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暁に立つ吸血姫  作者: 澪亜
第一章 過去編
7/54

吸血姫は、苛つく

4話連続投稿します

私は大人、私は大人、私は大人……と、何度も自身に言い聞かせるように、心の中で繰り返す。

私生活は、ノックスとの婚約で幸せいっぱいだ。

一緒に暮らすのは先のまた先の話で、今まで通り実家住まい。

けれども会う度に、この人と婚約したんだな、と心が弾む。

共にいると、今まで以上に幸せを感じる。


けれども残念なことに、学園生活は灰色。

むしろ、黒色か。

机の中を見れば、教科書が細切れになっていた。


……一体、何度目か。地味にイライラする。

それで、私は大人……と、何度も心の中で呟いている、という訳だ。


実際、私は前世の記憶がある分、同学年の子たちよりも精神年齢は上だ。

その「おかげ」と言うべきか、その「せい」と言うべきか、大人のプライドとして、手を出したら子どもに負けという気持ちがある。


加えて真祖の自分だと、どんなに手加減しても相手に大怪我を負わせる可能性が高い、と冷静に考えてしまう始末。

……特に最近は、年々力が高まっていて、とてもじゃないが良い塩梅に力加減ができない。

昔、魔法授業の後で拳で語り合ったことがあったが、あれは力が高まる前だからこそできたこと。


「アウローラさん?」


先生に声をかけられて、我に返った。


「教科書の三十二ページを読んで下さい」


「教科書がないので、読めません」


「あら、忘れたの? それじゃ、イデルさん」


イデルという子の朗読を聞きながら、再び考えに没頭する。

誰が犯人なのか。

こそこそ隠れて嫌がらせ……本当に、陰湿だ。

直接喧嘩を売る度胸がないからこそ、なのだろうが。


「最後に、この前の小テストを返します」


いつの間に授業が終わったのやら、先生が一人ずつテスト用紙を返していた。


「アウローラさん、満点です。流石ですね」


「ありがとうございます」


素直に礼を言って、受け取った。

先生が全員分を配り終えたところで丁度授業の時間が終わり、先生はそのまま去って行った。


「真祖だからって、贔屓されているんじゃない?」


「えー、それってズルい」


「でも確かに、教科書も持たないような不真面目な人が満点って、できすぎだよね」


先生が去った後、三人の声が聞こえてきた。

一人は、イデルの声だ。

内緒話にしては、大き過ぎる声量。

……あえて、私に聞かせているのか。

それとも、身体能力が高いからこそ、よく聞こえるのか。

そんなくだらない事を考えるのは、気を紛らわせるためだろう。

もう一度、深く溜息を吐いた。


「……学校、面倒」


家に帰ると、何故か既にノックスがいた。


「……分かる」


苦笑と共に、彼も言葉を吐き捨てた。


「校舎を壊しちゃダメかな。今の力なら、何度か殴れば粉々にできそうな気がする」


「壊しても、直せるよ」


「時間とお金をかければ、ね」


「少なくとも、金を出すのは自分になるかな」


「あ、それは無理ね」


もう一度、溜息を吐いた。


「それに、校舎を壊したら……名前、何だっけ。学校の友だち。カナル? サエル? と会う機会が、なくなるよ」


「カルエ、ね。別に学校でしか会えないわけじゃないし、そもそも最近、私の周りが騒がしいから、学校ではあまり接触しないようにしているのよ」


「へえ……」


「そういえば、今度の休みにカルエとパイを作る約束していたんだ」


ふと、ノックスの視線を感じた。


「……どうしたの? ジッと顔を見て。何か、私の顔に付いている?」


「否、スゴいなと思って」


「スゴい? え、パイを作ること?」


純粋に質問したのに、彼には冗談に聞こえたらしく、笑い出した。


「ちゃんと人付き合いをしてる」


「ちゃんと、かどうかは分からないけど……」


「してるよ。友だちができた、と聞かされた時には驚いた」


「……そんなに人見知りに見える?」


「いやいや、周りから化物と思われている中で友達ができるなんて、純粋にスゴいと思う。拳で語り合った事件の時も、何がどうなったのか拳で語り合った相手方と、いつのまにか交流を持っていたし」


前世の知識と真祖というアドバンテージのおかげで、学校で学ぶことは殆どない。

だからこそ、人脈を作らなければ、何のために学校に行くの? となってしまう。

それ故に、人脈作りに力を入れてきたのは事実。


「僕はダメだ。頑張ろうと思うほど、周りに興味が持てない」


「ノックスらしいけどね」


「だろう? まあ……今は上手くいってなかったとしても、これまでの頑張りが消える訳じゃない。だから、胸を張っていなよ」


「……ねえ、ノックス」


「ん?」


「ありがとう」


そう言って、彼にくっついた。


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