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暁に立つ吸血姫  作者: 澪亜
第一章 過去編
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吸血姫は、報せを聞く

遠くで、魔物の咆哮が聞こえてきた。


「……行けるか」


ノックスの問いに、戦いの前だと言うのに微笑む。


「当然」


どんどん魔物が近づいて来ていた。

ノックスが、土を隆起させる。

魔物たちの進路を邪魔するような、高い土の壁。

その壁を、魔法で駆け登る。

そして、眼下の魔物に向かって魔法を投げつけた。

轟音が響き渡る。

火と風の、複合魔法。

風が火を広範囲に届け、火が更なる風を呼ぶ。

広範囲に渡り、激しい炎が降り注いだ。


そうして私が魔物の先頭を殲滅したところで、ノックスが壁から飛び降りた。

彼の手には、血の大剣。

それを、壁以上の高さを誇る二足歩行の魔物に向けて振るった。

一匹目が倒れる前に、彼は次に狙いを定める。

そうして、次々と魔物を屠っていった。


私は壁の上から、彼の援護をする。

彼を襲い掛かろうとする魔物を、次々と光の矢で撃った。


「ノックス!」


私が叫ぶと、ノックスはすぐに手にある武器を、大剣から大鎌に変えた。

振るわれた鎌は、その最中に刃が何倍にも大きくなり、辺り一帯を切り崩す。

それでも残った一匹を、私が上から飛び降りつつ血の剣で斬り倒した。


「お疲れ様、ノックス」


「お疲れ、ローラ」


互いに魔法で血を落としつつ、労う。

……それにしても、魔物が全く減らない。

一体、どれだけの魔物が黄昏の森を徘徊しているのだか。


領都と街が魔法陣で繋がってから、私たちは調査の範囲を広げた。

その範囲は、ほぼ領内全域。

僅かに人が残っている地もあれば、全く誰もいなくなってしまった地もある。

生き残った人たちを集め保護し、やがてそれが小さな集落となっていった。

そうして、幾つもの集落が出来上がりつつあった。

集落は魔法陣で繋ぎ、魔物襲来の兆候があれば駆けつける。

今日も、そうして集落の一つに来ていた。


魔物を討伐し終えると、街に戻る。

街は、復興が大分進んでいた。

日夜、ガンツが街の人と共に作業を進めているおかげだろう。


「おー、二人も戻ったのか」


私たちが街の移動魔法陣を出た後、光と共に男女が魔法陣に現れた。

同郷のフィルとメラだ。

二人も私たちと同じく、魔物討伐で集落を訪れていたらしい。

二人は警備隊の生き残りで、元々私たちなんかより実戦経験が豊富だ。

二人の希望もあり、救援に行って貰っている。

他にも、彼らと同じく魔物討伐に赴く人もいれば、避難物資等を運ぶ、運び屋みたいなことをしている人もいる。

いずれにせよ、魔法陣を使い熟せるのは、同郷のメンバーだけ。

そのため、街の復興に携わる人以外は、あちこちを飛び回っているような状況だ。


「ああ。二人も、無事みたいだな」


「まあね。……魔物だけなら、私たちでも何とかなるわ」


「心強いよ。……だが逆に、収穫は無しということか」


「まあ、な。こっちは、魔物以外現れちゃいないよ。そっちは?」


集落にいる生き残った人たちの中からは、魔物を従える男の目撃情報があった。

当然、ヴラドだろう。

幾つもの街や村で目撃されており、人々は彼を魔物の王、魔王と呼んでいた。

……その目撃情報を辿ったけれども、残念ながら私たちは未だヴラドに遭遇できていない。

純粋に私たちから逃げているのか、それとも彼がどこかに向かっているのか。

一番問題なのは、彼の足跡すら途絶えたこと。

それ故に、地道に探すかない、といった状況だ。


「同じく、よ。……明日からはまた、黄昏の森の探索を再開するつもり」


「そうか……。まあ、頑張れよ。俺たちは、俺たちで出来ることをするから」


「助かるよ」


フィルとメラと別れた後、街役場に足を運ぶ。


「お帰りなさい、二人とも。少し話をしたいことがあるのですが、お時間は良いですか?」


私たちを出迎えたのは、エイシャルだった。

彼の提案に応諾すると、そのまま応接室に向かう。


「今回もご無事の帰還、何よりです。……首尾は?」


「次の襲撃まで、どれだけ間が開くかは何とも言えないが……辺り一帯の魔物は、討伐し終えた」


「そうですか。本当に、お疲れ様です」


「……何かあったのか?」


「実は、領都のサーシャから連絡がありました。王都で、政変が起きたようです」


「こんな時に政変か……気楽だな」


「こんな時だからこそ、でしょう。我先に逃げようとした王族や貴族たちを、末子の王子が粛清。その上で、討伐隊を編成し、援軍としてこの地に送って下さると」


「やっとか……」

「随分と腰が重いのね……」


私とノックスの言葉が重なる。


「否定はできません」


私たちの言葉に、エイシャルは苦笑を浮かべた。


「王都からの連絡によると、魔物の襲来は、この領地に留まらず、随分と王都近くまであったそうです」


「そうか……。ヴラドが領外に出ている可能性もあるな」


ポツリ、ノックスが呟く。


「そうね。……とは言え、落ち着きましょう。魔道具が完成するまでの間は、全方向一度に調査は無理よ。だから、まずは黄昏の森を改めましょう」


「ああ、そうだな」


「エイシャル。討伐隊が出陣するのは、具体的にはいつ?」


「一週間後、と伺っています」


「そう。鉢合わせないように気をつけた方が良いわね。ルートは?」


私たちが使う魔法には、広域殲滅系も多い。

万が一、魔物と討伐隊と私たち、三者が鉢合ったら最悪だ。

魔物を討伐しようとして、そのまま討伐隊にまで負傷させたら、目も当てられない。


エイシャルが、地図を使って説明してくれた。


「ありがとう。……皆にも共有しておくわ」


「よろしくお願いします」


それから、私たちは家に帰る。

街には新居が並び始め、その内の一宅を貰った。


「……やっと、出来た」


家に帰るなり部屋に篭ったノックスが、紙を片手にリビングに現れた。

渡されたその紙に、目を通す。


「うん。これだったら、大丈夫そうだけど……私の方で、もう少し効率化ができないか、考えても良い?」


「ああ。そうしてくれると助かる」


ノックスから紙を預かり、術式と向き合った。

今作ってるのは、探査用の魔道具。

魔道具そのものを飛ばして映像を撮り、それをそのまま別の魔道具で映し出す仕組み。


幾つもの行程があるため、術式の規模は大きい。

そして、それ故の粗さがあった。

今のままでも、道具は起動できるだろう。

けれども、スムーズに動くかは話が別。

その粗さを解消できないかと、術式と睨み合う。


それにしても全く新しい術式を、それもこんな大規模なそれを、僅か数日で作り上げるとは……。

本当に、流石ノックスだ。

昔から凄いと思っていたけれども、里で店を立ち上げてから、その才能がより凄まじいものになったと思う。


この魔道具は、勿論、ヴラドを探すためのものだ。

あちこち回って探すのはそろそろ限界、ということで数日前からノックスと開発に着手した。

領外に出た可能性を考えると、まさにこの魔道具の出番だ。


ノックスの書いた術式の上から、一部の式を書き換える。


「こっちを直したから、ここも修正して……と。でもそうすると、こっちの式と反発するわね……」


つい、独り言が漏れた。

考え事をしている時のクセ。

口で言葉にした方が、頭の中で考えるだけよりも、考えが纏まるような気がする。


そうしてウンウンと唸っていると、いつの間にか空の色が明るくなっていた。

それ以上の検討は断念して、ベッドに入る。

幾ら体が頑丈とは言え、寝ずに魔物討伐に出かけることは、できるだけ避けたい。

少し目が覚めたのか無意識なのか、私がベッドに入ると、ノックスが私を抱きしめた。

その心地良い温かさに委ねながら、私もすぐに意識を落とした。

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