031八尾刀の発見B
(31)八尾刀の発見B
宇部村の抗夫が『放射火炎』を威嚇目的で使ったのが、八尾刀の発見につながったのか。
「最初陸軍の兵士らは、抗夫がダイナマイトを投げてきたと勘違いして、発砲に至りました。しかしそうではなく、ひと振りの小短刀がなした業だと分かると、彼らは抗夫たちが持っていた八尾刀8本すべてを奪います。そして『放射火炎』を調べて、その脅威の能力に驚き、おののきましたの。これは神仏の霊験あらたかなるものだと、他の八尾刀に手をつきかねたのですわ」
まあ『放射火炎』を見て驚かない奴はいないだろう。神さまに直結させるかどうかは人によるけど。
「その後、8月19日に細野少将が宇部村に到着して、翌20日午後、暴動が平穏に帰したのを見届けると、すべての八尾刀を回収して司令部へ帰還します。この八尾刀の事実を秘匿するため、陸軍幹部は『坑夫がダイナマイトを投げてきたため発砲した』と事実を捏造し、『大阪朝日新聞』などに流布させたのですわ」
俺も麺を食べ終えてスープをすする。
「じゃあ八尾刀はそのあと陸軍で使用されたのか。何せすごい能力だもんな」
二階堂さんは首を振った。
「いいえ、その頃はまだ『八尾刀の支配者化』について誰も気がつきませんでしたわ。抗夫、陸軍兵士、細野少将が何度も試し使いしたため、結果八尾刀の支配者はばらつきました。個人がすべてを使うことはできなかったのです。細野少将はなぜ使える八尾刀とそうでないものがあるのか分かりませんでした。そこでやむを得ず、机の引き出し奥に8本すべてを厳重にしまうこととなったのです」
俺はお冷やを飲んだ。熱いスープのあとのこの一杯がたまらないんだよな。それはともかく。
「何でだよ、こんな能力があるって見せびらかしたりしなかったのかよ、その少将さんは」
「そんなことしたら魔人だとして抹殺されてしまいますわ。特に昔は信心深かったんですから、日本人は」
彼女は膨れたおなかを撫でた。
「その細野少将は1935年2月22日、64歳で亡くなりましたわ。彼は亡くなる直前、八尾刀を軍医の谷中理さまに託します。谷中さまは支配者化しないよう気をつけながら、八尾刀の能力を試しましたの。そしてかのお方はそれをきっかけに、打ち捨てられていた真の八尺瓊曲玉――『神の瞳』に関する各種文献を単独調査し始めるのです。それらが真実を語っていたことに、ただひとり気がついて……」
ここでちょうどチャイムが鳴った。俺は二階堂さんとともにトレイとどんぶりを返却しに行く。
「八尾刀にも歴史があるんだな。それで結局これらを鍛造した奴は誰なんだ? そいつはどうやってこんなすげえ代物を作ったんだ?」
二階堂さんは小型のシャワーで器を洗う。俺もそれにならった。
「さあ、わたくしが存じ上げているのはここまでです。後は今度ナイトフォールの萩市本部へ行かれるのですから、そこでわたくしより位の高いお方にお尋ねになればよろしいでしょう」
俺たちは『返却場』と書かれた場所にどんぶりを置いた。
「そうか。ありがとな、いろいろ教えてくれて。さすがは可愛い二階堂ちゃん」
俺はそうおどけてみせる。彼女はジト目でこちらを凝視した。
「ほめても何も出ませんわよ。それよりわたくしのことを馴れ馴れしくちゃん付けで呼ばないでほしいですわね。二階堂さまとお呼びなさい、二階堂さまと」
俺は取り合わなかった。
「いいじゃん二階堂ちゃんで。それとも下の名前のほうがいいかな? 香澄ちゃん」
「くだらないことをおっしゃってないで、帰りますわよ、1年B組へ」
俺と二階堂さんは、満腹で廊下を歩いていった。




