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暁に立つ吸血姫  作者: 澪亜
第一章 過去編
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吸血姫は、闘う

「……ローラ! 右から三体魔物が来る!」


「了解!」


その日も、ノックスと共にヴラドを探しがてら他の街の状況を調査していた。

王都に繋がる街道沿いを歩いていたら、突然魔物に襲われて今に至る。


ヴラドに言われた通り、私たちは圧倒的に実戦経験が足りない。

けれども連日大量の魔物に襲われているおかげで、随分と対魔物だけは急速に経験を積んでいる。


「……新手の気配は、ないな」


「そうね」


魔物を討伐し終えて、ホッと息を吐いた。


「……にしても、酷いわね」


目の前に広がる光景に、思わず顔を顰める。

ここは、五つ先の村。

けれども建物は破壊尽くされ、生きている人はいない。

故郷の姿と、全く同じ。

かつての自分だったら、この光景を前に戻していただろう。

嫌な慣れだけど、どこもかしこも同じような光景で、感情が麻痺していた。


「ここも、ダメか。一体、どこまで被害が広がっているんだ……」


ノックスは、表情を曇らせた。

やるせない気持ちを抱えたまま、街に戻る。


「ノックスさん、アウローラさん、お帰りなさい」


街に戻った時、出迎えてくれたのは意外にもシオンだった。


「……シオン。どうかしたのか?」


「上下水道の計画で、ご相談したいことが」


シオンは、私たちを警戒して近づかなかった。

けれども今はヴァズ同様、度々私たちのところに相談をしに来る。


「俺たちに、というよりガンツに相談した方が良いだろう?」


ガンツは、私たちと同郷。

つまり、吸血鬼の生き残りだ。

そして里では、建築を生業にしていた人物。

里に住んでいた頃、彼とは上下水道の導入事業を共同で行ったことがある。

いつもの私の思いつきを実現すべく、けれども工事のノウハウが一切なかったので、彼を巻き込んだ。

そして工事に関する計画や作業は彼に任せ、工事に必要な道具や水を浄化する道具等々をノックスと私で開発し、一気に実現させた。

……結局、導入が成功してすぐに、里は壊滅してしまったが。


今回、この街にも上下水道を導入する予定だ。

水を汲みに井戸や川まで行かなくても良くなるし、何より汚水による伝染病を防ぐ期待もできる。

資材は転がっている瓦礫を元に、魔法で生成する。


復興の最中だからこそ、纏めて行った方が効率的だということで、区画整理と共に上下水道の導入も決定した。

……一部からは、仕事を増やしやがって、という殺意を感じたが。


「ああ、いえ。工事に必要な道具について、もう少し頂けないかと」


「分かった。工具さえ準備をしてくれれば、魔法陣を刻んでおくよ」


「ありがとうございます。工具は役場に置いてありますので、早速お願いできますか?」


「ああ。……アウローラ、頼めるか? エイシャルに今回の調査結果を報告してから、そっちに行くから」


「ええ、勿論。いってらっしゃい」


先んじて、ノックスが役場に向かって走って行った。


「さて、私たちも行きましょうか」


「……すみません。私が役場で待っていた方が、良かったですね」


ノックスが走って行った方角を向きながら、シオンが遠い目をして言った。

……まあ、確かに。

どうせ役場には、報告の為に行く予定だったし。

シオンの歩調に合わせるよりも、単独で走った方が断然速い。


「気にしないで下さい。むしろ、お出迎えをありがとうございます。……私たちが街に出ていた間、何か変わりはありませんでしたか?」


「大丈夫です。皆が避難している役場は、貴女がたの魔法で守って頂いていますし。街を襲って来た魔物は、全て警備隊と里の方々で討伐頂きましたから」


「そうですか。良かったです」


そんな会話をしつつ、役場まで歩いて行った。

到着して魔法陣を刻む作業を開始すると、予想通りノックスが戻って来た。


「報告はどうだった?」


「あまり良い報告ではないからな。顔を曇らせていたよ」


「そうよね……」


それから黙々と作業をし、早々に終わらせた。

そして何度も頭を下げるシオンに見送られつつ、家に帰った。


「明日から、もう少し先まで調べてみようと思う」


二人きりになった後、ノックスが告げた。


「そう。その間は、街に帰らないということね?」


全く異論はない。

里から連れてきた人たちも、大分街に慣れてきている。

皆に街を任せて数日空けても、問題ないだろう。

これまで、街が安定するための防衛体制や生活基盤を整えることを最優先にしていたけれども、そろそろ外の情報を本格的に集めるべきだ。


「ああ。エイシャルとダンには、さっき伝えておいた」


「ありがとう。……それじゃ、荷造りをしておくわね。どのぐらいの期間をイメージしているの?」


「十日ぐらいかな」


「分かったわ。それなら明日、カミルとエルマにも伝えてから行きましょう?」


「そうだな」

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