表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

47/93

046裏切り

(46)裏切り


 凛太郎がしゃがみこんで俺の視界に入ってきた。その手には『水流円刃』……

「まずは以前俺さまに『爆裂疾風』をくれやがったお前からだ、夏原。あばよ」

 切っ先が俺の喉に向けられる。もう駄目か……

「『水流……」

 と、そのときだった。二階堂さんの叫び声が聞こえたのだ。

「ふざけないでですわ、あなた方!」

 曲玉の光が右往左往する。乱闘の音が聞こえた。周平が、人間にここまでできるのかと思うほどの憎悪に満ちた怒声を放つ。

「貴様、どうして……! 僕の曲玉を返せ!」

 どうやら二階堂さんの昏倒(こんとう)は擬態だったらしかった。彼女は凛太郎と周平が裏切るものだと予想して、いつの間にか耳栓をつけていたのだ。そうか、だから髪の毛を普段の団子からストレートに変えていたのか。耳元を隠すために……

「やっぱり裏切りましたわね! この曲玉を壊されたくなかったら八尾刀を捨てなさい、ふたりとも。私は本気ですわよ!」

 二階堂さんの怒鳴り声が空間に反響する。どうやら『飛翔雷撃』の八尾刀を曲玉に突きつけているらしい。となると、たぶん地面にしゃがんで、曲玉を地面に置いたうえで脅しているのだろう。

 だが凛太郎は脅しに屈したりはしなかった。彼は二階堂さんに剣山のような声を叩きつける。

「もし曲玉を傷つけたら立花と夏原、そしてもちろんお前の命はないぞ。そっちこそ曲玉を返せ」

「耳栓してるからよく聞こえませんわ。わたくしの要求どおりにしなさい、早く!」

 硬質な音がした。周平が『波紋声音』の八尾刀を地面に捨てたらしい。優しい声で言った。

「分かった分かった、曲玉を返してくれないか。もう裏切りはやめるし、物騒なこといってる凛太郎も手なずけるから。ほら、凛太郎も」

 ナイトフォールのエリートは、舌打ちして仲間の指示に従った。俺の前から離れ、『水流円刃』を地べたに置く。孤軍奮闘の二階堂さんは、ようやくほっとひと息ついた。

「……もし今度裏切ったら承知しないですわよ」

 俺は声を出そうにも出せない。

「…………!」

 二階堂さん、気づけ! 凛太郎も周平もまともじゃない。こいつらはゲス中のゲスだ、約束なんて守るはずがないんだ。

 だが二階堂さんは周平に曲玉を渡してしまったらしい。彼女の声が聞こえた。

「さあ、渡しましたわよ。その八尾刀2本はわたくしが預かります。いいですね?」

 周平が冷たい声で、ひとことしゃべった。

「凛太郎」

 とたんに鈍い音がして、二階堂さんのうめき声が生じた。

「うっ……!」

 凛太郎が彼女に蹴りを見舞ったらしい。彼はすかさず支配下の八尾刀を手にした。

「『水流円刃』!」

「…………っ!」

 肉が寸断される異音。俺の背中に温かいものが付着する。見るまでもない、それは二階堂さんの鮮血だ。

 俺は視界の端で倒れこんだ彼女の横顔を見つめた。血へどを吐いて、真っ青になっている。凛太郎が『水流円刃』で二階堂さんを切り倒したのだ。ひどい出血で、たちまち地面に真紅が広がっていく。致命傷であることは疑いようもない。

 周平と凛太郎の大きな笑い声がこだまする。自分たちのしたことをまったく悪びれていない。俺の胸郭(きょうかく)が怒りに満ちた。

 よくも二階堂さんを……! 許せねえ……!

 俺は極限まで力を振り絞り、歯をがちがちいわせる。動け、この馬鹿な体……! どうにか手探りで八尾刀をつかむと、周平に向けてその名を呼んだ。

「『爆裂疾風』!」

「うげぇっ!」

 周平が最高レベルの爆風を受けて湖に落ちる。派手な水しぶきが上がった。『波紋声音』と曲玉が地面に転がる。凛太郎が驚愕していた。

「もう麻痺から立ち直ったってのか? 何て野郎だ」

 無理がたたって全身が痛いが、俺は立ち上がって『爆裂疾風』を構え、再び唱える。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ