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SHADOW BIRD  作者: 下野 遊々
1章.闇討ち烏は闇夜に嗤う
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8羽:見上げると白

「すまん、ちょっと出る」

「あ、はい」


 立ち上がり席を外しながら、電話に出る恭介。


 出鼻を挫かれた形になった大智は、ふーっと息をつき後ろに倒れこんだ。気づけば辺りはすっかり日が落ち、夜になっていた。


「こんなに話し込むことになるんだったら、何か飲み物でも買っておけばよかったかな」


 今日は組手で大立ち回りを演じたこともあり、早めに寝ようと思っていた。だがこんなチャンスは早々ない。今は眠気よりも、興味のほうが上回っている。そわそわする大智に、戻ってきた恭介から声がかかる。


「悪いな。待たせた」

「いえ、大丈夫です。それより続きを……」

「ああ、すまん、一つわがままを言うようなんだが……」

「……?」


 何かばつの悪いというか、歯切れが悪い恭介の態度に首を傾げる大智。


 何か急用でもできたのだろうか。いつも淡々としている恭介のちょっと困ったような姿は新鮮で、物珍しい目で見てしまう。


「電話の相手、甘菜でな。大智のとこで組手の時の話してるって言ったら、私も混ぜてと」

「あー……」


 縞葦 甘菜。恭介の同期で車椅子に乗っていた女の子だ。


 大智自身は直接絡むことはなかったが、事件を起こした際に、妹をつきっきりであやしてくれていたらしい。妹から話も聞いていたし、いつかお礼を言いたい気持ちもあった大智は、恭介の提案を受け入れることにした。


「俺は全然大丈夫ですよ。妹がお世話になったから、お礼も言いたいですし」

「あいつ変なとこで首を突っ込みたがるんだ。悪いな」


 これは尻にひかれてるなーと、にやにやする大智を軽く小突き、返信する恭介。そして再び腰を下ろした。


「あれ、迎えに行くか、場所変えたりしないんですか?」

「ああ、どうやら寮にも一度来たことはあるみたいでな。直接来るらしい」


 直接とは……? 甘菜が車椅子を利用していたのは、遠めだが見たことはあるから知っている。なかなか一人で動き回るのは大変だと思うが、たまたま近くにいたりしたのだろうか。


「すまんが、ベッドの上だけ少し綺麗にしてもらっていいか?」

「……? はい、分かりました」


 大智の部屋は住み始めということもあって、別に物が散らかっているわけでもない。ただベッドの上には、能研の制服やらいろいろ投げたままにしてあった。


「これでいいですかね」

「ああ、いろいろ注文付けて悪いな。助かる」

「いえ、全然」


 今までは能研でしごかれていた時のイメージが強く、組手の時同様、隙が無く鋭いイメージだった。だが話してみると彼女さんに対してたじたじだったり、そうした人間味がしっかりあるなとぼんやり思う。


 最後の新手の能力? も大智を認めたからこそ、出した技能だとしたら、奮戦した甲斐はあったと思う。


「甘菜には連絡したから、もうすぐ来るだろう。大智もそこから動かずにな」

「はあ」


 いまいち恭介の意図を図りかねている大智だったが、大人しく指示に従う。この辺は不器用というか、口数少ないのが仇となってるかな、などと恭介へのイメージを自己修正した大智は、心の中で適当なダメ出しを送る。


 そんな中、顔を上げた大智の目にとんでもない光景が映りこんできた。


 女の子が上から降ってきたのだ。そして、そのまま恭介の上へ。


「ばっ、うおおおお!?」

「あははは、到着~!」


 なんとか受け止めた恭介はもつれながら、二人で部屋内を転がる。幸い恭介の鋭い反応のおかげでけがなどはなかったようだ。


「いやー、恭君なら受け止めてくれると思ったよ」

「……。いや、飛んでくるって言うから、わざわざベッド開けてもらったんだが」


 けらけら笑う甘菜に文句を言う恭介だったが、ごめんごめんと謝る甘菜相手に肩を落とすしかなかった。


「えっと、ちゃんと挨拶するの初めてだよね」

「あ、はい」


 恭介の隣に座り、大智へと視線を移す甘菜。大智は展開についていけず、とりあえずの返事を返すだけだ。


「縞葦 甘菜、情報班所属。今は2年目に入ったばかりの転移系能力者です。よろしくね!」



 *



「恭君がずっと大智さんの話ばっかりするもんだから、私も会いたくなっちゃって」

「はあ、そうなんですか」


 突然押しかけてごめんね、とやんわり話すが、イメージと行動のギャップがすさまじすぎる。ほかの転移系能力者というのもこんな感じなんだろうか。恭介が大智の話を人によくしていた、というのも驚きだが、今は全部甘菜に持っていかれてる感が否めない。


「情報としては知ってましたけど、実際に見るとやっぱりびっくりしますね」

「あはは、驚かせてごめんね」

「甘菜の能力は『指定転送(ピンポイント)』。一度行ったことがある場所や、目の届く範囲に転移できる能力だ」

「あー、それ私が言うやつなのに!」


 先ほどの仕返しか、恭介が甘菜のセリフを奪う。二人から三人になったことで、場も一気に賑やかになった。


 何よりふわっとした可愛い女の子がいるだけで、場の華やぐ感じが出て、それだけでにやけてしまう。もっとも先輩の彼女を変な目で見ることはないが。というかこのバカップル少しは自重しろ。


 他人がいる空間にも関わらず、彼らの距離の近さに謎の殺意が芽生えそうになる。


 甘菜が持ってきてくれた飲み物をあおり、何故か荒む大智の心。可愛い可愛い妹の姿を思い出し、平静を保とうとする。そんな彼自身、割とシスコンなのは残念な事実であった。


「そういえば組手の時の話で盛り上がってたんだっけ」

「あ、そうですね」

「私も人づてにしか聞いてないから、興味あって。お二人の口からいろいろ聞いてみたいな」


 それからは武勇伝よろしく、あれやこれやと話をし甘菜がそれに乗っかるという形で、大層盛り上がった。自身の負い目から能研に仮所属となった身で、どこか肩身が狭かった。だが今は違う。


 恭介と甘菜。事情を知った上で、好意的に接してくれる人がいる。大智はここでようやく打ち解けることができる先輩、いや仲間を得たような気がした。


「いやー、すごいね。恭君と渡り合える大智さんも。みんな褒めてたよ」

「いや、俺なんてまだまだです」


 甘菜は聞き上手なのだろう。お酒を飲んでいるわけではないが、いい気分で話せている。年も3人近いということで、二十歳を超えたら今度はまた集まってお酒を飲もう、という話すら沸いた。


「でも最後は惜しかったね。手加減できない恭君の意地が勝った感じかな」

「微妙に棘のある感想どうも」

「確か聞いた話だと、最後熱の輪っかを恭君が飛んで避けて、そのまま背後を取って決まり、だったかな」


 何気なく発した甘菜の言葉に、大智は思わず咳き込んだ。


「……!? ちょっとその時の状況、詳しく聞いてもいいですか!?」


 突如食いついた大智に、甘菜は思わず後ずさりながらも、先ほどと同じ内容の話を繰り返す。


 最後”日輪(サンリング)”が迫った状況で、恭介の取った行動は「跳躍」。周りには”日輪”は不発で消滅し、恭介の姿を見失った大智の後ろを取って勝負が決まった、というように捉えられたらしい。


 何かが掴めそうな気がしている。自身が見た光景と、周りが見た光景の違い。”日輪”の不発。


「大智」

「……あ、はい」

「随分と話がそれてしまったが、答え合わせするか?」


 恭介も気づいている。大智が何か掴みかけているのを。今更答えをごまかしたり、話をなしにすることはしないだろう。


 ただ問いかけているのだ、お前に分かるかと。


 今後生死がかかる戦いをすることがあるかもしれない。その中で命運を分けるものがあるとするならば、気づけるかどうかだ。一つ一つの判断が、文字通り命取りにも起死回生の一手にも繋がる。


 それを磨くには与えられた情報の中で、考えて考えて考えることだ。それは絶対にやめてはいけない。不思議な顔で窺う甘菜に、恭介がそっと静かに見守るよう促す。


 大智は反芻し、意を決して口を開いた。



「恭介さんの能力は……『対象を強化する能力』と『存在を認識できなくさせる能力』です……!」

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