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SHADOW BIRD  作者: 下野 遊々
1章.闇討ち烏は闇夜に嗤う
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7羽:予期せぬ来訪者

 日も暮れた頃、ピンポーン、とインターホンの音が鳴る。


 「はいはい、今開けます……って先輩?」


 演習という名の激戦を終え、体を休めていた大智を訪ねたのは恭介だった。


 演習の復習と明日のスケジュールを確認していた大智は驚いたものの、自分の部屋にそのまま招き入れる。



 能研預かりの身となった大智だが、今は能研の寮で生活をしている。


 自宅から通えない距離ではなかったが、立場上それは許可が下りなかった。外出するのにも申請と許可が必要ではあったが、いずれにしろ己と向き合う時間が欲しかった大智にとっては、むしろよかったのかもしれない。


「急に悪いな。できたら早めに話しておきたいことがあってな」

「いえ、全然大丈夫です。でも話って?」


 部屋に入り、早々に訪ねた目的を話す恭介。大智にとっては、予想がつかず首を傾げるばかりだ。


「なに、俺の能力の話をしておこうと思ってな」

「あー、なるほ……はいいっ!!?」


 思いもかけない申し出に思わず変な声を上げる大智。大丈夫かと真顔で心配する恭介に、大丈夫じゃないとジェスチャーを送る。


「なんだ、聞きたくなかったか?」

「いや、それはもちろん聞きたいですけど!? でもなんで今になって?」


 恭介の能力。ランクA-の能力者という情報しかもっておらず、戦いのさなかでも正確に把握することはできなかった。


 教えを乞う中で様々な質問をしたが、恭介は自身の能力に関しては秘密主義。ほかの戦闘班の面々にすら、正確に能力の詳細は掴ませていないほどだった。


「今日の頑張りのご褒美、というのは冗談だが、そうだな……ある意味打算的な理由だな」

「打算的……」

「今日の組手の決着、納得はしてないだろう?」

「……!!」


 心を見透かされたようで、体が硬くなる。そんなに緊張する必要はないと、態勢を崩しながら、大智にもリラックスするように促す恭介。


「お前は頭が回る。ほっといたらほかのメンツも巻き込んで、俺の能力の絡繰りに気づきかねないと思った。なら、お前一人に話して言いくるめておけば、まだましというものだ」

「俺口封じに殺されたりしませんよね……」


 己の力を誇示するためか、能力をひけらかすものも少なくない。


 その中で恭介はある意味、真逆の精神を持っていると言ってもいい。その徹底したスタイルゆえに、不穏な妄想をしてしまう大智。だが、ここにきて初めて恭介の顔が緩む。


「そんな心配するな。そもそもAランク以上の正隊員なら、能研のデータベースにアクセスする権限がある。遅かれ早かれというやつだ」


 暗に大智が正隊員になることを確信している言い回しに、少し胸に来るものがあった。


 能力ランク的には申し分ないとしても、まだ仮隊員の身だ。おまけに経緯が経緯なだけに、それを知った上で太鼓判を押してくれる恭介の存在は、大智にとっては非常に大きかった。


「……ありがとうございます。データベースってそんなに細かく出てるんですか?」

「閲覧できる情報の中で技能の詳細まではない。ただどういったタイプの能力者か、把握する分には十分な情報だ」


 己を知り、相手を知り、能力を知れ。恭介が常々言っている言葉だ。


 己の能力を把握し、相手の能力に合わせて最善手を繰り出す。戦闘班が赴くのは、超常の力が飛び交う戦場。それが誇張でも何でもない、命運を分ける重要なファクターだと、知っているからだ。


「さて、本題に入る前に、大智の見解を聞いておこうか。ある程度予想はしているんだろう?」

「は、はい……!」


 本人を前に答え合わせとは、緊張するなというほうが無理な状況だ。


 今日最後の組手において、一時は状況的に優勢にまで持ち込んだ。恭介が本気だったかは置いといて、その時点での認識は間違ってないだろう。自身の能力を突き詰め、最善手を尽くせた。


 本人は認めないだろうが、この答え合わせはそれができたご褒美でもある。そう思うのは、決して的外れではないはずだ。


「恭介さんの能力……『対象を強化する能力』だと推測してて、それ自体はあながち間違いでもないと思うんですが」

「ふむ」

「ただ、最後の負け方がどうしても引っかかって……別の能力の可能性も、今は持ってます」


 なるほどな、と頷く恭介。


 『対象を強化する能力』、そう仮定するだけで、恭介の行動の大半は説明ができるのだ。身体強化をし、武器強化をし、もしかしたら感覚強化まであるのかもしれない。


 実際の動きとしては接近して武器で攻撃する。ただそれだけなのだが、その威力と精度だけでランクAの発火能力者を抑え込むのだから、使い手の技量には舌を巻くしかない。


 もちろん仮定が正しければの話だが。


「別の能力の可能性、と言ったか……そこに当たりはついているか?」

「それは……」


 恭介からの問いに、言い淀む大智。


 実際のところ大智には全く見当がついていなかった。ただ『対象を強化する能力』だとすると、どうしても説明がつかないことだけは確かなのだ。もちろん高ランクの能力であれば、性質の異なる技能なども出てくるだろうが、大本は一つの能力だ。


 大智ならば『紅焔(プロミネンス)』。一言で説明するなら発火能力者。


 では恭介を表す言葉は何になるのか。そこさえ分かれば、何か掴めそうな気はする。最後の最後、茫然自失とした不意の負けではあったが、あの状況を今一度思い起こそうとする。


「"日輪(サンリング)”で攻撃を仕掛けた後、俺は”黒点(ステアファイア)”、あ、青い炎のやつなんですけど、それで狙いを定めてました」

「その技能の話も聞きたいが、まずは続けてくれ」


 真剣に耳を傾けながら、恭介が相槌を打つ。


「はい。体力的には限界でしたけど、外さないようにしっかり見てました」

「ああ」

「だから、姿()()()()()なんてこと、考えられないんです」


 あの最後の衝突の場面。恭介が大智に辿り着くまでに、”日輪”が恭介に届く方が間違いなく早かった。ただその場面は結局訪れなかった。”日輪”が恭介に接触しようかという際に、恭介の姿が消えたのだ。


 ぎりぎりまで引き付けて、最後の攻撃にかけていた大智。


 それがまさか突如相手を見失い、次のタイミングには後ろから黒刀を背中に当てられていた、というのが一連の動きだ。


 これによって考えられるのは、「姿を消す」あるいは「瞬間移動」などの能力のたぐいだ。「対象を強化する能力」とは系統が違いすぎる。


 恭介が来るまでに、組手の内容を振り返っていたりもした。だが能力考察においては必ずそこにぶつかり、先に進めないでいた。自分だけで考えるには限界がある。


 悔しいが白旗を上げて、教えてもらおう。


 そう思って顔を上げた大智だったが、声を発する前に恭介のポケットから携帯の鳴る音が響くのだった。

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