018戦闘B
(18)戦闘B
ひどい耳鳴りの向こうで、二人の敵――周平と凛太郎の会話が聞こえる。まるで屋台で景品を当てた子供のように、彼らは無邪気な笑みを含んでいた。勝利宣言ともいえる。
『水流円刃』の凛太郎がこぼした。
「耳栓は外して……と。まったく周平、お前の能力のせいで毎回耳栓をつけなきゃいけねえのは何とかならねえのか?」
『波紋声音』の周平が応じる。
「ふふっ、そういいながらも毎回つけてくれるのは、さすがナイトフォールのエリートだよ、凛太郎」
「おうよ! 俺はエリート中のエリートだからな。がはははっ!」
ナイトフォール? 二階堂さんが入信していて、八尾刀を所持している、あの新興宗教の……!? こいつらもその一員なのか……!
俺は歯軋りしながら、どうにか手足を動かそうとした。だがそれはまったくといっていいほど無駄な努力に終わった。視界に入っていないが、おそらく新郷のおっさんも麻痺して倒れているに違いない。
凛太郎が俺の横顔を踏みつけた。屈辱的だった。
「さすがに周平の『波紋声音』を食らったらどうにもならねえだろ。鼓膜に『波紋声音』の声を受けると、全身の感覚が一時的に麻痺するんだ。どうだ夏原姫英。聞こえてるか? 今どういう気分だ? がははは、愉快愉快!」
俺のことを知っている? なら、やはり向井先輩は俺をおびき出すための餌として使われたのか。そのことは結構ショックだった。俺のせいで、向井先輩は……
凛太郎の足が離れる。彼は目の前にしゃがみこみ、俺の髪の毛を引っつかんだ。
「冥土のみやげに教えてやるよ、色男」
周平が鋭く発する。
「凛太郎、よくない癖だぞ。さっさと『水流円刃』で首をはねてしまうんだ」
「うるせえな、いいだろ」
凛太郎は相棒の忠告にも耳を貸さず、うたうように語りだした。まるで美声の歌手のトークのように。
「俺らはナイトフォールの選ばれし信者、エリートなんだ。今はここからそう離れていない暮野高校に通学している。昨日、六田高の二階堂香澄がナイトフォール幹部に厳しく尋問されてな。夏原姫英が『爆裂疾風』を持っていることと、その弱点は憧れの人の向井渚だろうということを白状した。黒猫のマスコットキーホルダーとは、しゃれたプレゼントじゃねえか」
二階堂さんが? そうか、俺が向井先輩に贈り物をしたとき、彼女はそれを見ていたのか。すべてはバレバレだったわけだ。
「また、夏原がすでに『爆裂疾風』の支配者と化しているであろうことも、な。『支配者化』って分かるか? 同じ八尾刀を数回使うと、他のものはその八尾刀の能力が使えなくなるんだ。面倒な支配者化だが、こいつは支配者たる人間を殺害すれば解消される。だから夏原、お前は死ね」
髪の毛を離す。俺は床に頬をぶつけた。痛みを感じたことから、感覚が戻りつつあることに気がついた。だが全快までにはほど遠い。
「とっとと殺すつもりのところ、さっきは反撃されちまった。だが今のお前は動けまい。安心しろ、お前を殺して元通りになった『爆裂疾風』を回収したら、この渚って女は生かしておいてやるからよ。道路で捕らえて喫茶店に連れ込んだが、その際八尾刀で少し傷つけちまった。ま、どうでもいいけどな、こんな女」
こんな女、だと? この野郎……! 向井先輩を負傷させて、侮辱して、何の反省もない。ふざけやがって……
「凛太郎、もういい加減にするんだ」
「ああ、分かったよ。それじゃお待ちかねだ夏原。今真っ二つにしてやるぜ」
俺は死の危険に、何とか体を動かそうとした。だが、まだどうにも力が入らない。状態は回復しつつある。あるが、立ち上がれるところまでは到底いかなかった。
このままでは、あの『水流円刃』をまともに食らって殺されてしまう……!




