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033入信A

(33)入信A


 中は畳敷きで、広さは10メートル四方はあった。その一面に並ぶ窓は白いスモーク入りで、柔らかな陽光を取り入れている。壁には袈裟を着た老人の写真がでかでかと飾ってあり、これが教団代表の勝間龍覇(かつま・りゅうは)だと思われた。奥の祭壇にはスサノオらしき偉丈夫(いじょうふ)の描かれた掛け軸がかけられている。入った場所には靴置きがあり、どうやらここは土足厳禁のようだ。

 そして、青いきらびやかな衣装――ナイトフォールの礼服なのだろう――を着込んだ30代とおぼしき男女の姿があった。女が郡川早苗で男が山城光輝だろう。並んで座っている。

 郡川はしっとり濡れたように光る髪の毛をストレートに垂らしていた。美しい切れ長の目に、鼻と唇が調和している。眉毛の角度のせいで、なんか怒っているように見えた。

 一方の山城は、豊富な黒髪で額を隠している。生真面目さがうかがえる両眼で、ほっそりした顔の輪郭は肥満を知らないかのようだ。まず美男子といっていいだろう。

 立花が「平伏しろ」と、俺の後頭部をつかんで無理やり頭を下げさせた。そして自身も低頭する。

 郡川はさきほどのヒステリックな態度はどこへやら、鷹揚(おうよう)に声をかけてきた。

「お久しぶりですね、立花さん。では、いつもの確認をしてからお上がりなさい」

 いつもの確認? 何のことだろうと思っていると、山城がトランシーバーのようなものを持って近づいてきた。立花が受け取り、俺にかざす。

「何やってんだ、立花」

「盗聴器の有無をチェックしてるのだ。お前は教団にちょっかいを出している私立探偵・新郷哲也(しんごう・てつや)と親しいのだからな。当然どころか念入りだ」

「はいはい、勝手に調べてくれよ」

 立花は俺の確認を終えると、機器を山城に渡し、今度は自分をチェックしてもらっていた。反応なし。これで俺たちは晴れて潔白というわけだ。

 俺は立花とともに、畳の真ん中へ進んだ。男女と向かい合って正座する。郡川は穏やかに俺を見つめた。

「あなたが例の少年、夏原姫英(なつばら・きえい)くんですね。ナイトフォールに入信するのなら、確かに『爆裂疾風』を無理に取り上げる必要はないでしょう。……今は持ってきていますね?」

「はい」

 俺は右袖からガムテープで包まれた八尾刀を取り出して、ふたりに見せる。とたんに郡川が激怒して立ち上がった。すさまじい形相である。

「ちょっと! 何なのよそのありさまは! 大切な八尾刀に何してくれてんのよ! こんのガキャ……!」

 俺を指差してそう怒号した。山城が彼女の袖を引っ張る。

「郡川さま。落ち着いてください。郡川さま」

 その声に彼女ははっとなった。そして照れ隠しだろう、しわぶきをして座り直す。顔が真っ赤だった。

「……失礼しました。その状態でも能力は使えるのですね?」

「はい、大丈夫です」

「分かりました」

 郡川は手を胸に当てた。俺がぼけっとしていると、立花が俺のわき腹を肘でつつく。俺はそれで気づいて、あわてて自分も胸に手を当てた。

「それでは夏原姫英くん。スサノオさまのご威光復活のために全身全霊を尽くすと誓いなさい。この萩市のどこかにあるという『真実の瞳』を探索するために、粉骨砕身(ふんこつさいしん)精励刻苦(せいれいこっく)すると約しなさい」

 宗教っぽくなってきたな。俺は内心辟易(へきえき)しつつ、誓う、約すと言上(ごんじょう)する。

「駄目ですね」

「え?」

「もっと本気に、真摯(しんし)になってください。うわべだけ取りつくろってもお見通しですよ」

 さすがに見ていた。俺は居住まいを正し、改めて応じる。

「誓います。約します」

「よろしい」

 郡川は微笑んだ。

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