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SHADOW BIRD  作者: 下野 遊々
1章.闇討ち烏は闇夜に嗤う
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4羽:影を追って身を焦がす

 父と母は研究者だった。


 家族そろって非能力者ではあったが、特区に引っ越し必然的に能力者との共生が始まった。


 理由もなく非能力者が特区へ移ることはできない。だが仕事関係などで特殊な申請を出した場合は、移住が認められていた。実際日常生活でそこまで違いを意識することはなかった。


 能研第1支部に近いということもあり、治安はよかったからだ。


 中には非能力者だからといって下に見られることもあったが、社会全体でそういう目で見られることはなかった。何せ元々は彼らも非能力者だったから。


 そして、10代の能力発現者は、世帯で引っ越してくることも多い。その関係者も含めれば、決して特区内の非能力者の割合も少ないわけではなかったのだ。


 そんな中で多少なりとも特区での生活に慣れてきた彼ではあったが、その自負はあっさりと打ち砕かれていた。すごいところに来たな、と何度思っただろうか。目にするもの全てが、今までの常識を否定するようなものばかりで、ただ圧倒されていた。



「……おい、聞いているか大智」

「……! あ、はいすみません、先輩」


 先輩はよせとぼやくのは、隣で指導していた恭介だ。


 能研預かりの身となった大智は、日夜修練に励んでいた。能研の黒い制服に身を包んでいるのは恭介。大智は仮所属扱いを示す灰色の制服を身にまとっていた。


 能研の演習場で訓練を積んでいる二人。


 その周りにはほかの能研所員、とりわけ戦闘班の面々の姿があった。宙に浮きふらふらしている相手に、なにか怒鳴りながら氷の杭を生成し打ちまくる者。お互い武器を持ち高速で切り結ぶ者。戦闘人形を作り出す相手に身一つで殴り合いを挑む者。


 普段の演習風景であったが、それぞれの能力を惜しみなく放つ光景はなかなか戦闘班所属でなければ見られないものでもあった。


「……毎回こんな感じなんですか?」

「ああ、メンツにもよるが大体こんなもんだ」


 能力は使ってこそだ、と恭介は言う。


 普段から訓練して使うことの重要性。

 己の能力を知り、実戦に活かせることを知っているからだ。


 能力者は能力が発現した時点で、己の能力名、使える技能(スキル)などは、頭に入ってくる。まるで最初から知っていたかのように。


 そういう意味では能力的にやれることというのは、すでに頭に入っている。だが受けた相手側の反応や、技能の連携など、訓練や実戦で使わないと見えてこないものもあるのだろう。



「休憩はそろそろいいか? 続き始めるぞ」

「はい!」


 大智が使っている能力は『紅焔(プロミネンス)』。


 ランクA-の評価を受けた強火力が持ち味の発火能力だ。


 ただ強力ゆえに取り回しは難しい。単純に相手を倒すということのみに意識を持てば話は別だが、やりすぎると相手を殺めてしまう事態になりかねない。だからこそ訓練のうちに、能力の加減の仕方を身に着けてほしいという、恭介なりの思惑があった。


 恭介との何度目かになる組手。


 大智の瞳には、右手に刀を持って戦闘態勢に入る恭介の姿が映る。


 通常の組手では事故防止のため、事前にお互いの能力を把握しておくのがルールだ。だが今回、大智には恭介の能力は()()()()()()()()()()


 そういった難しさもあってか、ここまでは全く恭介を捕らえることができず、あっさりと斬り伏せられていた。内容は単純で、動き回る恭介を捉えきれないうちに接近を許し、そのまま刀を突き付けられ詰むというもの。



 恭介が大智に語った、もう一つ大事なこと。


 それは、相手の能力を知ることだ。


 戦闘班所属の所員は、必然的に能力者を相手にすることになるわけだが、突発的な戦闘の場合は、特にそれが重要となる。型にはまれば強い初見殺しのような能力もあるので、いかに早いうちに相手の能力を見極められるかが鍵となるのだ。


 大智は観察を繰り返す。恭介の戦い方はいたってシンプルだ。


 必要最低限の動きで相手の攻撃を躱し、自身の距離で勝負する。動きから察するに身体強化はまず間違いなくしているだろう。ただ身体強化能力者だと断言するには納得できない部分もあった。


 能力にはそれぞれ使える技能が複数存在し、それを駆使して戦う。


 一撃の破壊力に長けた身体強化能力者であれば、技能数はあまり多くはない。それでも高ランクの能力であれば、例えば強化の付与能力など、派生は広がっていくのだ。


 聞いた話ではあるが、恭介のランクもA-。


 決して能研内でも多くはない高ランクの能力者だ。であれば、複数の技能持ちである可能性は高い。



(まずこれを簡単に潰してくるのがおかしいんだよな……)


 今大智を中心にして、細い輪っかの様なものが光り輝きながら高速回転して浮いている。


 これは『紅焔』の技能の内の一つ、”日輪(サンリング)”。自動障壁の役割を担う技能だ。


 下手な攻撃では全て弾かれ、武器で殴りかかっても武器が欠けるという、優れた性能を誇る。ただ恭介に数回武器で切りかかられると、こちらが先に砕けてしまうのだ。


 恭介のメインウェポンは腰の後ろ辺りに装着している3本の刀。


 ナイフよりは長いが、それよりほんの少し長いぐらいの小刀だ。黒光りする黒刀で、今は3本のうちの1本を右手に構え、隙を窺っている。


 もちろん”日輪”自体にも耐久値はある。


 恭介相手でなくとも耐久値の限界を迎え、壊れるというケースはあった。だが恭介相手では、張りなおす間もなく高速で壊され、そのまま詰まされてしまうのだ。



(身体強化……いや、武器も強化しているとすれば、説明も付くか?)


 炎を操り、なんとか足止めして優位に持っていきたい大智。


 足止めできれば、別の技能を使えるチャンスが来る。数回詰め寄られながらも、”日輪”でなんとかはじき返し粘ることで、いつしか恭介の自由に動ける範囲を狭めていく。


 周りで組手を行っていた者達も、戦闘に巻き込まれたらたまらないと避難を行いながら、戦況を眺めあれやこれやと話している。


「最近活きのいいの増えたよなぁ。俺なんて一発で燃えたぜ」

「あんたは逆になんでそれでぴんぴんしてんのよ……」


 野次馬根性よろしく外野で騒ぐものが増える程度には、大智の粘りは続いていた。


 身体能力に差があるのは歴然。


 恭介から1本取るためには、まず近づかせないこと。直接燃やすようなことは流石に考えてないが、周りを炎で囲うことで、逃げ道を断ち白旗を上げさせようという作戦だ。


 依然涼しい顔で様子を窺う恭介。


 だが大智の胆力により、少しずつではあるが戦況は変わろうとしていた。

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