011刃亜怒B
(11)刃亜怒B
暴走族のリーダーである貝塚や、ほかの7名があっけに取られていた。まあ、そりゃそうか。俺は連中とは無関係なんだからな。
それにしても、スキンヘッドやらこん棒などの得物やら、俺はリアルな暴力集団を前に、少しだけビビっていた。さっきから心臓が早鐘を打ち、額に汗が浮かぶ。できることなら関わりたくなかった。しかしここまで来て帰るわけにもいかない。
貝塚が気を取り直したように拡声器でほえた。
「おい上山、何だその優男は?」
上山は俺の肩をつかんで前に出ようとする。
「夏原、こいつは俺の問題だ。引っ込んでいてくれ」
「そうはいくかよ」
「頼む」
上山は必死な瞳を俺に向けてきた。それが懸命に訴えている――お前をケガさせたくはない、と。そんな目をされたら、俺は余計に突っぱねるしかないのに。
気づけば恐怖は薄れかけていた。足元から闘志が湧きあがってくる。
そのとき原付が一台、こちらへ猛スピードで突進してきた。
「ええい、まとめてぶっ殺してやる!」
後ろの男が金属バットを振ってくる。
「危ない!」
上山が俺を突き飛ばした。彼のわき腹にバットがめりこむ。
「うぐっ!」
「上山!」
俺の身代わりになった彼は、ごろごろと土ぼこりを上げて転がった。殴られた箇所を押さえて苦しげにうめく。
「ヒット! ぎゃはははっ! ろっ骨にヒビでも入ったかなぁ?」
『刃亜怒』の面々が愉快げに大笑いした。その耳障りな声が、俺をキレさせる。よくもやりやがったな……!
「『刃亜怒』だか『弩馬鹿』だか知らねえが、俺が一人でやってやる!」
俺は八尾刀の刀身が入った右腕を掲げた。暴走族たちに向けて怒声を放つ。
「食らえ! 『爆裂疾風』!」
次の瞬間、連中8名はバイクもろとも、10メートルほど吹っ飛んだ。爆風の大砲は、その最大出力をゲスどもにかましたのだ。
「ぎゃあっ!」
「ぐえっ!」
「うごおぉっ!」
突風の衝撃による激痛で、彼らは全員ダウンした。校舎の見物人から驚きの声が上がる。
俺は一転、いい気分になった。これだ、この圧倒的な力。これこそ俺が望んでいたものだ……!
だがボスの貝塚はタフだった。直撃を食らったのに、顔をしかめつつ起き上がる。歯軋りしたため、前歯が欠けているのが確認された。
「この野郎、妙な術を使いやがる。だがこれならどうだ!」
バイクを立て直してまたがった彼は、ロープを手に俺へと疾走してくる。懲りないやつだ。俺は再び『爆裂疾風』を使おうと、右腕を持ち上げた。
だが、それより先に奴の投げたロープが、俺の首をとらえる。俺は引っ張り倒され、校庭を引きずり回された。
「…………っ!」
摩擦による痛みと、喉を絞められる苦しみで、俺は悶絶寸前だ。当然だが、声を出せなければ『爆裂疾風』は使えない。意識がもうろうとしてくる。
ここまでか……
だがそこで、バイク上の貝塚へ飛び蹴りを食らわせるものがいた。上山だ。あるじを失ったバイクが横転し、猛牛のようにのた打ち回る。
俺は首のロープを外すと、上山の肩を借りて立ち上がった。そして慌てふためく貝塚へ、今度こそ『爆裂疾風』!
「がはぁっ!」
頑丈な貝塚も2度目のこれを食らっては、さすがに効いたらしい。彼は校庭へ大の字に倒れこんだ。
俺たちの勝ちだった。校舎から歓声と拍手が降り注いでくる。
俺は上山とともに校庭を後にした。昇降口に戻ると、怖くて傍観していた小酒井教頭に、ケンカへ応じたことをとがめられる。
「なんてことをしてくれたんだ!」
そこへ杉山校長が割って入ってきた。
「まあまあ、教頭先生。そうお怒りなら、今まで何をしていらしたので?」
「ぐっ……。それはですな……」
そこでようやくパトカーが到着した。校長は俺たちをかばってくれて、バイクに乗った暴走族たちは、突然発生した竜巻に飲み込まれて壊滅したと警察に伝えたらしい。
こうして貝塚たち『刃亜怒』は病院やら警察署やらへ運ばれ、一件は落着した。
1年B組に戻った俺たちは、興奮したクラスメイトたちから質問攻めに遭う。
「お前あの不思議な技は何だったんだよ?」
「気功ってやつか?」
「引きずられて怪我してないか?」
その中で、二階堂さんがジト目でこちらをにらんでいた。
「夏原くん、話がありますわ」
すっかり忘れてた……




