030八尾刀の発見A
(30)八尾刀の発見A
「よっ、二階堂さん」
俺はまたまた二階堂香澄さんの隣に座った。今日はお互いチャーシュー麺だ。昼休みの学食は混雑するというほどでもなく、適度に騒々しかった。上山と浜辺さんは基本学食ではなく、弁当派なのだ。ゆえに俺は今日もひとり学食というわけである。
彼女は俺ににらみをきかせた。暗赤色の長髪を団子にしていて、顔立ちは欧州の外国人風。肌の色が抜けるように白い。いつもの可愛い二階堂さん。
「何のようですの?」
あれ、どうやら俺が入信したことを知らないみたいだ。俺は親指を立てて自分を指した。彼女に白い歯を見せる。
「二階堂さん、俺もナイトフォールの信者になったんだぜ。立花から聞いてないのか?」
「ぶっ」
彼女は仰天してせき込んだ。俺はあわててその背中をさすってやる。
「大丈夫かよ、二階堂さん」
彼女は自分のお冷やを飲み下して、ようやく落ち着いたみたいだった。涙を浮かべてこっちを見やる。
「本当ですの? 立花先生の意地悪……。教えてくださらなかったわ、あの人」
「まあ、まだ教団の萩市本部へは行ってないし、仮入部ならぬ仮入信だからな」
「いったいぜんたい、どうしてそうなったのですか?」
俺は経緯を話す。立花に勧誘されたこと。条件つきでイエスと答えたこと。今度本拠地へ上がって実際に仲間入りを果たすこと……
二階堂さんは最後まで聞いて、どうやら納得したようだった。改めてチャーシュー麺に取り組む。
「もとはといえばわたくしのミスから始まったこと。それは謝罪します。……でも、そんな着地の仕方をしていたとは存じませんでしたわ」
俺もチャーシュー麺に挑んだ。少し伸びてしまっている。しかし相変わらずうまかった。
麺をすすりながら、彼女に尋ねる。
「この前俺を攻撃してきた凛太郎と周平は、暮野とかいう高校に通ってるんだろ? そこにも『真実の瞳』が隠されてる可能性があるのか?」
二階堂さんは、最後まで取っておいたチャーシューをほおばった。幸せそうだ。
「そのとおりですわ。ナイトフォールの代表である勝間龍覇さまの親戚である谷中理さまは、八尾刀の実在から『真実の瞳』の存在を信じましたの。そして、それが埋められたとされる場所――どんな文書にも断定的な話はなくて、あくまで可能性があるという話ですが――山口県萩市、すなわちこの街を探し回ったそうです。1935年のことですわ。結局見つからず、今にまで至っているのですが。ナイトフォールは亡くなられた谷中さまの悲願を成就するべく立ち上げられた宗教法人なのですわ」
俺はあきれた。
「1935年? つったら昭和10年だろ。そんな前から探してたのかよ。……つか、八尾刀のほうはその頃にはすでに見つかっていたんだな」
二階堂さんはどんぶりを傾けて汁を飲み下す。完食したようで、置いた器には見事に何もなかった。
「ええ。1918年――大正7年8月17日、山口県厚狭郡宇部村――現在の山口県宇部市ですわね。ここ萩市、当時は萩町からは南南西にある、瀬戸内海周防灘に面した街です――そこで起きた炭鉱騒動をきっかけに、炭鉱の奥底から発見されたのですわ」
何だ、てっきり萩市にあったのかと思ってた。
「坑夫たちの米騒動による暴動に対し、細野辰雄少将――山口衛戍司令官で第21旅団長――は山口歩兵第42連隊に出動命令をくだしました。その結果、発砲などで13人の死者と多数の負傷者を出して暴動は鎮圧されたのですが……。この際坑夫たちの一人が威嚇のために用いたのが『放射火炎』の八尾刀でしたの」




