ボス攻略戦
「あの貴方の名前は?」
とアリサに聞かれてドキッとした。
教えてもバレないのだろうか?
イクサバ カンナという名前は多くない。
「……神無だ」
別の名前を言って嘘がバレた時、怪しまれるので本当の名前で名乗った。
「その……カンナくんはどうして顔に包帯を巻いてるんですか?」
いきなりだな……。
ここで顔を見せるようなヘマはしたくない。
「火事で焼けてしまってな……傷がすごいんだ」
こう言うと気を使ってそれ以上聞いてくることはないだろう。
「そうだったんですね……
すみませんちょっと気になっちゃって……」
が彼女のテンションが少し下がってしまった。
「まぁ気にしなくていい
それより気をつけろ?もうすぐダンジョンボスのお待ちかねだ」
目の前の狭い洞窟は広い空間に繋がっていて、そこには何人かの生き残りパーティが休憩していた。
そこにはボスのいる大扉もある。
……が生き残りの数が少ない。
32人居たのだが今は12人ほどだ。
「クソッ……なんなんだこのダンジョンは」
そう言って休憩していた男が苛立ち地面を殴る。
恐らくパーティメンバーを失って一人になってしまったのだ。
「あの……ここに残ってる人以外のパーティの人ってもしかして……」
俺の後ろに隠れていたアリサもこの人数の少なさに流石に気づいた。
「死んだんだろうな
このダンジョンのモンスターはほぼBランクレベルの強さがあるからな」
4人で戦っても1人か2人しか生き残ることは出来ないだろう。
「あ……あんたは《クレゼン》の……
他のメンバーは?」
アリサに気づいた男がそう尋ねるがアリサは首を横に振る。
「う…嘘だろ《クレゼン》が?」
その動揺はここに生き残っているパーティ全員に伝わる。
それだけ《クレゼン》というパーティは下位ランクでは名の知れたパーティだったのだろう。
「……俺から提案なんだがここで全員引き返さないか?
この人数で一つの道から引き返せば多少強いモンスターが居ても倒せる筈だ」
そう言って一人の男が引き上げるのを提案してそれにほぼ全ての人が賛同する。
が手を挙げない俺を見てアリサが心配そうに声をかけてきた。
「あの……カンナさんは?」
「俺はこのままボスと戦う
アリサはアイツらと先に戻るか?」
と聞くがアリサは首を横に振る。
このまま帰った方が安全な筈なのに。
というより全員帰って欲しかった。
「……残ったのは俺たちを含めて4人か」
俺とアリサそれと後二人がその場に立っている。
「あの人は……確かイリスさん。
カンナくんと同じでこのダンジョンに一人で乗り込んできた有名なドラゴン狩りだったと思う」
ドラゴン狩りか。
ドラゴンはダンジョン外で出るモンスターの中でもかなり強い。
いや下手すればBランクダンジョンのボスに近いくらいの強さの筈だ。
それを狩る彼女はかなりの実力者の筈だ。
「それともう一人はカナデさん……
《聖騎士》のパーティリーダーで彼女もかなりの手練れです」
……確かに装備も中々良いものを持っている。
「……で?
ここに残ってるってことはこの4人は戦う意思があるってことで良いのかしら?」
ドラゴン狩りのイリスさんはそう言って俺達の方を見る。
「……俺達はそのつもりだ」
アリサも頷く。
「私も……」
カナデさんも頷く。
「先に忠告しておくけど私は援護しない
死にそうになっても助けられないから」
と言って武器である剣を持って門の前に立つ。
「じゃあ……いくわよ!!」
ゴゴゴゴゴゴ……と音を立てて大扉が開く。
すると光が差し込み一瞬目が眩む。
扉の中は洞窟の中ではあるが上が吹き抜けとなっていて日が差し込んでいるのだ。
そしてその日の中央に大きなドラゴンが待ち構えている。
「……いける!!」
イリスはそう言っていきなり剣を抜いて走り出す。
緑色に光る彼女の足は《速》でその速さを増す。
一気に間を詰め彼女の剣《龍殺しの剣》でドラゴンの顔を両断しようとしたがその瞬間いきなり横から手が出てきてイリスは吹き飛ばされた。
「《纏雷》!!」
一時的に雷を見に纏い目にも止まらぬ速さで壁に激突する寸前だった彼女をギリギリで助けた。
「大丈夫……みたいだな」
彼女にはまだ戦えるだけの意思がある。
「助かったわ……貸しひとつね」
と言ってイリスは再び剣を構える。
「《繋》だな…」
そう言うとイリスは不思議そうな顔をする。
「《繋》?それがどうしたの?」
「さっきのアイツの攻撃……
空間を《繋》ぐ力でありえない方向から攻撃してきている」
俺はドラゴンの手が何もない空間から出てきたのを見た。
「空間を《繋》ぐ……か
とんでもなく厄介ね」
すると今度はドラゴンから離れた距離にいるカナデの所にドラゴンの手が現れる。
「《氷包》……」
ドラゴンの手は一瞬で氷で固められた。
がしかしドラゴンは炎のブレスをカナデに対して吹きかける。
思ったよりブレスのタメが短い。
このままでは回避できない。
俺はまた《纏雷》でカナデを引っ張りその場を離れる。
その際、俺だけ炎を浴びたが《地獄蜘蛛》の糸で出来たスーツは焼けることはない。
そこで俺は気づいていれば良かった。
呼吸がしやすくなっていることに。
「大丈夫か?」
と聞くとその場にいたイリスもカナデも固まったまま動かない。
思ったよりドラゴンが強くて驚いているのだろうか。
すでにドラゴンの炎ブレスは氷を溶かして、手も復活している。
「アリサ……も大丈夫みたいだな」
アリサは傷ついたイリスの腕を《治》で回復させている。
「全員ここにいろ……あれはCランクダンジョンのボスじゃない
下手したらAランクに相当する強さだ」
どう考えても空間を《繋》ぐ力を持つドラゴンなんてCランクなわけがない。
「あのドラゴンは俺が殺る」
そう言って俺は3人から離れ、ドラゴンの注意を引く。
……来る!!
ドラゴンも本気を出してきた。
今度は両手で攻撃してきた。
《纏雷》で高速で避けていく。
しかしドラゴンはブレスまでも空間を《繋》げて別方向から放ってきた。
俺はブレスを回避できたもののドラゴンの爪で背中を裂かれてしまう。
それでもドラゴンのすぐ側まで接近した俺は《流雷》で一矢報いた。
が一歩及ばず俺はドラゴンにもう一方の手の爪で胸部を貫かれた。
完全に死んだ。
ドラゴンは爪を引き抜き、俺が絶命しているのを確認して3人の方を向く。
だがその瞬間、死んだはずの俺はドラゴンに《流雷》を食らわせる。
ドラゴンの焼け焦げた匂いが充満し、四人にダンジョン攻略報酬Aランクワード《繋》のワードスキルがエンチャント(付与)された。
「これでクリア……だな」
多少イレギュラーはあったが無事クリアできた。
俺は3人の元に向かった。
だがイリスは剣を持って俺に向かって構えた。
カナデやアリサも俺を警戒している。
そこでようやく俺は自分の包帯が無くなっているのに気がついた。
「あれだけの傷を負ったのにもう一瞬で回復している
……やっぱり本物の戦場 神無か」
こんな所でヘマをするとは、しかも俺を知っている。
イリスは不死身の《マサムネ》のことも知っている様だ。
「……だな
確かに俺が本物の戦場 神無だ」
「……なぜ私を……いや私達を助けた?
アンタは人を楽しんで殺す殺人鬼の筈よね?」
「俺が本物でアイツが偽物なんだ……って言っても信じてもらえないよな
でもアカウントを乗っ取られたのは事実だ……」
そう言って俺はその場から離れようとする。
「あの……私はカンナくんのこと信じます!!
だって私のこと助けてくれたし」
とアリサは俺に着いてきた。
「まぁ確かにあんな奴が私のこと命懸けで守ってくれる訳ないか……
私もアンタの言ってること信じるわ」
「私も……」
そう言ってイリスとカナデも俺の言うことを信じてくれた。
「……ありがとう」
こうして俺達はダンジョンをクリアしてギルド《ポーン》へと帰って行った。