祈れ
ダンジョン攻略開始から3時間後……
「ハァハァハァ……!!」
パーティ《クレゼン》のメンバーであるアリサは暗い洞窟の中で震えていた。
今までにない経験をした為である。
仲間が死んだ……。
それもモンスターに殺られたのでは無い。
同じギルドのアカウントに後ろから殺されたのだ。
明らかに低ランクのプレイヤーの動きでは無い。
そして彼らは仲間の死体からスキルや装備品などを奪い、次の獲物を探している。
「お嬢ちゃーん?
なぁーんにもしないから出ておいでー」
と言いながら近くをうろうろしている。
岩陰に隠れながら必死に息を潜める。
どうしてこんなことになったのだろうか。
アキラくんもカナちゃんもミサキちゃんも皆んな目の前で殺された。
カナちゃんとミサキちゃんに至っては男達に襲われて散々乱暴された挙句殺された。
私達はなにも悪いことをしていないのに。
すると別に繋がっている洞窟の違う通路から包帯を巻いた彼が一人でこっちに歩いてくるのが見えた。
……このままじゃあの人も殺されてしまう。
勇気を出して声を出そうにも声を出したら確実に私が見つかってしまう。
どうすれば……そう思っていると近くで男が声を上げる。
「はぁーい……みーつけた!!」
その声に恐怖で怯えて体が動かなくなる。
「ってあら?お前は確か1人ぼっちの包帯くんじゃん」
見つかったのは私じゃなかった。
その事実に安心してしまう。
しかし4人の殺人パーティは彼に近づいていく。
……嘘。
あの人も殺されちゃう。
「こいつ殺しても碌な物持ってねえだろうな……
けど残念だが誰も生かして帰すつもりはねぇ」
そう言って男達は包帯の彼を取り囲んだ。
そこからは私は目をつぶって手で耳を塞ぎ心の中で必死に彼に謝った。
ごめんなさい……ごめんなさい……
私があの時私が庇っていたら彼は死ななかったかもしれないと思うと涙が出てくる。
どれだけ経っただろうか。
ゆっくりと耳抑えていた手を離して目を開ける。
その時、コツ……コツ……コツ……と歩く音が聞こえ私は再び息を潜める。
……あれ?
1人分の足音しか聞こえない。
恐怖はあったが今度は勇気を出して少女は岩陰から顔を出す。
そこにはまだ息はあるものの手足を折られ泣きながら倒れている殺人パーティの人達の姿があった。
恐らく彼が返り討ちにしたのだ。
……彼は一体何者なのだろう。
たった一人でダンジョンに乗り込んだ彼が気になって私はその後をつけることにした。
・ ・ ・ ・ ・
……10分前
ダンジョン攻略を開始して3時間。
この暗い洞窟をかなり進んだ。
恐らくそろそろダンジョンボスのエリアに着いてもいい頃だろう。
そんな時近くに人の気配を感じた。
「はぁーい……みーつけた!!」
そんな声が洞窟の先で聴こえてきたので目を凝らすと四人一組のパーティが現れた。
「ってあれ?お前は確か1人ぼっちの包帯くんじゃん」
俺はこいつらの装備を見てすぐに理解した。
なるほど低ランク狩りか……
上位ランカーが低ランクでも一番上のCランクダンジョンに来て、パーティを狩りそして金銭やスキルを得るという姑息なやり方だ。
「こいつ殺しても碌な物持ってねえだろうな……
けど残念だが誰も生かして帰すつもりはねぇ」
そう言ってパーティの一人が何の前触れもなく目の前に高速で移動してきた。
足が少し紫色に光っている。
紫色はBランクワードの色だ。
ワードスキルは色で判別できる。
『Sは赤黒 Aは赤
Bは紫 Cは緑
Dは青 』
という風に5つの色にランクが分けられている
「《潰》せ!!アルブレイク!!」
相手の右腕に装備されたガントレットが同様に紫に光る。
振り下ろされる右拳は恐らく鋼鉄すら潰す事ができる威力を持っている。
しかし俺はソレを《弾》いた。
体についた埃を払う様に軽く、そして冷静に。
「はァ……?」
拳を弾かれた男は何をされたか理解出来なかった。
そう俺の手は《弾》はCランク特有の緑色に光っていたのだから。
「CランクでBランクのワードを《弾》ける訳がねぇ」
……正解だ。
俺が《弾》を使って奴の《潰》を弾くことは本来不可能だ。
理由は奴のワードランクの方が上だからだ。
しかしこいつらはまだ知らない。
ワードスキルの優劣を決めるのがランクだけではないということを。
「《纏雷》」
《纏》と《雷》の複合したワードを使って俺は奴の仲間の3人を一瞬で無力化した。
瞬きをしたほんの一瞬だった。
奴はその一瞬で自分の仲間の3人を無力化されたのだ。
「何なんだよこれ……何なんだよお前は!!」
そう叫びながらまた同じ様に殴りかかってくる。
今度は動きもコンパクトだ。
しかも拳の速度も速い。
……がしかしその全てを《弾》かれる。
こいつの言っている通りワードの優劣はそのワードスキルのランクで決まる。
それは間違ってはいない。
しかしワードの優劣はそれだけで決まるものではない。
ワードの優劣をつけるもう一つの要因、それは《イメージ》だ。
脳でより強くはっきりとしたイメージを持って発動するワードスキルは何も考えずただ発動するだけのワードスキルを遥に凌駕する。
「《貫雷》」
攻撃を弾いて無防備になった奴の胴体を《雷》が撃ち抜く。
「ガ……アァァ……」
奴は焼け焦げ気を失って倒れた。
……殺してはいないと思う。
しかしこいつらは許されないことをしている。
然るべき罰は必要だ。
俺はこいつらの手足を縛ってそこに放置する。
「俺がダンジョンを攻略した後に通報してお前らが確保されるのが先か
このダンジョンのモンスターに見つかって食われるのが先か
せいぜい祈っておくんだな……」
俺は先へと進む。
しかし正直少し不安だ。
低ランク狩りがいるっぽいのは馬車の時点でわかっていた。
不安なのはダンジョンのレベルだ。
ここまでに倒したモンスター《鎧鬼》や《血狂草》などのモンスターの強さがCランクのソレではない。
明らかにBランク相当の強さがあった。
「一人だと死ぬかもしれんな……
アリサだったか?」
声を大きくしてそう言うと、彼女はびくっと驚いて岩陰からゆっくり出てきた。
「気づいていたんですか……?」
「大分前からな
一人ってことはアイツらは死んだのか……」
と言うとアリサは辛そうな顔をして頷く。
「ここから先は出来るだけ一緒にいた方がいい
強制はしないが俺と来るか?」
身バレする危険はあるがここで見捨てるのも気が引ける。
それに彼女はゲート前で俺を助けようとしてくれていた。
だから俺はアリサに手を差し出した。
彼女も怯えながらゆっくりその手を掴んだ。