吸血姫は、文句を言う
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「……ノックス。貴方、ずるいわ」
里に帰った後、ぼそり呟く。
ノックスは、笑みを溢した。
「俺としては、二人の誘いに乗ろうが乗らまいがどちらでも良かったんだけど」
「嘘つき。……貴方、二人のこと気に入ってたでしょ? じゃなきゃ、即断ってたもの」
「ハハ……そうだな。二人のことは、気に入ってたよ。だけど、な」
そっと、ノックスが私を引き寄せる。
「俺にとっては、アウローラが一番。だから、アウローラがどうしても嫌だったら、断るつもりだった」
彼は、息を吐くように甘い言葉を私に与える。
いい加減慣れろと自分で自分を叱咤するけど……やっぱり、無理。
自然と熱が顔に集まり、頬が緩む。
それを悟られないよう、殊更聞こえるよう息を吐いた。
「……まったく。その言葉、信じてあげる」
ノックスの肩に手を添えつつ、首筋に唇を付ける。
そしてそのまま、牙を立てた。
瞬間、濃厚な血の味が、口の中いっぱいに広がる。
血とは命の滴。
それ故に、吸血する相手として求めて止まないのは……魂が共鳴する相手。つまり、自分にとっての最愛。
だからこそ、彼の血を口にして、自然と体が歓喜に震える。
私が唇を離すと、ノックスは体を横たえた。
「……飲み過ぎた?」
「全然。……美味しかったか?」
「ええ。串焼きよりも、ね」
「ハハ……それは良かった」
倒れ込んだ彼に抱き付くように、私もまた身体を横たえる。
「……ねえ。ノックスは、二人のどこが気に入ったの?」
「ひたむきなところ」
「ああ……二人とも、自分の夢に向かって真っ直ぐだったわね」
「何かに夢中になれるということは、尊いと思ってる」
「そうね。……でも、私には理解できそうにないわ」
「……アウローラ?」
「前世では、やりたいことが沢山あったわ。でも今は、そんな熱量が全く湧いてこないの。長い人生、これから先、何でもやれる。でも、時間が無限にあると思うと……今じゃなくて良いか、後で考えれば良いかって、そんな風に思考を停止してしまうのよね」
「それは分かるな」
ノックスは、私の髪を一房手にとって口付ける。
「ああ、でも……一つだけ、将来の夢があるわ」
「アウローラが? 何?」
「貴方のお嫁さん」
彼は体を反転すると、私を組み敷く。
「……アウローラこそ、ずるいぞ」
そう言って、彼もまた私の首筋に牙を立てた。
「……美味しかった?」
「勿論。……串焼きよりも、な」
彼の感想に、自然と私は笑った。




