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暁に立つ吸血姫  作者: 澪亜
第一章 過去編
15/54

吸血姫は、貪る

1/2

それから無事にカミルを家に送り届け、私たちは里に帰る。……一緒の家に。

今年から、私たちは一緒に暮らし始めていた。


「……ねえ、ノックス。どうして私を好きになったの?」


彼が私の首筋に牙をたてかけている最中、問いかける。


「何を今更?」


ノックスは首筋から顔を離した。

電気のついていない部屋は、暗い。

それでも種族的に夜目が効くせいで、彼の表情がくっきりと見える。


「今更……そうね、今更ね。エルマとヤキモチの話になって、気になったからかしら」


「ああ、あの時か。……好きになる理由なんて、幾らでも後付けができる。欲しいと衝動的に思えるか、じゃないのか?」


「ご尤もだけど、時には言葉が欲しいものよ。……真祖だから? それとも転生前の知識が興味深いから?」


「今日はやけに突っかかるな……」


「自分でも、不思議」


何がおかしいのか、顔を隠して思わず笑ってしまった。


「でも……貴方の中に、私はどんな風に存在しているのかしら」


隠すためにあった両の手を、彼の頬をに添える。

ジッと彼の表情を観察するように、見つめた。


急に、彼が再び私の首筋に牙を立てる。

どうしたのかしら、という疑問が頭に過った。

それを問いかけられないまま、ただ待つ。

そうして随分と私の血を飲んで、再び彼が顔を上げたとき、その瞳はまるで獣の鋭かった。

その瞳に、ゾクゾクとする。


「……アウローラが、逃げそうだった」


「逃げる? 私が……何から?」


「さっきの表情。追い求めないと、繋いどかないと、ヒラヒラとこの腕の中から消えるって思った。……頼むから、街中でそんな色香を撒き散らさないでくれよ? 信奉者が出て、大変なことになりそうだ」


コツリと、彼の額に私の額を合わせる。


「消えて欲しい?」


「まさか」


「私もよ。貴方の中から消えたくないわ」


そっと、彼が私を持ち上げる。

座った彼の膝の間に置かれるようにして、座った。


「……逃げないところ」


「……何の話?」


「アウローラを好きになった理由。無理矢理言葉に当てはめるなら、それ」


言葉を聞きながら、彼の胸にもたれかかった。


「自分が真祖だからこそ、敏感になるんだろうけど……他人と違うと、どうしても爪弾きにされる。その上、アウローラは転生者だ。それも、望んで元いた世界からこの世界に来た訳じゃないんだろう? それでも、腐らない。嫌なことからも嫌な人からも、最後は逃げないで向き合う。そんなところを尊敬したし、支えたいと思った」


低い声が、耳を撫でる。


「……貴方が、いてくれたからこそよ。貴方が、私の中の孤独を埋めてくれた」


「……それは俺も一緒。でも、アウローラみたいに他者と繋がろうとも、世界を広げようとも思えない。究極的に、アウローラだけがいれば良いから」


あの時、自分一人だったらエミルに声をかけようとも思わなかったよ……とノックスは苦笑した。


「アウローラは? 何故、俺を好きになった?」


「私を私として、あるがままに受け入れてくれたから。それが、とても心地良いの」


くるりと、彼と向き合う形で座り直した。

そしてそのまま、彼の首筋に唇を寄せる。


「……私、語彙力がないわ」


「どうした?」


「私の想いを、全然伝えることができていないもの。貴方をどうして好きになったか、どれだけ愛しているのかを、ね」


そのまま牙を立てた。


「だからこそ、なんだろうな」


「何が?」


「言葉じゃ足りなくて、色んな方法で気持ちを伝えようとする」


「……そうね」


そのまま、彼の血を貪る。

彼の愛を、確かめるように。

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