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第061話 ご令嬢の秘密!



 メリーは、本当に優秀な魔法使いだった。

 彼女の高いスペックは、ダンジョン攻略において非常にお役立ちだった。


 たとえば。



「……大きな穴と、そのど真ん中を真っ直ぐに貫く不安定な吊り橋。か」


「慎重に進まなければなりませんね」


「大丈夫よ、事前に浮遊程度だけど飛行できるようになる魔法をかけておくわ――《レビテ》!」


「「おお!」」



 またたとえば。



「ちっ、こいつめ! 四つ足でめちゃくちゃ素早く動き回りやがる!」


「主様!」


「ナナは自分の奴に集中しろ!」


「は、はい!」


「任せなさい! そいつらの動き、鈍くしてやるんだから! ――《ノロリー》!」


「! モンスターの動きが遅くなりました!」


「よし、押し返すぞ!」



 さらにたとえば。



「いよっしゃー! 宝箱だー!」


「お待ちなさい、白布!」


「止めないでくれメリー! ようやくの報酬――」


「よく見て、あれは幻影よ。――《プチファイア》!」


「あ! 爆発で幻影が消えました」


「うお、回転刃とかえっぐい罠が仕掛けてある。行かなくてよかったぁ」



 とまぁ、そんな感じで器用に魔法を使って俺たちを支援してくれていた。

 おかげ様で俺とナナは思った以上に消耗せず、ダンジョンを突き進むことができた。


 ただ。



「え、橋板の裏に青ヌメリー? ……って、きゃあーーーー!!」


「ああ! メリー様が吊り橋の下で宙ぶらりんに! おみ足が丸出しでいらっしゃいます!」


「Oh、スライムバンジー……って言ってる場合じゃない! 今助ける!」



 とか。



「おーっほっほっほ! さぁ、やっておしまいなさムグゥゥゥ!?!?」


「ああ! メリー様が天井に潜んでいた触手型モンスターに絡め取られて卑猥なことに!」


「うわ、全身縛りつけられてスケベ……ってやべぇ! 今助ける!」



 とか。



「人の興味を引くような作りをしている場所ほど、罠は仕掛けられやすいのよ」


「だな。危ないところを助けてもらった」


「ふふんっ。このくらい当然よ、当然――」



 カチッ。


 パカッ。



「よぉ゛ぉぉーー…………ぎゃん!!?」


「ああ! メリー様が罠をピンポイントで踏まれて落とし穴に! 底に溜まった水でまたビショビショになられています!」


「今助ける!」



 とか。



「きゃああー!!」


「メリー様だけが炎の罠に!」


「いやああーー!!」


「メリー様だけが桶いっぱいの泥をお被りに!」


「来ないで来ないでーー!!」


「メリー様だけがモンスターに集中攻撃を受けて!」


「シビビビッ」


「呪撃トラップが!」


「さぶぶぶっ」


「氷結トラップが!」


「ぶべっ! うわぁぁぁ……」


「転倒トラップが! ああ、ぬるぬるまみれに!」


「もう大丈夫? もう平気? ふぅー、よかったぁぅおぉ~~~!?」


「座られたメリー様がバネトラップでお吹っ飛びに!」


「………」



 と、まぁ。



「ぜぇ……ぜぇ……ぜぇ……ぜぇ……」


「め、メリー様……」



 ご覧の有り様だったのである。


 彼女がたまたま立ったところや触れたところに罠があり。

 彼女がたまたま着ていた服の色がモンスターに狙われる条件と合致したり。


 たまたま。たまたま。


 ひとつひとつの偶然が幾度も重なり、尋常でない被害を彼女に与え続けた。

 いやマジ、メイドインイカバラとかの優秀な防具の数々がなければ、彼女の命はいくつ散っていただろうかってくらいだ。


 その中でも特筆すべきは。

 メリーの装備している、『魔術師のローブ』だ。



「いやぁ……これは」


「ぜぇ……ぜぇ……な、なによ?」



 今も、バネトラップで吹き飛んだメリーに掛かるダメージを肩代わりして無効化した、優秀な装備である。

 だがその代償は……メリーを赤面させていた。


 いや、だって……。



「ダメージ受けて、そんなんなるぅ?」



 メリーが大きなダメージを受けるたび『魔術師のローブ』は“破損”した。

 しばらくすれば自己修繕機能が働き元に戻るのだが、破損しているまさに今この瞬間は……。



「……わ、わ、笑いたかったら笑いなさいよ! うわぁぁぁぁぁ!!」



 見事なまでに、ボロボロのズタズタなのである。

 色々な場所がダメージを負った状況とは関係なく引き裂かれ、破け、千切れ飛んで素肌を晒している。



(完全に、攻撃されたら脱げるタイプのエロRPGの奴じゃん!)



 こう、絶妙に大事なところが見えそうで見えない調整すれば見えそうなバランスなあたり、職人はいい仕事をしている。

 破損の度合いでメリーが赤面・涙目になっていくのもわかってる感がすごい。



「なんでそんなの着てるの?」


「お母様からの善意のプレゼントで、かつ性能がいいからに決まってるでしょーーーー!!!」


「はい」



 武門の名家サウザンド家の長女にして、自らも優秀な魔法使いであるメリー。


 そんな彼女は、どうやらかなりおもしろ……不幸な星の元に生まれてきたらしかった。




      ※      ※      ※




「5才になった辺りからよ。こんな風に、自分の身にやたらと不幸な出来事が起き始めたのは」



 ようやく引き当てた石畳のフロア(モンスターはいた)の安全を確保し、ひとまずここで一泊しようとキャンプを張りながら、俺とナナはメリーの、彼女の不幸にまつわる身の上話を聞くことにした。


 さすがに状況が状況なだけにメリーもちゃんと話すと言ってくれたが、その表情にはいつもの強気は見えなくて、代わりに苦々しさや悔しさが滲み出ていた。



「何もないところで転んだり、失くし物をしたり、暴れコッコに襲われたり、私だけテスト問題間違えられたり……とにかく私を狙い撃ちして不幸が舞い込むって経験が沢山あったのよね」



 ほんの些細な不運から、怪我を負ってしまうような理不尽な事故まで、幾度もメリーは経験してきたのだという。



「転んだ拍子にパンツ丸出しではしたないとか、やたら服が破れたりとか、成績を上げたいならセクハラ受けろだとか、ホント散々」


「………」



 さっきまでもそうだったが、なんだこの拭いきれぬ同人エロゲのヒロイン感。



(いやいや今はシリアス。シリアスなシーンだ)



 ツッコんじゃいけない。

 ツッコむってこの場面だとエッチだね! って、俺のバカ!!



「私は迂闊で、へっぽこで……それを理由に家を馬鹿にされるのが悔しくて……そんな不幸に負けるもんかって色々な人に教えを願って、本当に沢山のことを学んで、いい装備も買ってもらって。おかげで今もこうして生きているし、清い体でいられてる」


「……なるほど、な」



 メリーの廃課金装備は、まさしく彼女の命を守るための鎧だったのだ。

 そして彼女のバイタル溢れる気質も、家に迷惑をかけないための必死の抵抗だった。


 だが。



「それでも私は、不幸に見舞われた。転ばないようにバランスをとっても、その先でたまたますれ違い際に目を閉じた人とぶつかったり、失くし物をしないように努めても、たまたま装備を外した瞬間に手の届かないところへ落としてしまったり……たまたまが重なった」



 彼女の不運は、彼女の努力を凌駕して舞い込んできた。

 まるで、そうあれかしと超常の存在が望んでいるかとでも言わんばかりに。



「極めつけは、まぁ、もう予想できてるでしょうけど。お家の没落騒動よ。私を狙い撃ちする不幸が、ついに家を巻き込んでしまったのよ」


「………」


「父の属する派閥が政争に負けて、今、サウザンド家は解体されようとしている。それをひっくり返すだけのお金が、私たち一家には必要だった。だから、ここに来たの。もっとも、お父様には内緒で、だけれどね? だってあの人、お金のためだけに私を嫁がせそうだったんだもの」



 父親が城に出向いている隙に飛び出してきたのだ。と。


 そう言って悪戯っぽく笑おうとするメリーだったが、その表情は固い。


 ナナがそっと彼女に寄り添い背中を撫でると、小さく「ありがとう」と言ったのが聞こえた。



「でも、私一人じゃきっと、ダンジョンは攻略できない。誰かの助けが必要だった。それもとびきり腕が立つ、私の不幸なんて跳ね除けちゃうくらい強い人の助力が」


「それで白羽の矢が立ったのが、俺たちだったわけだな」


「えぇ、あなたたちの噂を聞いたときは、神の助けだと思ったわ。そして実際に見て、この人たちしかいないって確信したの」



 瓶底眼鏡の厚みで見えない彼女の瞳は、どういう色に俺たちを見つめているだろう。

 こっそり装備しておいた『真偽の指輪』は、彼女からの強い信頼と、後ろめたさを教えてくれていた。



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