第1話 ゲーム開始
嘘→死
第1章 なんてことないデスゲーム
第1話 ゲーム開始
「あれ......ここは......?」
目が覚めると辺りには、老若男女という言葉をそのまま表したような顔ぶれが100人くらいだろうか、いる。
場所は?見たことのあるような建物だと思い、天井、床、壁、それぞれ見渡す。
そしてここが体育館であることがわかった。
状況が飲み込めない。
「たしか俺は......」
頭をフル回転させ思い出す。
最後の記憶があるのは夜、9時過ぎだったか、いつもの日常を終え家に帰るために歩いていた。
暗い夜道に電柱が1つぽつんと立っていて、その明かりに当たりながら1日を振り返っていたのを思い出した。
1日の終わり、その日1日を振り返る、それが俺の日課だ。
そこから記憶は無い。
ふと財布は!と思い履いている白のジーパンの後ろのポケットを探った。
そして、その膨らみから財布を見つけた。
中身を確認する。
中には、
猿見 伸一 平成9年/4/1生
と書かれた運転免許証がある。
他にも少し中身を確認し、またポケットに戻した。
ふぅと落ち着いた伸一は再び周りを見渡す。
さっきまでは老若男女としか思っていなかったが、ほんとに小さい子供や、死にかけの老人、白い布にくるまれた集団や外国人まで個性的な面子であると気づいた伸一はいっそう訳が分からなくなった。
オドオドしていると急に隣から声が聞こえた。
「あの、すいません。ここって?」
急な言葉に反射的に仰け反る。
「あ、ごめんなさい!あの〜」
言葉の主の方を見ると髪の長い美しい女性だった。
「すいません…びっくりしちゃって」
「いえいえ、あの、私神田真弥っていいます!ここってどこか分かりますか?」
「あ〜いえ、自分も何が何だか」
「私仕事の帰りに急に意識がなくなって…」
「皆さ〜ん!!お騒ぎのところ失礼しま〜す」
舞台の方から声が聞こえた。
その声で体育館は静まり、周りの人々はハッと振り向く。
伸一も舞台の方を振り返った。
するとそこには、金髪の高身長イケメン(白スーツ着)と、そのまわりに某鬼ごっこ番組の鬼役のような格好をした男達が立っていた。
彼らの手には何やら黒い物がある。
「今から皆さんには〜殺し合いのゲームをしてもらいま〜すっ!笑」
「コレチョットイッテミタカッタンダヨナ」
1度静まり返った体育館がまたざわつく。
「おいどーいうことだよ!」
「説明しろよ」
様々な怒号が飛び交う。
当然だ。
伸一にも全く理解が出来なかったのだ。
この状況、100人の老若男女、その全てだ。
ざわめきは一向に止まない。
「はーいもう黙って〜」
止まない。
「黙れや」 パァン
銃声が鳴り響いた。
黒い物とは拳銃だったのだ。
野次を飛ばしていた男含め周りの者達の顔から血の気がどんどん引いていく。
再び静かになるのは時間の問題だった。
「良かった。みんないい子ね」
「じゃあいくね!笑」
ウィーンという音と共にイケメン金髪の後ろにプロジェクターが降りてきた。
そこには、
嘘→死
とある。
なにかの暗号だろうか。
「あ〜ごめんごめん笑なんのことか分からないよね。説明するから」
金髪がすかさず解説を入れる。
「さっき言った通りこれはデスゲーム!これはタイトル!タイトルはゲームにおいて大切でしょ?」
その時伸一は、何故か懐かしさを感じていた。
「ちなみに僕の名前は 成瀬新まぁ適当に呼んでよ」
成瀬は耳に手を当て反応を待ってるような仕草をした。
「......いいや。じゃあ服の中に入ってるスマホを見て」
伸一はずっと気になっていたズボンの左ポケットを探りスマホを見つけた。
黒のカバーに覆われていね、何の変哲もない普通の物だ。
「みんな持ったかな?じゃあ電源付けてね」
伸一は本体の側面部にある膨らみを押し込んだ。
すると、画面が明るくなり黒い背景と現在時刻が表示された。
今は9時21分のようだ。
「そしたら画面を下から上にスライドして開いて」
伸一は言われた通り操作をすると、黄色い背景に沢山のアプリが現れた。
「なにも開かずにちょっと待ってね。1個ずついくから」
「重要なやつだけ説明するよ」
ここまで来るとあたりの先程の騒がしさは、見る影もなくなっていた。
皆、手元の画面に集中している。
「まずー1番右上!名前が"密告箱"。これを開くとずらーっと名前と顔が表示されるから、それとその人の嘘を入力するとその人は死にます!」
ドキッ
死というあまりにも唐突なその言葉は、このような言い方であっても、人にデスゲームに参加させられたという自覚を与えるには十分だった。
伸一や神田の顔が強ばる。
ーー俺は、とんでもないことに巻き込まれてしまったかもしれない。
ゾク…
今までなかった感情が溢れ出てきそうだった。
それでも話は止まらない。
「試しに開いてみて」
ハッと伸一は現実に戻ると、左上の密告箱を開いた。
すると、少年の顔とその下にそいつの名前だろうか、蒼井翔太と書いてある。
上の方にはよく見る検索バーがあった。
「はーい。こんな感じで顔をタップすると、嘘入力の画面が出るから後はよろしく」
伸一が顔を上げると、プロジェクターにスマホの画面が映っていた。
それを指して成瀬は説明をしていたようだ。
ほへぇと思っていると、また説明が始まる。
「2個目はその隣、メールBOX。これは運営からの通達とか送るからこまめにチェックしてね!ちなみに誰かが密告されたら来るよ」
「そして最後に1番重要なやつ!1個右の"個人情報"。これに君たちの守るべき"嘘"が書かれてるから今チェックしてね」
伸一は目線を下にし、個人情報アプリへと手を伸ばした。
画面が開く。
そこにはこう書いてあった。
猿見伸一→嘘
元ス|
伸一は驚き咄嗟に画面を手で覆い隠した。
すぐさま辺りを見渡す。
誰も見てないことを確認し、アプリを閉じた。
…正直舐めていた。成瀬の話し方だろうか、体育館だからだろうか、嘘と言ってももっとこう軽いものだと思い込んでいた。が、違った。
伸一は恐怖と共にこのゲームに対する絶望を感じた。
このゲームは確実にヤバい。
「えーと神田真弥、嘘、小一息子が鬱病ってえぇ!?なんで」
突然神田から声が聞こえ思わずその方向を向いた。
そこで神田は嘘を言ってしまったという事実に気がついた。
「はっ!?すみません今の聞いてましたか」
伸一は聞いていなかったフリをと思ったが、その考えを消すほどはっきり聞こえていた。
「すいません..聞こえちゃいました...」
「あ、あぁっ」
みるみる神田の顔が青ざめていく。
そして遂には顔を手で覆い、うずくまってしまった。
その行動を見て、伸一の顔からは液体が垂れてきた。
汗だろうか。
そしてあることを決断した。
そう、神田を密告しないことだ。
「大丈夫ですよ!僕言いませんから」
「え?なんで...」
伸一は髪を整えてキメ顔でこう答えた。
「女性を助けるのが男の使命じゃないすか!」
神田の目から涙が零れてくる。
「あ、ありがとうございます!」
伸一は心の中でガッツポーズをし、スマホのメモ機能でしっかり神田の嘘をメモした。
そしてまた、成瀬が話し出した。
「あと言い忘れてたけどこのゲーム、賞金があるんだ!」
「賞金......」
体育館にいる参加者の誰かが口をこぼした。
「その額なんと..."100億円"!!!」
体育館がどよめいた。
それはそうだ。これまでの人生で聞いた事のある人の方が少ないくらいの金額だ。
「うっはぁ!金だ金!」
「やるぞ...やるぞ...!」
参加者の興奮が見て取れた。
そして、俺も例外では無い。
俺はまた隣にいる神田をまじまじと見た。
「100億...」
興奮も冷めやらぬまま成瀬はマイクに声を通した。
「それでは皆さん準備は宜しいでしょうか?」
成瀬はまた、耳に手を当て反応を待ってるような仕草をした。
今度は金に夢中になっていて別の意味で反応はない。
「もーじゃあスタートでいいよもう」
成瀬は投げやりになり、舞台裏に消えていった。
次の瞬間プロジェクターに"開始"と映し出された。
「は、始まった、、?」
その途端再び参加者たちはざわつき始め一斉に外へ出ていった。
「俺はやるぞ!!」「ハハッ!バッパー」
嘘を見た事や、拳銃の件、賞金のせいで、反抗するもの者はもう居なかった。
「私も、行かなきゃ!」
神田が立ち上がった時、伸一が声をかけた。
「神田さん!良ければ僕と組みませんか?」
その時、伸一の脳内は神田でいっぱいだった。
「嘘も知っちゃった訳ですし、損は無いと思います。」
神田は少し考え、その提案を了承した。
「ぜひ!よろしくお願いします!!」
ーこうして俺は神田さんと組み、このゲームに挑むことになった。この後あんな事が起きるだなんて。これは、俺、猿見伸一が嘘をつくことを辞めるまでの物語だ。
--続く