吸血姫は溜息を吐く
……どうしよう。
何だか、すごい睨み付けられているんだけど。
執行官の目的は、建前上は業務の補佐。
だけど、私は領主の仕事をほぼしていない。
つまり補佐して貰う業務がないから、彼女の仕事もない。
領主の監視目的もあるだろうけど、私のこのやる気のなさを監視してどうするんだ……と素直に思う。
だからこそ、彼女には『彼女の忠誠心は立派だけど……(彼女のキャリアを考えれば、)彼女がここにいることは無駄。早く帰った方が彼女の身の為になる』と言ったのに……何故、睨まれているのだろうか。
そもそもこの領地の成り立ちを考えれば、監視する必要性もないだろうに。
「貴女がここにいても、(貴女にとって)意味がないのよ。王都に早く戻りなさい」
もう一度伝えてみたけれども、やっぱり睨み返された。
……そんなに王さまの命令が大切なのか。いや、普通は大切か。
私は、深く溜息を吐いた。
「それでもここにいたいと言うのであれば、好きにして頂戴」
「分かりました。滞在の許可、ありがとうございます」
「……チェル。彼女の部屋を整えてあげて」
「アウローラ様。宜しかったのですか?」
「……彼女が滞在すること? 別に良いわよ。隠すものなんて何もないし、彼女がそこまで残りたいのであれば。ただし、(私の平穏の)邪魔はしないで欲しいわ」
「畏まりました。よくよく彼女には目を光らせておきます」
「あら、そう? チェルが見ていてくれるのであれば、安心ね」
チェルが見守ってくれるのであれば、彼女も時期に慣れるだろう。
立ち上がり、軽く体を伸ばした。
「チェル。着替えたいわ」
「はい。準備はできておりますので、お手数ですが部屋にお戻りいただけますでしょうか」
「ええ。今日は動かないから、なるべくゆったりした服が良いのだけど」
今日『は』というよりも、今日『も』動かないのだけど。
「畏まりました」
けれどもチェルもルフェも特段そこにツッコミを入れることはなかった。
「ああ……私が支度をしている間、ルフェは彼女に案内をしてあげて。この家と、あとは家の周りも」
「分かりました」
「それじゃあ、後はよろしく。チェル、行くわよ」
「はい」
私は彼女に背を向けて、自室へと戻って行った。




