表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/93

004立花慎二

(4)立花慎二(たちばな・しんじ)


「へえ、与太(よた)中学の出なのか、上山は。あそこはだいぶ荒れてるって聞いてたけど」

 自転車置き場にBMXを停める。校舎に向けて並んで歩き出した。

「ああ、何かあればケンカしてたな。授業もほとんど聞いてなかったし。俺を含めて、生徒は全員馬鹿だった」

「それで(おさな)なじみの私が、それじゃ駄目だって勉強教えてあげて、どうにかこの六田高に(はい)れたってわけ」

「なるほどね」

 俺と上山、浜辺さんは、楽しくおしゃべりしながら1年B組に入った。しばらくすると、担任の葛西(かさい)が入室してくる。生徒たちがあわてて自分の席についた。また後でな、と上山は自分の席へ戻っていく。

「よーし出欠取るぞー!」

 葛西が自慢の大声を放っていった。

 名前を呼ばれた生徒が挙手して返事をする。そしてその流れで、俺は二階堂香澄さんが休みであることを知った。

 彼女はあの後無事に帰れたのだろうか。少し気になったが、何より小短刀を返しそびれて残念に思った。まあいい、時間はある。明日は来るだろう。


 やがて2時間目、英語の授業が始まった。

 教師の立花慎二は成熟した美男子で、おん年28歳。茶色い髪を後ろに撫でつけていて、すらりと背が高かった。鼻梁(びりょう)や唇のライン、こけた頬などは芸術家のものした彫像のようだ。

 彼は教壇(きょうだん)に両手をついた。生徒たちを見下ろし、ハスキーボイスで語る。

「高校3年間は短い。光陰(こういん)矢のごとしだ。俺はこの六田大付属に転任して1年になるが、貴重な時間を無駄に浪費する馬鹿どもを多数見てきた。知識か肉体、あるいはその両方を鍛え上げておけば、今後死ぬまで財産になるというのに、奴らは遊び呆けてその機会を棒に振っている。今後も振り続けるだろう。お前らはそうならないようにな」

 ん? 何だこの話。俺がはてなマークを頭の中に浮かべていると、彼はせき払いしてチョークを手にした。

「……ガラにもなかったな。では、授業を始める」

 隣の席の浜辺さんが、俺にこそっと話しかけてくる。

「あの立花先生、先輩の話では怜悧冷徹(れいりれいてつ)で氷のような人だって言われているのに、今日は珍しく生徒を気にかけたね。不思議だよ」

 何かあったのかな? 俺はうなずいて、立花の広い背中を眺めた。


 授業はとどこおりなく終わった。次は国語の授業だな。俺が準備していると、急に低いトーンで誰かに話しかけられる。見上げれば立花だった。

「お前は確か夏原姫英(なつばら・きえい)だな。少し聞きたいことがある。ちょっとついてこい」

「分かったっす」

 俺は席を立った。立花は廊下まで俺を誘導して振り返る。眼光がやけに鋭い。

「お前は昨夜、二階堂香澄と会っているな?」

 俺は少し悩んだ。あのとき現場には二階堂さんと酔っ払い、そして俺の3人しかいなかった。酔っ払いが立花と知り合いでない限り、二階堂さんが立花に昨晩のことを話したと考えるのが自然だ。彼女は「見なかったことにしてくださいませ!」といっていたが、そういうことなら立花に話しても大丈夫だろう。

「ああ、会ったよ」

 正直に答える。立花は首肯(しゅこう)して次の質問に移った。

「この程度の大きさの小刀を見なかったか? 木の鞘と白いプラスチックの(つか)なのだが」

 20センチから25センチほどの間隔で、両手を持ち上げる。俺の小短刀のことだ。

 俺はしかし、今度は嘘をついた。

「いや、知らないっすけど」

「そうか。ならいい」

 立花はそうつぶやくと、もう用はないとばかり、背を見せて歩み去っていった。淡白な人だ。

 俺は二階堂さんの落とし物について、立花に話す気にはなれなかった。なぜなら、もし俺がうなずけば、彼女が俺の目の前で小短刀を落とした事実が確定するからだ。

 二階堂さんと立花はつながっている。彼女が「落としたと思ったのは気のせいでした」と立花に報告し、軽いミスで済まされるには、俺が二階堂さんにこっそり小短刀を手渡す必要がある。そう判断したわけだ。

 それにしても、二階堂さんと立花のつながりって、何なんだろうな。教師と生徒以外の関係って、いったい……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ