吸血姫は、倒れる
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「……アウローラ、お疲れ! 助かった」
最前線で、同じく魔物と戦っていたダンに、声をかけられる。
「………」
「……おい、アウローラ?」
何も返さない私に、ダンは心配げな視線を向けた。
「アウローラさん! ダン! ありがとうございました」
バタバタとエイシャルが駆け寄ってくる。
「おい、エイシャル。自分の身も守れねえのに、何で来ちまったんだ。お前が倒れたら、街がどうなる?」
「私に何かあったとしても、ヴァズやシオンがいますし……何より、ノックスさんとアウローラさんもいますからね。それより臨時の代表として、しっかりと終わりを見届けた方が良いかと……」
ダンと会話をしたいたエイシャルも、私の様子が変だということに気がついたらしい。
言葉を切って、心配げに私を伺い見る。
「……暫く、魔物は襲って来ない」
「……どういうことだ? それより、お前、大丈夫か?」
「……魔王は封じた。ノックスを犠牲にして」
私の言葉に、二人は大きく目を見開いた。
「……疲れた。寝させて」
それ以上言葉を紡ぐこともできず、私はふらふらになりながら家に帰る。
家に入った瞬間、顔が歪んだ。
……ダメだ。
いたるところに残る、彼の匂い。
目を閉じれば、彼の姿が瞼の裏に映る。
……ここは、彼との思い出が多過ぎた。
ここに、いたくない。
ううん、ここにいたい。
相反する気持ちが、頭の中でぶつかり合う。
痛い。苦しい。
処理しきれない感情を吐き出したくて、自然と涙が溢れた。
玄関先から、一歩も動けなかった。
前にも、後ろにも進めなくて。
ふらり、視界が歪む。
そのまま私は、その場に倒れ込んだ。




