表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

48/93

047洞窟の死闘

(47)洞窟の死闘


「『爆裂疾風』!」

 しかし俺がそう叫ぶより早く、凛太郎は爆風の軌道から逃れて湖に飛び込んだ。そしてモヒカンの頭と八尾刀の先端だけ出すと、『水流円刃』を唱える。切っ先から円盤状の水の刃が、弾丸のような速さで飛んできた。

 俺はとっさによける。しかし左の肩口を浅く切られて出血した。痛てぇ!

「この野郎!」

 俺はまた『爆裂疾風』を唱えたが、凛太郎は水中に逃れて空振りさせる。そしてまた顔だけ出して『水流円刃』! 今度は俺の右の太ももをかすめた。血潮がほとばしる。激痛に声もなかった。

 俺は頭にきて前後の見境がなくなる。左右の靴を脱ぎ捨てた。

「この野郎、ちょこまかちょこまか動きやがって……。こうなりゃ水中で勝負だ!」

 そう怒号すると、水の中に飛び込む。曲玉の光が洞窟内に反射しており、水中でも相手の姿がよく見えた。そして、まったく動かない周平が水中を漂っていることも……

 そのうつろな目を直視したそのとき、俺は自分のやったことに震えだした。周平は『爆裂疾風』をもろに受けて、水中から出られず溺死したのだ。この俺の攻撃のせいで。

 俺は自分が彼の命を奪ったことに恐怖し、戦意が喪失に向かいだすのを止められなかった。

 凛太郎はしかし、俺には襲いかからず水上へ顔を出しに行く。息が続かなくなったのか? と思っていると、彼はこちらに八尾刀の剣先をめぐらした。

「俺の勝ちだ馬鹿め! 『水流円刃』!」

 とたんに俺の左わき腹に激痛が走った。水の中でも『水流円刃』の速度と威力は落ちないらしい。だから奴は上昇したのか。俺の傷は軽かったが、いつまでも幸運をあてにしてはいられなかった。

 ともかく浮上をこころみるしかない。息が苦しくなってきたのと、水中では『爆裂疾風』を唱えられないからだ。水中で勝負だ、なんてほざいた1分前の自分を呪いたいところだ。

 凛太郎がこちらの意図を読んだように叫んだ。

「させるかよ! 『水流円刃』!」

 今度は俺の左前腕に傷口を作った。激痛に思わず肺の空気を吐き出してしまう。とたんに胸が爆発しそうになった。このままでは溺れ死ぬか、切り殺されるか、二つにひとつだ。

 俺は完全に追い詰められ、どうにもならなくなった――

 だが、そのとき。

「あっ、てめえ!」

 凛太郎の怒声が聞こえたかと思うと、彼の体が落ちてきた。続いて水中に飛び込む影。それは立花のものだった。その手に握られているのは『波紋声音』だ。

 立花は魚のように泳ぎ、動かないでいる凛太郎の胸を刺し貫いた。湖中に紅色の花が咲く。俺はそれをよそに浮上し、何とか水中から脱出した。激しく水を吐き出す。

 たぶん立花は、時間経過で麻痺が解けて、『波紋声音』を使って凛太郎を麻痺させたのだ。周平はもう死んでいるから、『波紋声音』の支配者はいない――ということだろう。凛太郎は放っておいても溺死しただろうが、立花は許さなかったらしい。

 俺は新鮮な空気を肺に取り込むと、二階堂さんのそばに駆け寄った。

「二階堂さん! しっかりしろ!」

「無駄だ。もう死んでいる」

 沈痛な声は、上がってきた立花のものだ。その事実を認められなくて、俺は彼女の冷え切った体を抱きしめた。そこに命の息吹はない。

「俺が……俺さえ関わらなければ、こんなことには……」

 涙があふれてあふれて止まらなかった。何で、何でこんなことに……

 号泣する俺を教師は叱咤(しった)した。

「そんなことは関係ない。人の死はいつも唐突にやってくるものだ。それが二階堂の場合、今日だったというだけのことだ。それともお前は、今まで関わりを持ってきた人間全員の死を自分のせいだと思うのか?」

 不器用ななぐさめ方だな、と頭の片隅で思いつつ、俺は二度と笑ったり怒ったりしてくれない二階堂さんを前に泣き続けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ