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026決意

(26)決意


「まあその話は枕だ。何にせよ、今日お前を呼び出したのはほかでもない」

 そう語ったおっさんは、週刊誌の切り抜きを俺の前に差し出した。端に加えられている日付は、1987年の7月4日。今から約6年前だ。

 そこには『国民元首党の衆議院議員・加賀谷浩輔(かがや・こうすけ)氏が交通事故で死去』と書かれていた。俺は記事を読み進める。

 何でも加賀谷議員は、ナイトフォールの萩市本部を私用で訪問した後、公用でオープン前の『道の駅萩往還公園』を視察しようとしたらしい。だがそこへ向かうべく公用車に乗り込もうとしたところ、なぜか道路に飛び出して、4トントラックにはねられたという。即死だったらしい。遺書もなく、また思い悩んでいたようすもなかったことから、警察は事故として処理した……

 ふむふむ、なるほど。俺は先回りした。

「これもナイトフォールの仕業(しわざ)だっていいたいんだな?」

 新郷はティッシュで口の周りをふいている。出来のいい生徒に片目をつぶってみせた。

「ご名答。この加賀谷議員もナイトフォールの闇に手を突っ込んでいた一人だ。ナイトフォール幹部による、信者への霊感商法を告発しようとしていた――と、昨日になって分かった。内通者が調べてくれたんだ。お前のじいさんである夏原寛治の不可解な死の1ヶ月前になる」

 唯がクリームソーダを飲み干した。グラスを下げにきた店員に、ついでにクリームパフェを頼む。太りそうで太らない体質なんだろうな、うらやましい。

 それをよそに、新郷は自身の見解に間違いがあるわけがないとばかり、生真面目に語った。

「お前さんのいうとおり、俺はこれも龍覇の悪行だと考えている。八尾刀の中に、加賀谷を道路に突き出した能力を持つものがあるはずだ。『爆裂疾風』ではないだろう。目撃者は、加賀谷がいつの間にか道路に出ていた、と証言しているからな」

 俺はウィンナーコーヒーのホイップクリームをスプーンですくって、口に運んだ。それほど甘くなかった。新郷は完食したスパゲッティの皿が下げられると、両肘をテーブルについて俺と視線を交錯させる。

「連中は――ナイトフォールは、龍覇の実力と政財界へのパイプでがっちり守られている。だがその実態は反社会的勢力だといっていい。誰かがその闇を暴き、制裁を加える必要があるだろう。俺もいっかいの探偵としては()が過ぎているが、その役目をになってもいいと考えている。死んだ弟の武のためにも、死に物狂いでな。で、ついては相談なんだが――」

 彼は口説くように言った。

「夏原、その『爆裂疾風』の力を俺に貸してくれないか。一緒に教団を瓦解させよう。教団に家族を殺された、似たもの同士として……」

 真剣な瞳には目力があり、俺は少し圧倒された。そして、今までのらりくらりしていた新郷が、実際にはこういう熱い側面がある――というか、それを隠していたことに新鮮な驚きを感じていた。

 教団ナイトフォールを破滅に追いやる。かなりの難事業だし、そう簡単にはいかないだろう。最悪、じいちゃんや武さんのように殺されるかもしれない。

 だが、おそれをなして逃げることはできなかった。おっさんの熱い気持ちにほだされたからかもしれない。何より、じいちゃんの遺志を無視することはできなかった。

 俺は「今すぐってわけにはいかないけれど――」と前置きしつつ、はっきり口にした。

「分かったよ。俺もじいちゃんの死を不可解に思っていたし、それが今なら何らかの八尾刀の力と分かる。あんたのいう(かたき)討ちって奴に協力するよ」

「そうか!」

 新郷は喜色満面で、改めて俺と握手する。

「これで契約成立だな。これからよろしくな、相棒。お祝いに、今日は俺がおごってやる」

 金払わせる気だったのかよ。

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