんだよ!」

 長い舌をちろちろのぞかせて、奴は楽しそうだ。俺の胸中に火山噴火のような怒りが湧き起こる。

「許せねえ……!」

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