第4話 接敵
第4話 接敵
翌朝伸一は朝早くに起き、朝ご飯の支度を始めた。
ゲームが始まって以来初めての睡眠。
いつもと違う日常に伸一はあまり寝ることが出来なかった。
だからこうやって1番に起きて朝の支度をしているというわけだ。
ガチャ
伸一がちょうどベーコンエッグを完成させた頃、神田が謝恩を連れてリビングへやって来た。
神田の方はもう既にメイクを終えており思っていたより早く起きていたようだった。
一方謝恩はまだ開ききっていない目を擦りながらパジャマで枕を抱えている。
「おはようございます2人とも」
「おはようございます。あ、朝食ありがとうございます!」
「いえいえ。家主の僕がやるべき事なんで」
そんな会話をしていても、まだ神田には疲れが残っているような気がした。
そして、伸一はふとある事を思い朝食を食べながら雑談を3人と始めた。
「すいません...こんなものしか出来なくて...」
「いやいや。全然美味しいですよ!」
「昨日の夜ちょっと出かけてて寝不足なんですよね...」
「どっか行ってたの〜?」
「実は家に食材全然無くて1人で買いに行ってたんだよ」
「ふぅーん」
そこまで話した所で伸一はスマホを開き、カウンターアプリをタップした。
そこには、
2/3
残り5日
と書かれている。
ある程度嘘と認められる範囲は広いんだな...
伸一がスマホに夢中になっていると、神田が謝恩に本当にやるのかと説得を始めた。
だが、謝恩はその説得を押しのけ勢いづいている。
「ぼくやるよ。もし成功したらまだここにいさせてくれる?」
彼なりにもここにずっと居座るのは罪悪感があったらしい。
神田が見ている中、伸一にはこの作戦をリスケしようと提案することはできなかった。
「じゃあちょっと作戦詰めますか......」
~~~
そして、作戦が始まる。
-スイレン荘前
「謝恩いける?」
神田の問いかけに対し謝恩は大きく頷いた。
作戦はこうだ。
まず伸一と音声を繋いだ状態で謝恩が迷子の振りをしてスイレン荘から出てきた美羽に話しかける。
そこで上手く立ち回って家の中に入れてもらう。
そして家の中の状況を見たり謝恩の話術で何か彼女の近況等を聞き出す。
といったものだ。
美羽が住んでいるのはスイレン荘の201号室だというのは昨日の尾行でわかったことだ。
そして現在、201号室には明かりが点っている。
ここからは粘り勝負だ。
美羽が出てきたらすぐ謝恩を送り込む。
3人はその瞬間を黙って待っていた。
-30分後
部屋の明かりが消え、美羽がドアを開け出てきた。
「よしいけ謝恩!」
そう言って伸一は謝恩の背中を押し込んだ。
謝恩はそのままスイレン荘の階段の真ん中、絶対に無視できない位置で待機し始めた。
そして美羽は家の鍵を閉め、階段を降り始める。
謝恩と美羽の距離が縮んでいく。
それが遂にゼロ距離になった時謝恩は美羽に話しかけた。
「うえ〜ん。おばさん...ここどこか分かる?」
謝恩はすかさず涙を流し、美羽の足にしがみついた。
「うわまじか...」
その行動に伸一はまた少し子供が嫌いになった。
チラリと神田の方を見ると、真剣な表情で謝恩の方を見ている。
「これ行けますかね...」
「信じましょう...」
そんな話を2人がしている中、美羽は足元の謝恩をじっと見た。
「......」
そして美羽は謝恩がしがみついている足を振り抜いた。
「どっか行け」
そう言い放ち放り投げだされた謝恩を無視して美羽は歩き始めた。
「ちょっと何してるんですか!」
伸一は隣を見ると、神田はいなくなっていた。
耐えきれず謝恩の元へ駆け寄ってしまったようだ。
「はぁ?こいつが進行を邪魔したのが悪いんだろ」
謝恩を指さし反論する美羽。
「でも...子供ですよ?突き飛ばす必要ありますか?」
口論が激化し、伸一は出るに出られなくなってしまった。
女って怖えぇ...
しかし2人の言い合いはまだ続く。
「だいたいあんた誰なんだい!こいつの親かい!?」
「そんなとこです!」
「じゃああんたがちゃんと見張っとかなきゃダメだろうが!」
真っ当な意見に神田は何も言い返せなくなってしまった。
「ふんっ!分かればいいんだよ」
捨て台詞を吐き美羽はどこかへ行ってしまった。
それを見てやっと伸一は神田に駆け寄った。
「大丈夫でしたか神田さん...」
「ええ。それよりも謝恩くん!」
神田はしゃがんで謝恩の様子を見た。
「ぼくは大丈夫」
膝が赤く腫れている。
擦りむいてしまったようだ。
「ああっ...病院...病院...!」
「俺の家に救急セットあるんで一旦...戻りましょう」
この作戦はもう無理だと判断し、放心状態気味の神田を連れ、謝恩と共に帰路へたった。
ザッ
3人がいなくなった頃、スイレン荘の前の砂利の音が鳴った。
そこは伸一と神田が隠れて謝恩を見ていた場所...のさらに奥。
そこから男が現れた。
彼はずっとこの一部始終を見ていた。
そして一言呟いた。
「美子......」
-伸一の家
家に着いた頃には、神田は少し冷静さを取り戻していた。
謝恩の手当を済ませ、また会議が始まった。
「もう子供にこんな事させられません」
「でもこのゲームを生き残るためには...」
伸一の呟きに神田は胸をはって答えた。
「私が行きます」
途端に伸一の脳内にはあらゆる可能性が行き来した。
(神田にも危ないことはさせられない...。しかも...
ガキと2人きりは嫌だ!)
そしてある結論に至った。
伸一も大きく胸を張る。
「俺が行きます」
--続く