表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/93

023勧誘

(23)勧誘


「じゃあな夏原」

「じゃあね、夏原くん」

 上山と浜辺さんのカップルは、俺に手を振って退室した。その後、大泉部長が立花と二言三言打ち合わせして、やはり退出する。

 夕暮れの教室は俺と立花のふたりきりになった。彼は俺に指示して適当な椅子に座らせると、自身も対面して着席する。長い足を組んだ。

「で、どうする?」

 そう問いかけてくる。といわれても、何が何やら……。俺が不得要領で黙ると、立花は詳しく語る必要を感じたらしかった。

「お前がそのまま『爆裂疾風』を所持し続けて、ずっとナイトフォールに命を狙われるか。それとも教団に入信し、その一員として活動して命を拾うか。問題はふたつにひとつだ」

 そして仕切りなおし、とばかりに繰り返す。

「どうする?」

 俺は唖然(あぜん)とした。こっちにしてみれば、ナイトフォールに入信するなんて道は考えもしなかったのだ。新興宗教。新郷の弟さんを殺した可能性のある教団。凛太郎と周平を使って、俺を殺害しようとした組織……

 と、ここで初めて、俺はあることに気がつく。思わず口走った。

「そういえば、ナイトフォールってどんな宗教なんだっけ?」

 今までそのことに、まるで意識がいかなかった。これは失態だ。せめて新郷のおっさんに聞いておくべきだった。

 一方、そうと知った立花は2回だけまばたきする。そしてオールバックの髪を撫でると、俺へのレクチャーを始めた。

「簡潔に言おう。ナイトフォールは11年前の1982年6月、元参議院議員勝間龍覇(かつま・りゅうは)さまが立ち上げた新興宗教だ。建速須佐之男命たけはやすさのおのみことさま、通称スサノオさまを主祭神として信仰している」

 スサノオ?

須佐(すさ)町の名前の由来になった神さまだよな?」

「そうだ。『出雲国風土記(いずものくにふどき)』以外の風土記がほとんど焚書(ふんしょ)で消失してしまったため、伝承によるがな」

「それを信仰してるのか?」

「もちろんだ。スサノオさまは厄除け・病難除け・五穀豊穣・開運など、さまざまなご利益(りやく)があるからな」

 ずいぶんと庶民的なご利益だな。彼は足を組み直す。

「教団代表の龍覇さまは、スサノオさまの力を信仰せよと語っておられる。そして、真の八尺瓊曲玉(やさかにのまがたま)を探索し発見することを至上命題としておられる」

 俺は耳になじみある単語に引っかかった。

曲玉(まがたま)は確か三種の神器(じんぎ)のひとつじゃなかったっけ」

「そのとおりだ」

 三種の神器。草薙(くさなぎ)の剣、八尺瓊曲玉、八咫鏡(やたのかがみ)。皇位の証として代々受け継がれてきた三つの秘宝。

「『真の』八尺瓊曲玉? まるで皇居の『剣璽(けんじ)の間』に置かれてる曲玉が偽物みたいな言い方だな」

「それ以外に取りようがないと思うがな」

 立花はいたって真面目だ。俺は少しうそ寒いものを感じた。

「その真の曲玉が『真実の瞳』というやつか」

 彼は軽く目を見張り、うなずいた。

「二階堂から聞いたのか。そう、究極の宝物(ほうもつ)『真実の瞳』はこの萩市かその近郊か、どこかに隠されている。古文書によればな。それを八尾刀を得たものが探索しているのが現状だ。すなわち、いまだ発見できていない」

 八尾刀を得たものが探索? どういうことだろう。

「今、教団の信者は全国で500人程度だ。しかし寄進も多く、また龍覇さまが政財界に太いパイプを持っておられることで、運営面はまったく問題ない」

 まるでそれが安心感を与えてくれるかのように話す。

「どうだ夏原、我々と手を組もうじゃないか。お前が入信すれば、お前を殺す必要もなくなって万事丸く収まる。一緒に『真実の瞳』を探そう」

 立花は困惑する俺に対し、薄く微笑した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ