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暁に立つ吸血姫  作者: 澪亜
第一章 過去編
23/54

吸血姫は、苦笑いを浮かべる

街で暮らし始めてから、約一ヶ月。

ノックスの言葉通り、里の人たちは早くも街に溶け込み始めていた。

互いに慣れることをゆっくり待つ余裕がない、とも言える。


何せ、やるべきことが山積みだ。

瓦礫の除去。

街の外に魔法で吹き飛ばして、粉々に砕く。

頻出する魔物の討伐。

魔法の力が重宝されるそれら以外にも、負傷者の治療・当面の食糧や水それから生活用品の確保、建物の修繕……。

ほぼ、一から街を作り直すレベルだ。


一方で、働き手もかなり減っている。

最早街ではなく、村と表現しても差し支えないぐらいの人口だ。


勿論、ヴラドの捜索も続けている。

とは言え、生活基盤を整えることが先決。

加えて、どこに隠れているか分からない彼を探すのに難航している状況だ。


「すみません、助けて下さい……」


幽鬼の如く青白い顔でフラフラと近寄ってきたのは、ヴァズ。

やることは山積みなのに、上層部が逃げたお陰で役場は完全に機能していない状態。

幾ら魔物から逃げず、街を守ろうとした気骨のある職員だとて、この状態じゃフラフラになっても仕方ないことだろう。


今は非常事態。

しかも、魔物が完全に排除できたとも言い切れず、外と連絡を取ることもままならない。

そのため、まずは残った職員で復興計画を立てているところだ。

ノックスや私も、度々それを手伝っている。


「ヴァズ、大丈夫か?」


「ノックスさん……ありがとうございます。大丈夫か大丈夫じゃないかで言えば、大丈夫じゃないですが、そんなこと言ってられんのです……」


ヴァズは深く溜息を吐いた。


「それはさて置き、ですね。瓦礫の撤去、ありがとうございます。お陰様で西区の撤去は、ほぼ完了と言っても良いレベルです」


「礼は良い。それより、本題は?」


「今のも本題と言えば、本題なのですが……いえ、それでは遠慮なく。想定よりも、食糧の消費が多いです。このままですと、どんなに切り詰めたとしても、後一ヶ月で底をつきます」


恐る恐る出された書類は、在庫と消費推移が記載されたものだった。


「皆、避難生活でストレスが溜まっているみたいだもの……その解消で食に向いても、仕方ないわよね」


書類の数字を追いつつ、呟く。


「状況は分かった。……で? 俺たちに何をして欲しいんだ?」


「案は二つです。一つは、二人のどちらかに街の外へ探索に出て貰い、食料を探し出して来て貰うこと。二つ目は、食糧をさらに切り詰めること。その際、お二人には食糧の護衛をして頂く」


「二つ目はないだろう。新参者の俺たちが恐怖政治をしたところで、誰も従わない。内紛になるだけだな」


「そうね……と言っても、私は切り詰めることには賛成よ。調理を工夫して、炊き出しで使用する食糧を節約する余地はあると思うわ」


「本当ですか! では是非、お願いします」


「後は第三の選択肢になるけど、この地で食糧の生産量を増やすって手もあるだろう?」


「それはそうですが……。手をつけようにも、人員が足りないですし時間がかかります。勿論、いずれ着手しなければならないことですが、なかなかすぐには……」


「ねえ、ノックス。あれを見せてあげれば?」


「そうだな。……ヴァズ、ちょっと付いて来てくれ」


ヴァズを案内したのは、街外れにある私たちが作った菜園だった。


「……な、何ですか!? この広さ!!」


「魔法で土を耕して、作物を植えた。ホレ」


土から掘り出したのは、前世のジャガイモみたいなものだ。

ヴラド探索がてら、里から少し種芋を持って来ていた。他にも豆やら何やら、里で無事だったものは全て持ち出している。


「元々繁殖力が高いんだが、魔法で成長促進をかけているから、来週には収穫できるだろうな」


「やっぱり貴方が開発した植物の成長促進、便利よね。まさか冷蔵庫の進化版を作ろうとして、あの術式ができるとは思っても見みなかったわ」


「時間を進めるのは割と簡単だったけど、停めるのは中々組めないんだよな……」


私たちの雑談に目もくれず、ヴァズは畑の前でプルプルと震えていた。


「やっぱり、早めに伝えておいた方が良かった……わよね? いくら中心街から離れている荒地とは言え、勝手に土地を使ったことには変わりがないし……」


恐る恐る彼に声をかければ、ガバリと彼は顔を上げた。


「ありがとうございます! これで目先の食糧問題が一気に片付くじゃないですか! いやー……凄腕の魔法師とは聞いていましたが、まさかここまでとは……おかげさまで、今日は寝れそうです!」


目をキラキラ輝かせながら、彼はノックスの手を取りブンブンと腕を振る。


「そ、そうか……良かったな……」


「ね、寝ないのは体に悪いわ。やることが多くても、寝た方が効率が良いこともあるし……」


涙を浮かべ礼を言う彼の必死な姿が哀れ過ぎて、つい、二人揃って言葉を詰まらせた。


「早速、配給の計画を見直さなければ! あ、配給する際には、お二人の功績だと大々的に宣伝しますので!」


そんなことを言いつつ、風のように走って去っていく。


「計画の見直しも良いけど、ちゃんと眠るのよー!」


その背に向かって叫んだけど、聞こえたかよく分からない。


「……街役場って、労働環境が酷いのね……」


「……エイシャルも、無理をさせるような人物には見えなかったんだがな。非常事態だから、仕方ないんだろう」


「そ、そうよね……」


そんな会話をしながら、私たちもヴァズの後を追うように街に帰った。

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