045発見
(45)発見
『爆裂疾風』の刃は火傷しそうなぐらいに熱い。今まで多くの人間が探しに探した八尺瓊曲玉が、すぐ近くにあるという事実に、俺はすさまじい興奮と緊張を覚えた。早鐘を打つ心臓が痛いぐらいだ。
洞窟は美祢市の秋芳洞のような広がりを見せていた。一方で笠山風穴みたいな涼しさもある。
やがて――。俺たちは鍾乳洞の奥に薄緑色の光がともり、それが近づくにつれ増幅されていく不思議な光景に出くわした。
「曲玉か?」
俺のそんな問いに、立花が答えた。内心の興奮を隠し切れないでいる。
「曲玉が八尾刀に共鳴して光を放っているのに違いない。こいつは好都合だ」
彼はライターの火を消した。もう曲玉の光だけで探索が可能になっている。全員異常なテンションで、すでに曲玉の魅力にイカれたようになっていた。特に俺はひどかったが。
そして、とうとう俺たちは光源にたどり着いた。地底湖のような開けた場所がおそろしく明るい。どうやらここの湖底にあるみたいだ。まばゆい光を放っていた。
俺は中腰で水底を眺める。誰かが潜らないと取れないだろう。
「二階堂、ちょっと俺の『飛翔雷撃』を持ってろ」
立花は二階堂さんに自分の八尾刀を手渡す。そして上着と靴を脱ぐと、濡れるのも構わずに光る湖へ飛び込んだ。水しぶきが宙に舞う。6月とはいえ冷たいだろうに……
「おいおい、大丈夫かよ」
俺と二階堂さん、周平に凛太郎は、立花の潜水に目が釘付けだった。彼は水中で光源に触れると、勇敢にもそれを掴み取る。どうやら手に入れたらしかった。
源清麿の隠した宝は、1844年以来149年ぶりに、人類の手に戻ったのだ。
立花はずぶ濡れになりながら生還し、地底湖から上がった。すぐさま寄り集まった全員の前で、右の手の平を開く。そこには薄緑色に輝く曲玉があった。
それはめのう製らしく、まぶしいが暖かな、不思議な薄緑色の光を放っている。コの字に湾曲し、サイズは2センチ弱と極めて小さかった。頭に穴が開いており、紐を通せるように作られている。
立花が震えているのは、もちろん寒さのせいだけではなかった。
「ついに教団設立以来の宿願が果たされました。それを俺が成し遂げたことには恐怖すら覚えますが、ともかく長い旅は終わりました。さあ凱旋しましょう、村田さま、神田さま」
彼は珍しく微笑む。俺は自分の心音が加速するのを聞きながら、八尺瓊曲玉の綺麗な曲線、おごそかな雰囲気、そして柔らかく放つ光に感動していた。
きっとこの場にいる全員が同じ気持ちだろう……そう想像する。
そのときだった。
「『波紋声音』!」
周平の声が洞窟内に響いたと同時に、俺は全身から力が抜けてその場に倒れてしまう。立花も二階堂さんも崩れ落ちる音がした。周平と凛太郎の哄笑が空間に満ちる。
凛太郎はひとしきり笑うと、それでもまだ足りないとばかりにくっくと嘲笑した。
「馬鹿な奴らだ。詰めが甘いんだよ。曲玉は俺たちのものだ。龍覇のじいさんになんか渡してなるものかよ」
奴は俺の頭を踏みつけ、踏みにじる。そうされながら俺は悔しさで全身が破裂しそうだった。こいつ、いつの間にか耳栓してやがったか……
凛太郎は詰め物を取って、俺の目前に放り捨てる。周平は嫌味な笑いを隠そうともしなかった。
「立花、曲玉をわざわざ潜ってまで取ってきてくれてありがとう。さあ凛太郎、この3人の首を『水流円刃』で切り落とすんだ」
「おうよ」
俺はありったけの力をこめたが、まだほんの少しだけしか手足を動かせない。水の刃をかわす方法は皆無だった。
ちくしょう、何でこんな奴らを信じちまったんだ。俺はいいけど立花と二階堂さんが殺されるのはムカつく……!




