true snow~大切な君へ~
大切な人が遠くへ行ってしまう。
そんな時、あなたは何が出来ますか?
高校2年生の間宮咲輝には同い年の彼、菊地悠人がいる。
二人が付き合って8カ月が経とうとしていた。
-ある土曜日の午後。
咲輝「ぅわぁー寒ぅ。雪でも降りそうな感じだねぇ。」
悠人「もう12月だもんなぁ、そりゃぁ寒くもなるさ。」
二人は人通りの少なくショッピングモールを手を繋ぎながら歩いていた。
悠人「そんなに寒いならマフラー巻いてやるよ。」
悠人は自分の巻いていたマフラーの半分を咲輝に巻き付けた。
一つのマフラーを二人で巻いているのでかなりの密着状態になった。
咲輝「いいよぉ。恥ずかしいじゃん。」
悠人「誰も見てないから大丈夫だ。」
咲輝「…ぅん。」
咲輝はちょっと照れながらマフラーの端をいじいじ。
咲輝「あっ!」
咲輝はジュエリーショップのショーウィンドウに目をやった。
悠人「ぅお!」
咲輝が急に動いたのでマフラーで首が締まりそうになった。
悠人「…なんだぁ、どうした??」
咲輝「これかわいい!欲しいなぁ。」
咲輝が見ていたのは、シルバーとピンクのリングが2つ付いたネックレスだった。
リングには名前が刻めるらしい。
咲輝「はぅ~。」
咲輝の目がハートになっている。
悠人「買ってやらないこともない。」
すると咲輝は嬉しそうに。
咲輝「買ってくれるのぉ??」
悠人「ん~。」 鼻で返事した。 二人は店の中に入っていった。
咲輝「ゆう、なんか顔色悪いょ。」
悠人「そうか?まぁ、大丈夫だ。」
店内にはブランドの服やバッグ、アクセサリーなどが沢山売られている。
が、咲輝は他のものには目もくれず、お気に入りのネックレスのところに飛んでいった。咲「これ欲しい!」
\5800円
悠人『ぅ…高ぃ。』
少し顔を引き釣って。悠人「まぁ、いぃ。買ってやるょ。」
咲輝「わ~ぃ、ありがとう。 すいませ~ん、これくださ~い。」店員「はい。5800円になります。リングに名前は刻まれますか?」
咲輝「はい、お願いします。」
店員「どのようになさいますか?」
咲輝「ぅ~ん。ゆう、どうする?」
悠人「普通に"悠人"と"咲輝"でいいんじゃね?」
咲輝「うん! すいませ~ん。ローマ字でピンクの方にSAKIでシルバーにYUTOでお願いします。」
悠人「って聞いてねぇし。」
店員さんの作業が終わり、悠人はネックレスのお金を払っていた。
咲輝「ゆうに何か買って貰うの初めてだょね。」
悠人「買ってるだろ。アイスとかジュース。」
咲輝「そうじゃなくてさ…。」
店員「こちら商品になります。」
咲輝「はい。」
店員「ありがとうございました。」
ネックレスを受け取り、二人は店を出た。
悠人「…っ!」
店を出てすぐ、悠人はその場にガクッと座り込んだ。
咲輝「ゆう?」
悠人「ガハッ!」
悠人は血を吐いた。手のひらにはべっとり血が付いている。
咲輝「えっ!?どうしたの!大丈夫!?
誰かー。すいませーん!」
その声で2、3人の人が駆けつけてきた。
悠人はぐったりして、店の壁に寄り掛かっている。
咲輝「き、救急車お願いします!」
駆けつけた人の1人が救急車を呼んでくれたおかげで、5分ほどで救急車が着いた。
悠人は二人係りで担架に乗せられた。
咲輝も付き添いとして救急車に乗った。
咲輝「ゆう、しっかりしてょ。」
外はパラパラと雪が降り始めていた。
-市内病院。
悠人が集中治療室に入って1時間が経とうとしていた。
咲輝の連絡を受け、悠人の母、雅美が駆けつけていた。
咲輝はまだ状況が飲み込めず震えている。
咲輝「ゆう、大丈夫でしょうか。」
雅美「大丈夫ょ。きっと。」
その10分後。
治療中のランプが消え、治療室から主治医が出てきた。
咲輝「ぁ…。」雅美は思わず立ち上がり、医師に駆け寄った。
雅美「息子は、悠人は大丈夫なんですか?」
すると医師は重い口を開いた。
医師「調べてみたところ、息子さんは白血病にかかっていることがわかりました。」
雅美「白血病って…。そんな急に。 ちゃんと治るんですよね?」
医師「今はなんとも…。」
すると咲輝がぼそりと。
咲輝「…そういえば。」雅美は咲輝の方を振り替える。
雅美「どうしたの?さきちゃん。」
咲輝「ゆう、ここ最近ずっと具合悪そうにしてて。いつも話している時、無理してる感じだったんですよね。」 雅美「そうだったの…。ありがとう言ってくれて。」
咲輝「ごめんなさい。もっと早く言っておけばよかったんですよね…。」
咲輝は泣きそうになっている。
雅美「いいのよ、もう。」
と咲輝の肩を揺する。咲輝「ごめんなさい。」すると咲輝は立ち上がり。
咲輝「先生!ゆうを助けてください!」
医師「私どもも全力を尽くします。 今、息子さんの骨髄を調べております。骨髄移植をすれば息子さんは助かりますが、その為には新しい骨髄を移植する必要があります。」
咲輝「じゃぁ、私の骨髄をゆうにあげます!!」
医師「骨髄の型が合わなければ移植はできません。」
医師「なので念のため、お母さまには検査を受けて頂きます。」
雅美「はい。」
医師「娘さんもお願い致します。」
咲輝「ぁ、私は… 彼女です。」
医師「そうでしたか。検査の結果は明日までには出ますので、その時にまたお話し致します。」
咲輝と雅美は治療室に入り、骨髄の検査を受けた。
医師「お疲れ様でした。今日は悠人君も絶対安静にしていなければならないので、今日のところは帰られてゆっくりお休みになってください。」
咲輝・雅美「はい。」
咲輝と雅美は同士に返事した。
雅美「先生、本当悠人をお願いします。」
咲輝「お願いします!」 咲輝と雅美は医師にお辞儀をし、病院を跡にした。
気付けば時刻は、夜の11時を回っていた。
-次の日、日曜日。
午前10時。
咲輝は悠人のために、お見舞いの果物や飲み物を持ち、病院を訪れていた。
咲輝「ゅ…。菊地 悠人のお見舞いに来ました。」
看護師「菊地 悠人さんですね? 3階の309号室になります。」 咲輝「ありがとうございます。」
看護師に言われた通り、エレベーターに乗り、悠人のいる309号室を目指した。
咲輝「あった。309号室。」
咲輝は病室のドアをノックした。
コンコン!
悠人「はい。」
悠人の声が聞こえたので、咲輝は病室のドアを開け、室内を覗き込んだ。
咲輝「…ゆう?」
悠人「さきか?入っていいぞ。」
病室に入りドアを閉めた。
咲輝「えへへ。来ちゃった。」
室内は暖房・冷房など設備の整った個室だった。洗面台やテレビもある。
咲輝「へぇ~、こういう部屋なんだぁ。一人暮らしみたい。」
悠人「なんだよそれ。」悠人はベッドにあぐらをかいて座っている。ベッドの脇には点滴がぶら下がっていて、隣のテーブルの花瓶にはスミレが差してある。 咲輝「お母さんも来てたの?」
と言いながら咲輝は椅子に座る。
悠人「ああ。さっき帰ったけどな。」
悠人が元気そうに話しているので咲輝はホッとした。
しばし沈黙。
咲輝は悠人に尋ねた。咲輝「…ねぇ、どうして黙ってたの? 病気こと。」
悠人「体が悪いのはわかっていたけど、白血病だなんて知らなかったんだ。 それに言ったらさきが心配すると思ったから…。」
すると咲輝は悲しそうな顔で、
咲輝「するよ! だって私…、ゆうの彼女だもん。 言ってくれない方が…もっと心配になるょ…。」
大切に思える人がこんなに近くにいるという幸せを、悠人は実感した。
悠人「…ごめんな。」
申し訳なさそうに悠人は謝った。
咲輝「…ごめんね。なんか、こんな暗い話するつもりなかったんだけど。」
悠人「さき…。」
咲輝は明るく振る舞い、話題を切り替えた。咲輝「あ、そうだ。」
と、咲輝は着ていたブラウスの第一・第二ボタンを外し始めた。
悠人『えっ…、なに?』
咲輝は首に下げていたネックレスを悠人に見せた。
咲輝「ほら。これ昨日ゆうに買ってもら―。って、あぁ!ゆう今ちょっとえっちなこと期待したでしょ?!」
悠人「べ、別にそんなこと…。」
図星だ。
咲輝「うそ~。だってゆうえっちなこと考える時、目ぇ細めるもん。」
悠人「そうなのか!? 知らなかった。」
咲輝には悠人のことはなんでもお見通しだ。咲輝「そうだよぉ。
このネックレス…。大事にするね。」
悠人「あぁ、似合ってんじゃん。」
咲輝「ありがと。」
咲輝はにっこり笑った。
咲輝「…ふわぁ。」
咲輝は手で口を抑え、あくびをした。
悠人「なんだ?寝てないのか?」
咲輝「寝れる訳ないじゃん。ゆうのこと心配だもん。」
悠人「そうか…。」
すると悠人は何も言わず、ベッドをポンポンと叩いた。
すると咲輝も、悠人が何を言いたいのかがわかっているかのように、ベッドに入ってきた。悠人「寝ていいぞ。」
咲輝「うん。」
-時刻は午後6時。
あれからどれだけ寝ていたのだろう。
咲輝は悠人の咳込む音で目が覚めた。
それどころか、悠人は息も荒く、ぜいぜい言っている。
咲輝「…ゆう?」
見ると悠人は血を吐いて苦しそうにしていた。
咲輝「ゆう?! 待ってて今看護師さん呼ぶから!」
咲輝はナースコールに手を伸ばし、マイクに向かって叫んだ。
咲輝「ゆうが血を吐いて苦しんでます!すぐ来てください!!」
そして咲輝は悠人の背中をさすった。
咲輝「すぐ看護師さん来るからね!しっかり!」
すると、悠人の主治医と看護師が駆け付けた。
医師「すぐ治療室に運びます。」
看護師「はい。」
悠人は担架に乗せられた。 咲輝はそれをただ見ているしかなかった。
咲輝が待合室で待っていると。
医師「咲輝さん。少々お時間頂けますか?」
咲輝「あ、はい。」
医師「ありがとうございます。 実は、悠人君の骨髄のことなんですが。 悠人君の骨髄の型はとても珍しい種類のもので、咲輝さんと悠人君のお母さまの骨髄が両方とも一致してなかったのです。」咲輝「それってまさか…。」
医師「はい。骨髄が合わなければ移植出来ません。他の人の骨髄を調べたとしても、見つかる確率は低いでしょう。」
医師「悠人君に骨髄が移植出来なければ、悠人君は助かりません。このままでは悠人君は、持ってあと1週間でしょう…。」
医師の言っていることが、咲輝は信じられなかった。咲輝「そんな!ゆう、まだ高校生ですよ?!
なのに、あと1週間だなんて。」
医師「私もつらいのですが、骨髄がなければどうしようもないのです。」
すると咲輝はいきなり立ち上がり、待合室を飛び出した。
医師「咲輝さん!」
止めようとしたが、そこにはもう咲輝の姿はなかった。
咲輝が病室に戻るとベッドの周りは、半透明のビニールのカーテンで覆われていた。
咲輝「ゆう?」
するとカーテンの前に立っていた看護師が、 看護師「感染を防ぐため、中に入る際は白衣とマスクを着用して頂きます。」
咲輝「……はい。」
看護師に言われた通り、咲輝は白衣に着替え、カーテンの中に入った。悠人「さき……。」
元気はなかったが意識ははっきりしていた。咲輝「ゆう、良かった…。」
悠人「ごめんな…。迷惑掛けて。」
咲輝「…謝んないでょ。私は大丈夫だから…。」 咲輝は隣にあった椅子に座った。
咲輝「ゆう?もうすぐクリスマスだょ? 何処か遊びに行きたいね。」
悠人「…そうだな。
なぁ、さきはサンタが本当にいたら、なんてお願いする?」
悠人は元気のない声で尋ねた。
咲輝「ゆうの病気が早く治りますように…。ゆうはどうする?」悠人「これからもずっと…さきと一緒にいられますように。」
『持ってあと1週間でしょう。』
医師の言葉が咲輝の脳裏を過った。
悠人「さき?」
咲輝の目からは涙が流れていた。
咲輝「…ごめん。嬉しくて。」
どんなに足掻いても変えられない事実が、目の前に迫っていたから。
それから悠人は、話す元気もなくなり、衰弱していった。
-1週間後、24日。 咲輝がどんなに話し掛けても、悠人は何も答えない。
咲輝「ゆう?今日クリスマスだょ?何処か遊びに行きたいなぁ。」
咲輝は悠人の手を握っている。
だが悠人の手は、握っていないとすぐ離れてしまいそうなぐらい力がない。
咲輝「見てぇ。雪だょ。こういうのホワイトクリスマスって言うんだょね?」すると悠人の手は、微力ながら咲輝の手を握り返した。
咲輝「ゆう?」
だがそれは一瞬の出来事だった。
心電図が平らになり、室内にピーという電子音が流れた。
その途端、咲輝はこれまでの悲しみを一気に出し切るかのように泣き崩れた。
咲輝『ゆう?私、幸せだったょ。』
最後の悠人の力は、咲輝に「ありがとう」と言っていたのかも知れない。
大切な、あなたに…。
-fin-