013接点
(13)接点
目覚めると、俺は木の椅子に座った姿勢で、縄で縛りつけられていた。目の前には椅子を逆向きにしてまたがっている新郷哲也。
「どうやら目が覚めたようだな」
何がどうなってるんだ……。俺は手探りで記憶をたどった。その結果、俺は眠り薬をかがされて意識を奪われ、彼らに拉致されたのだと気がついた。
周囲を見渡せば、窓も何もなく、不気味なほどに静かだ。蛍光灯の明かりがしらじらしい。
俺は早速抗議した。じゃっかんの気おくれをごまかすべく、大声で怒鳴りながら。
「ふざけんな。私立探偵がこんな真似していいのかよ。犯罪だろうが!」
しかし新郷は意に介さなかった。
「人に爆風を食らわせといてよく言うな」
俺は、あれは事故みたいなものだ、といいかけてやめる。
「唯、あれを見せてやれ」
俺に薬物のしみた布をあてがってきた女――唯は、にっこり笑って何かをつまみ上げた。
「手荒な真似してごめんなさい。どうしてもこれが欲しかったの」
ガムテープでぐるぐる巻きにされた、俺の『爆裂疾風』の刀身。俺は怒髪天を衝く。
「返しやがれ! それは俺のもんだ!」
俺の強い反発に対し、新郷はのんびり煙草に火をつけた。あくまで余裕らしい。
「こんな真似をしてまでお前さんをさらったのは、それ以外に方法がないと踏んだからだ。とりあえずお前さんには詳しい話を聞かせてやるから、まあ怒りなさんな」
なだめるような口ぶりだった。おっさんはまず『爆裂疾風』について解説した。
「それは能力を秘めた八尾刀だ。全部で八本あるうちのひとつ、というのが内通者からの情報だ。柄が壊れたのか知らんが、白いプラスチック製のものに作り変えられていたがな」
紫煙をくゆらせる。
「お前さんも知っているだろう、最近世田谷区で老人が斬殺された事件を」
ああ、ニュースで見た記憶がある。
「その遺体は真っ二つだったと興信所仲間が言っていた……」
え? それは知らなかった。ただ斬られたとだけしか報じられていなかったはずだ。
「俺はそれも八尾刀を使った殺人だと思っている。この世には超常現象で死ぬ人間が多い。真っ二つになったり、人体自然発火で焼け死んだり、何かにおびえて逃げ出して、建物から飛び降りて死んだりとかな。このうち二つはすでにお前さんが知る方法で起こされている」
何……? まさか。
「人体自然発火は『放射火炎』、建物からの飛び降りは『爆裂疾風』だとでもいいたいのか?」
「察しがいいな、そのとおりだ。八尾刀はそうした超常現象を起こす能力を秘めている。不可解な現象による死亡事例が、政治系団体の幹部に集中しているという事実からも、それらが効果的な殺人に使われている可能性がある。何せ証拠が残らないからな。少なくとも、俺の弟の新郷武はそう考えた。だからあいつは、八尾刀を秘蔵する新興宗教『ナイトフォール』に迫ったんだ」
俺はあっとなった。上山が俺に解説した新興宗教ナイトフォール。その信者らしい二階堂さん。彼女が所持していた『放射火炎』と『爆裂疾風』……。そうか、すべては繋がるのか。
新郷は煙草をうまそうに吸う。下の床はコンクリート製らしく、完全に灰皿代わりと化していた。
「あの八尾刀は定期的に持ち主を変更しているのだという。俺は内通者から今回の運搬役を二階堂香澄が行なうと知り、その通行ルートで待ち伏せした。酒を飲んだのは寒かったからだが……少し飲みすぎちまうのが俺の悪い癖だ。そこに通りかかったのがお前さんだったというわけだ」
ただの酔っ払いではなかったわけか。
「ともかく、弟はやはり超常現象で死んだ。ナイトフォールに殺されたと見て間違いあるまい。出来損ないの兄貴である俺が、優秀で人望厚く、優しかった弟の仇を討つ。そういうことだ」
おっさんはそう締めくくり、煙草を捨てて足元で踏み消した。




