表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/93

015支配者化

(15)支配者化


 家に帰り着いたのは真夜中の12時だった。見れば自宅の玄関前に親父とお袋が立っている。待っていてくれたのだ。こちらのライトの明かりに気がついたか、走り寄ってきた。

姫英(きえい)!」

 ふたりは泣いて喜び、俺に抱きついてくる。てっきり怒髪天を()叱責(しっせき)を叩きつけられると覚悟していただけに、これは俺にも予想外だった。

 しかし両親にすがりつかれて号泣されるうち、俺も何だか泣けてきた。このふたりの子供として生まれてきてよかったな……。素直にそう思えた。


「それで、いったい今までどこで何してたんだ?」

 ようやくひと息ついて、親父はそう尋ねてきた。当然の質問だ。俺はBMXの鍵をかけて、玄関から中に入る。考えていた嘘を、なるべく自然な感じで口にした。罪悪感が無形の針となって胸をつつく。

「ちょっと友達の家に家出してたんだ。親父もお袋も、俺の性同一性障害にあまり理解を示してくれないからな。それが気に食わなかったんだ」

 言っててつらかった。母が驚きを隠せず否定する。

「そんなことないわよ」

 父も困惑しながら続いた。

「俺も母さんも、お前を大切に思ってるんだぞ、姫英」

 俺はどうにかして良心の痛みを振り切り、話を打ち切る。ぶっきらぼうに言った。

「ああ、ああ、分かったよ。それより腹が減った。飯くれよ、飯」

 二日ぶりの我が家がとても懐かしい。親父は俺の髪をくしゃくしゃと撫でた。

「とにかく二度と家出なんて真似はしないでくれよ。あとで警察の人にも一緒に謝らなくちゃな」

 お袋がレンジで料理を温め始める。なんと妹の(ひかり)も起きていた。キッチンでこちらをジト目で眺めている。


 飯を食って風呂に入って寝巻きに着替えた俺は、自分の部屋のベッドに寝転がった。毛布を引きかぶり、睡眠を楽しもうとする。

 が、そこでドアがノックされた。「入っていい?」と、これは光の声だ。

「いいぜ」

「あのさぁ」

 入室するなり、光は怒りを含んだ声を飛ばしてくる。

「お兄ちゃん、家出なんて嘘、あたしには通じないよ。本当のこと教えて。実際にはどこかに監禁されていたとかじゃないの?」

 ずばり言い当てられて、俺は動揺した。そのしぐさを妹は見逃さない。

「やっぱり」


 話を聞けば、光は最近の俺が、何か家族にもいえないような隠し事をしている、と疑っていたらしい。察しのいい彼女に降参し、「まあな」と認めた。

 そして、いろいろあったここ数日のことをつぶさに話した。最後に小短刀を見せる。

「これがその八尾刀ってやつ?」

 光は自分も使ってみたいと、『爆裂疾風』を手にした。俺は少しあわてる。

「おい、使うんなら空に向けろ。くれぐれもこの室内で名前を唱えるなよ。かなり危ない代物(しろもの)なんだからな」

 俺は窓を開けて外を指差した。二人で窓から手を伸ばす。

「いいか光、その刃の切っ先を空に向けるんだ。そして唱えろ、『爆裂疾風』と……。反動に気をつけろよ」

「面白そう! じゃあやるね。『爆裂疾風』!」

 空白。何も起きなかった。

「あれ? 『爆裂疾風』! 『爆裂疾風』!」

 しかし、光が何度叫んでも爆風は出ない。俺を監禁した新郷哲也やその助手である唯のように。

「おっかしいな。貸してみろ」

 俺は刀身を取り上げ、自分でやってみた。

「『爆裂疾風』!」

 すると爆風が飛び出て電線を揺らし、俺は反動でひっくり返った。光はまばたきし、ついでふくれた。

「何で? ずるい! 『爆裂疾風』の力、お兄ちゃんしか使えないじゃん!」

「どうもそうみてえだな……」

 そういえば二階堂さんは、「たぶんもう、支配者化してしまっているでしょうし……」と語っていた。

 この刃を何度も使ううちに、能力が自分に固定された――自分専用になった、ってことか? それが『支配者化』ということか……?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ