040曲玉探索
(40)曲玉探索
俺は4月29日――祝日『みどりの日』の早朝に、英語教師で八尾刀『飛翔雷撃』の所持者・立花慎二に呼び出されていた。萩駅にいつもの私服で行くと、ストレートロングの二階堂香澄さんとモヒカンの村田凛太郎、黒いわたがしの神田周平もきている。
凛太郎の顔が急速に曇り、あいさつ代わりの罵倒をしてきた。
「来たな、このくそったれ野郎が」
俺は応戦する。
「ありがとよ、その不細工なモヒカン頭を見ると、眠気がさめてちょうどいいんだ」
「何だとコラァ!」
セダンから降りてきた立花が割って入ってきた。
「やめろ、夏原。……どうもすみません、村田さま、神田さま。この馬鹿には後で厳しく注意しておきますので、どうかご機嫌をご損じられないように」
何だよ立花、カッコ悪いな。こんな高校生ふたりにヘイコラしやがって。でもこれによって、俺は確かに戦意をそがれた。無言でセダンの助手席に乗り込む。二階堂さんとタコ2名は後部座席に収まった。
立花が今日の目的を解説する――主に凛太郎と周平に。
「本日は佐々木小次郎の墓に向かいます。過去に調べた箇所でありますが、念には念を入れて、八尺瓊曲玉を探しましょう」
俺は目をしばたたいた。
「阿武町に行くのかよ。萩市はもういいのか?」
「頭にくるほど探し回ったが、曲玉はなかった」
彼は運転席に腰を下ろした。シートベルトをしめて車を発進させる。流れる景色をぼんやり見つつ、俺はふと、ふところにある『爆裂疾風』を上着の上から触った。
「ええと、確か近くに曲玉があると、八尾刀が熱くなるんだっけな」
「そうだ。曲玉探索の際は鞘に収めた八尾刀を懐中に収め、それが熱くなることを期待しながら散策するとよい」
「どれくらい熱くなるんだ?」
「鞘の上から人肌ぐらい、らしい」
もうひとつ質問があった。
「なあ立花、二階堂さんはどうしてついてきてるんだ? 八尾刀の支配者じゃないのに」
今日は団子頭ではない二階堂さんは、俺に直接答えてくる。
「わたくしは山城さまから借りた『放射火炎』を持っていますわ。この八尾刀は山城さまが支配者化なさっているため、わたくしには能力は使えません。ですが、持って歩くことだけなら自分にも可能ですわ。今日は無理をいって借りてきましたの」
なるほどね。
夕暮れになって立花の車に乗り込んだときは、もうへとへとだった。
曲玉は見つからなかった。小次郎の墓は骨のない遺髪墓で、静かな山の中にある。その周辺でめぼしい箇所を歩き回ったが、八尾刀が熱を持つことはついぞなかった。結局森林浴をしただけか。
「すみませんでした、村田さま、神田さま。お手数をおかけして、空振りに終わってしまって……」
凛太郎も周平も、ここでは偉ぶらなかった。
「まあ曲玉探索では毎度のことだからな」
「ないと分かるのも成果のうちだからね」
俺は改めて源清麿の書き付けの写しを見る――立花から現代語訳版を借りたのだ。しかし、ヒントとなるような文句は一切見つからなかった。
書いてあることといえば、『真実の瞳』を飲み込んで心身ともに奮い立ち、八尾刀を生み出したこと。それらは『真実の瞳』に共鳴して熱を持つこと。そして江戸へ戻る際、なぜか『真実の瞳』を吐き出して隠したこと……
俺はたそがれを走る車に揺られながら、助手席にだらしなく座ってため息をつく。
「しかしそもそも、何で清麿は八尺瓊曲玉を『真実の瞳』なんて表したんだ?」
立花がハンドルを微調整しながら答えた。
「おそらく曲玉が人間の瞳に似ていたからだろう。俺は見たことないがな」
「やれやれ目玉みたいなもんを探してるのかよ、俺たち」
俺は呆れ返る。結局本日は無為な一日に終わった。これを11年間やってきたのか、ナイトフォールは……。まあ一日に8人しか動けないんだから、しょうがないんだろうけどさ。




