吸血姫の違和感
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「……た、食べ過ぎた……」
食事会の帰り、カミルは真っ青な顔をしていた。
「だ、大丈夫?」
「良いの、良いの。放っておきなって。お金を忘れた挙句、お金を貸すって言ったのに借りはつくらない! とか訳の分からないこと言って、大食いチャレンジで懸賞金を狙うなんてバカなことをするから、こんなことになっているのよ。完全に、自業自得」
エルマは冷たく切り捨てて、さっさと歩き出す。
「でも、凄かったわよね。あれだけ飲み食いした後に、成功させちゃうんだもの」
「まあ、食べ溜めの癖がついているからね。私もカミルも。ホラ、仕事に熱中すると寝食忘れるでしょ? そんな生活続けていたら、食べられるときに食べよう! って体がなっているのよね。それにあのチャレンジ、失敗したら軽く今日の会計は倍よ、倍。万が一失敗したら、本末転倒もいいところ。そりゃ、失敗できないわよね」
「……確かに」
「エルマの言う通り、自業自得かもしれないけど……このまま放置していたら、暫く動けなさそうだな」
ノックスはそう言って、荷物を持つようにカミルを脇に抱えていた。
「……ノックス。貴方って、すごい力持ちだったんだね。その細い体のどこに、そんな力があるの?」
そんなノックスの動作に驚いたらしいエルマは、目を見開いて呟く。
確かに軽々しくカミルを抱えるその様を見れば、驚いても仕方のないことかもしれない。
「一応、鍛えているからな。家に届ければ良いか?」
「う、うん。私も一緒に行くわ」
時々カミルの様子を見ながら、家に向かって歩く。
途中から、カミルは呻めき声すらあげられなくなっているようだった。
「あ! ノックス君だ!」
丁度お店とカミルの家の間ぐらいで、女の子たちの集団に遭遇した。
「こんなところで偶々会えるだなんて、嬉しい。ノックス君、何をしているの?」
あまり話したことはないけれども、何度かこの街の同世代の集まりで見かけたことはある。
その程度の付き合いだから、当然彼女たちの名前すら知らない。
「見ての通り、カミルを運んでいるんだ」
ノックスは、困ったような笑みを浮かべつつ言った。
「え!? カミル、どうしたの?」
いつの間にか女の子たちに押し出された形となった私とエルマは、ノックスの周りに集まる女の子たちを遠巻きに見ていた。
「……人気ね、貴方の婚約者」
「そうねぇ……」
「あれ? モヤモヤしたり、苛ついたりしないの?」
「……ちょっとはね。でも、あまり気にしないようにしてるの。まあ、ノックスが心変わりするようなら、話は別だけど」
「ふーん? 熱いわねえ」
「どういう反応?」
「だって、心変わりされないって信じれるほど、愛されているってことでしょう?」
「まあね。……でも、彼と一緒にいるのに、疑っていたら心が保たない、ていうことが大きな理由」
「確かに。彼、人気そうだものね」
ふと、視線を他に移す。
「……ねえ、エルマ。あの怪しげな服着ている人は誰?」
その時視界に映った人が気になって、話題を変えるついでにエルマに問いかけた。
「怪しげな服って……あれは、魔法師のロープじゃない」
「……魔法師?」
「アウローラ、貴女、魔法師を知らないの?」
「え、ええ。少なくとも、ウチの村にはいないから」
「そ、そう……。今の王様が、新しく定めた職業よ。王国が認める魔法使いにのみ、魔法師として名乗れるらしくって、王国のために魔法を発展させる研究をするんですって」
「ふーん……。魔法師、ねえ」
私は視界に映る魔術師のことが、気になった。
何故か、ノックスを睨んでいたような気がしたから。
けれども問い詰める前に、その魔法師は姿を消していた。
「どうしたの、アウローラ」
「……何でもない。さて、ノックスたちを回収しましょうか」
私はその違和感に蓋をして、ノックスたちの方へと向かった。




