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暁に立つ吸血姫  作者: 澪亜
第一章 過去編
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吸血姫は手伝う

家の裏には、四方形のそこそこ広い畑。

ノックスは手慣れた手つきで、徐々に水を与えていく。

ふと、小さな水溜まりに自身の姿がチラリと見えた。


「さっきから苛ついてるけど、何かあった?」


「……どうして、分かったの?」


「水面を見て、顰めっ面してた」


「あー……。外見が変われば、もう少し穏やかに暮らせるのかな、って」


里の人たちは皆、灰色の髪。

そして瞳は真紅以外の何色か。

……それは、人の血が混じった吸血鬼という証。


それに対して、黒髪・真紅の瞳は純粋な吸血鬼の証。

真祖、とも呼ばれる化け物だ。


真祖は、遠い昔に滅んでいる。

永遠とも言える長過ぎる寿命、街一つは簡単に消滅させる魔力。

山をも砕く怪力、半身が吹き飛ばされようとも問題がないほどの回復力……最早この里ですら、御伽噺にしか出てこない存在だ。


混血の末裔の中で、私とノックスはその真祖として生まれた。

普通に考えれば、ありえない。

僅かであろうとも、確かに人の血が混じっているのだから。

あり得ないはずなのに、何故かそう生まれついてしまった。

姿形だけではなく、伝承の通りの力を持って。


私の父と母は、生まれたばかりの私を見て泣き伏したそうだ。

永遠ともいえる永い刻を生きる真祖と、僅か百数十年を生きる混血の吸血鬼。


それはつまり、確実に皆の死を見届けることになる。

積み重なる哀しみに、どれだけの人が心を保つことができるのだろうか……と。

……まあ、真祖の力を恐れられているから、親しくなる以前の問題だけど。


「家族とか、ノックスの家の人たちとか……私のことを理解してくれる人が、いる。何より、ノックスがいてくれる。だから、寂しくはないよ。ただ、視線が煩わしかったり、無闇矢鱈に突っ掛かられることがあるから、面倒だなと思うだけ」


もしノックスがいなければ、私は完全に孤立していただろう。

ノックスも、私が生まれた時には大変な喜びようだったらしい。

その時のノックスの気持ちは、私もよく分かる。

自分と同じ存在は、何よりも心強いものだから。


ふと、ノックスが苦笑した。


「……急にそんなこと言い出したってことは、学校で何かあった?」


「……正解」


里の子どもたちに魔法や勉強を教える場が、学校だ。

七歳以上の子どもは、強制的に通っている。

私も、今年から通い始めていた。


「魔法実技でね、先生が私は端で見学していなさいって指示をしたのよね」


「それは仕方ない。万が一暴発した時、アウローラの魔力を受け止めることができるのは、僕以外誰もいないだろう。逆に、僕らは教わらずとも魔法は使えるから、授業に参加すること自体、無意味だろ?」


真祖は、生まれた時から、基本的な魔法を使える。

呼吸の仕方を教わらずとも当然のように呼吸ができるように、私たち教わらずとも魔法を自由自在に操れる。


「それはそうよ。問題は、その後。私ばかりどうして贔屓するんですかって、クラス内で他の生徒から質問と嫌味の嵐よ」


「あー……それ、僕も通った道だ。結局、どうしたの?」


「授業中は先生が必死に宥めてたわよ。授業の後まで引っ付いて嫌味を言ってきた奴らには、キッチリと拳で語り合ってきたわ」


「僕も全く同じことをしたよ。懐かしい」


「鬱陶しいのよね、本当に。他人と見た目の特徴が違うことって、子どもからすれば良い攻撃材料。一々取り合っていたら面倒だし、拳で語り合うにも力加減が難しいし」


「他人を区別したがるのは、子どもだけじゃなくて、大人もだろ」


「嬉しくない訂正をありがとう。大きくなっても、現状は変わらないってことね」


「そもそも、必要ないと思っているけど。俺たちを化物として区別している奴らと一緒にいる必要、ある?」


彼の問いに、思わず目を瞬いた。


「……そうね。貴方さえいてくれれば、何も問題ないもの」


「光栄だよ」


ノックスはニコリと笑った。

……彼の周りに花が舞っていると錯覚するほどに、壮絶な色気を伴いながら。

その色気に当てられて、自然と顔に熱が集まる。


「さて、アウローラ。君の担当分まで水やり終わったよ」


「え、嘘。あれ、いつの間に……」


「さ、パイを食べに行こう。早く甘いものを食べて、嫌な気持ちを忘れるためにね」


「ありがとう、ノックス」


それから私たちは家に戻って、共にパイを食べた。

ノックスに話して気持ちがスッキリしたおかげなのか、労働後のパイは、とても美味しかった。



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