吸血姫は、別れを惜しむ
その夜、私はエルマとカミルに会うために、騎士たちが逗留している天幕に向かった。
王を含め彼らは街の施設を使わず、街の外れで野営をしている。
街外れに到着すると、幾つがある天幕の内の一つに案内された。
「アウローラ!」
二人は私が姿を見せるなり、慌てて近づいて来た。
天幕の中は私たちだけだけど、周りには幾人もの騎士たちが見張っている。
……私が、二人を連れ出さないように。
二人に、王との契約を話した。
「……ごめん。私たちが、騎士に捕まったから」
話し終えた後、いの一番にエルマが悲しげに言った。
憎まれ、罵倒されることを想像していたのに。
まさかの反応に、一瞬言葉が詰まる。
「二人は悪くない。むしろ、私がちゃんと二人を守っていなかったから……!」
「……いやー、まさか王様がそんなことをするなんて、誰も想像しないだろう。アウローラは悪くないよ」
「……何で、怒らないの? 責めないの?」
「それは、私たちの台詞よ。だって、アウローラ……私たちが捕まったせいで、封印を二百年維持しなければならなくなったんでしょう? それって、ノックスと二百年会えないってことでしょう……?」
……私の話を聞いている間、二人は泣きそうだった。
それは、人質となることを悲観してのことだと思っていたのに……まさか、私の心配をしてくれていたのか。
「……それこそ、二人のせいじゃない。私の甘さが招いた結果だよ。元々封印を解くのは、先にしようと思っていたから……それが、少し延びただけ」
「ごめん……アウローラ……」
ポロポロと、エルマが涙を流した。
私、彼女のことを泣かせてばかりだ。
「謝るのは私の方だよ。どうして、責めないの? 王都に連れて行かれるのを、私は阻止できなかった。丁寧に扱うよう契約させたけど、人質のようなものだよ」
涙を拭いながら、問いかける。
「それこそ、心配いらないよ。元々、こんな事件が起きなければ、夢のために王都に行く予定だったし」
彼女の代わりに、彼がカラリと笑って言った。
「カミルの言う通りよ。衣食住は保障されるみたいだし、何より私たちじゃツテがなくて絶対に入れないような店に、それぞれ弟子入りさせて貰うことが決まったの。むしろラッキー、って感じよ」
彼の言葉に続くように、再び溢れた涙を拭い顔を上げた彼女が言葉を紡ぐ。
「そうだな。……それより、俺たちが気になっていたのは、別のこと。街がこんなんで、これから手を取り合って頑張ろう! ってなったのに、俺たちだけ街を出て夢を叶えて良いのかってこと」
「それは……そもそも、契約のせいだから」
「ほら、また『せい』って言った。俺たちにとっては、『おかげ』だから」
「アウローラ。私たちのことは、心配しないで。直接的に復興の力になれないのは、後ろめたいけど、王都に行くことで、間接的にでも役立つなら本望よ。夢も叶えられそうだし、ね。……それより、貴女は貴女の心配をして。封印をしている間、体調が悪いんでしょう?」
「……気づいていたの?」
「何年、友達をやっていると思うの。……封印は精神的にも肉体的にも、貴女の負担になるのでしょう? 貴女の近くで、貴女の助けになれないことだけが心残りなの」
「……有難う」
「手紙、書くからな。それに、もし、王都に来ることがあれば寄ってくれ」
責められるどころか、終始、心配される始末。
二人の優しさに甘えるのはよくないと思いつつも、今の私にとっての拠り所は彼らだけで……だからこそ、甘えてしまった。
「あ、アウローラ。時間、大丈夫か?」
「ええ」
「それなら、もう少し話さないか? 明日、王都に向けて出発するみたいだし、三人で思い出話で盛り上がろうぜ」
その日、私は天幕に泊まった。
けれども眠ることはなく、三人でいつまでも思い出を語り合ったのだった。




