第七話 ダンジョンへの一歩
更に一週間が経過した。あれから珠鈴のおかげで、決心がつきオーディーに神殿への申請を申し込んだ。それに向けての訓練を積んできたのだ。
「ステータス」
現在のステータスはこうだ。
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オクムラ ユキ 17歳 男
種族 人間
職業
レベル 2
体力 15
筋力 10
脚力 10
防御力 10
魔力 15
抵抗力 15
能力
適応 魔法適正ゼロ
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成長は著しくないと言ったところだ。1レベルで5上がる程度である。当然の如く現在の慧馬のステータスはこんなもんの比では無い。
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クロキ ケイマ 17歳 男
種族 人間
職業 北の勇者
レベル 10
体力 2000
筋力 1500
脚力 1500
防御力 1500
魔力 2000
抵抗力 2000
能力
適応 魔法適正・全 成長速度・倍 取得経験値・倍 会心の一撃 限界突破
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成長速度・倍と取得経験値・倍の効力が素晴らしく、なんと1レベルに対してステータスが100上がるというチートとなっている。
さて話を戻すが、このような状態で神殿に潜るのは、正直自殺行為に等しいのだが、オーディーもいる事だし、そして何より追いつかなくとも慧馬たちには近づきたいのだ。それは一種の願望である。誰よりも憧れた異世界というファンタジーに、誰よりも相応しくないステータスを所持している自分。それに比べ周りの人たちはそれ相応のステータスを保持している。それが羨ましくてしょうがないのだ。
「準備はいいか?」
オーディーの問いに雪は力強く頷く。真剣そのものの顔にオーディーの目元は柔らかくなる。
「そうか·····では、行ってまいります。期間は一週間。それでケイマたちに追いついて見せますので」
見送りに来たガシュにへとオーディーがそう告げた。
西の神殿へは転移術で向かう。もちろん一方通行だ。帰りは馬車で三日という事なので、実質レベルアップする期間は四日である。西の神殿は、白虎が眠るとされる神殿である。
当然、このダンジョンを選択したのは理由があり、西の神殿は基本的に出現する魔物が近距離攻撃が多いのだ。最悪の場合フォローに回りやすいというのも理由の一つとして挙げられる。
魔物の中には魔法を使用する種族も存在し、特に東の神殿では、そのような系統の魔物が多い。しかし、だからといって西の神殿が危険な事には変わりない。
オーディーもいつものようにおちゃらけてる訳でなく、真剣な顔つきである。
「うむ。では済まないユキよ。慣れないだろうが、ステータスの上昇を期待している」
ガシュの言葉を最後に、足元から青白い魔力の粒子が魔法陣より放たれ始める。もちろん見送りはガシュ一人だけでない、慧馬たちの姿も見える。
「じゃあ奥村頑張れよ! 俺も頑張るからさ」
「おう! 四宮もありがとな! お前に負けないように頑張るよ」
雪の言葉に珠鈴は嬉しそうな顔で頷く。
「頑張ってね!」
「応援しているわ」
「死ぬなよ」
そして、急速に粒子が放出されていく
「もちろんだよ! じゃあな」
やがて、雪の姿は見えなくなった。
光の強さが段々と弱まっていく·····。
目の前に広がるは未知なる領域。
ベースは白で、所々装飾されている。それを俗に神殿と呼ぶ。西に位置するこれは、白虎が眠られているとされ、力欲しさに近づこうとすれば、帰ってくるのは屍だけだという。
そんなダンジョンの近くにある小さな祠に今、雪とオーディーは到着した。と言っても転移でビュンだったが。
「よしっ、期間も少ない。今日にでもレベルアップを目標に潜るぞ。攻略は四勇と共にだ。アイツらの足を引っ張らないためにも、お前には早急に職業を与えなくてはならない」
オーディーの言葉に雪が頷く。
ちなみに四勇とは読んで字のごとく四人の勇者の事だ。この場合、慧馬たちを指す。
それと、説明が遅れたが、職業の利点とすれば、モチベーションが上がる事だ。一見、さほど重要じゃないと思われるが、戦いでは何よりも不可欠である。意気消沈してしまえば、全体的に士気が下がる。それは何よりもなってはいけない事なのだ。
しかし、職業というものがあれば、「俺は○○だから行ける」や「俺は○○だ! みんなついてこい!」など、全体の士気が上がり、なおかつ本人のモチベーションも上がるという一石二鳥の役割を果たすという何よりも必要不可欠である。
よって早急に職業を任命する為に、早速西の神殿にへと向かった。
汚れ一つない見事な純白が雪たちを出迎える。しかし、ここで驚きなのが、案外人が多いという事であった。
オーディー曰く、ダンジョンは人々の生活を補っているのだという。シュタルの授業でも習った通り、魔物はダンジョンにも蔓延っている。魔物の存在は、人々の脅威であると共に、それから取れる素材は生活を支えている。必然的に冒険者などで溢れかえっているのだ。
「いいか? ダンジョンではソロで潜るのはやめろ。最低でも二人体制だ」
ダンジョンへと入る前に、オーディーが注意を促す。実は、今まで何度も言われてきた言葉なのだが、それほど彼は真剣に雪の身を案じているのだろう。戦力外だからといって、追放されるととも一時期思っていた雪には驚くべき事なのだが、同時に嬉しさも込み上げてくるものだ。
この人の期待にも応えるべく、レベルアップに勤しむとしよう。
「お二人ですね。では失礼ですが、階級を見させていただいてよろしいでしょうか?」
階級――言わば冒険者のランクと言ったところだろうか。
順にブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナとなっている。
このようにダンジョンに潜るには、手続きが必要不可欠である。それはダンジョンで命を落とす事なんてざらにあるからだ。それにいちいちやれ金やら、やれ責任やらと国に訴える遺族が多いので、仕方なしに設置したものだ。すなわち責任も金も知らないです、と自己責任でお願いします、と言うことだ。
「階級か·····"ステータス"これで充分か?」
「き、ききききき、騎士団長様でしたか!? それは大変失礼な事を·····してそちらの方は?」
受付の女性がびっくりするほどの奇声を上げた。茶髪を後ろに三つ編みでまとめていて、実に可愛げのある女性なのだが、その奇声も相まって彼女の第一印象は"勿体ない"であった。
「こいつは、今年入団した新人でな、少しダンジョンのイロハも教えてやろうと思ってんだ」
以前打ち合わせした設定を、オーディーが言う。勇者として召喚されたとなっては、どんな危険が及ぶか分からない。実力が伴ってない内は、隠すようにガシュに命じられたのである。
当然、あの騎士団長様が嘘なぞをつくはずないと思っている女性は、未だに慌てながらも、さすがプロといったところか仕事だけはしっかりとこなす。
「わ、わかりました。如何に騎士団長様でも自己責任でお願いしますね。そちらの男性もお気をつけて」
あれほどの慌てぶりをしていた女性は、一転、笑顔で手を振る。それは確かに、心配しているのかもしれないが、雪にはもっと別の理由があるのでは? と感じてしまった。
そんな女性に軽く会釈しながらも、雪たちは遂にダンジョンへの一歩を踏み出したのであった。
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