第四話 最弱《魔法適正ゼロ》
「では、早速ステータスを確認させて貰うぞ!」
オーディーの張り切った声が、王城の訓練所で響き渡る。「元気だなぁ」と苦笑しながらも、これから一ヶ月間、ある意味先生となるオーディーに全員が真剣な眼差しを向ける。
「よしっ、では早速『ステータス』と言いたまえ。こんな感じでなステータスッ!」
すると、オーディーの目の前には、あの時、教室で見た青白い光の粒子が、薄い板状に形成されていく。そしてオーディーの手元には何やら文字が書かれたスマートフォンぐらいの大きさの板が完成した。
「これが、ステータスプレートという物だ。ここには個人の情報が表示され、国や町に入る時のパスポートの役割としても重宝されるものだ。そして――」
オーディーが「解除」と言うと、ステータスプレートは霧散し、消えた。
「このように、魔力の粒子に戻すことが出来る。ふははッ! どうだ? 面白いだろう?」
曰く、万物誰しも魔力を保有しており、その魔力の粒子を体外へと放出し、自らの強さ――ステータスを確認する事が出来るとの事だ。これを目の当たりにした雪は目を輝かせ、早速「ステータス」と言ってみる。そして、雪に続き、各々がステータスを確認していく。
そして、雪の手元に形成されたステータスプレートには、このようなステータスが表示されていた。
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オクムラ ユキ 17歳 男
種族 人間
職業
レベル 1
体力 10
筋力 5
脚力 5
防御力 5
魔力 10
抵抗力 10
能力
適応 魔法適正ゼロ
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(ちょっとまてぇい! スキルおかしいだろ? 何だこの『魔法適正ゼロ』ってよ!?)
明らかにおかしいステータスに雪は驚愕を隠せない。しかし、現実は非常である。ここでオーディーが追い討ちをしたのだ。
「この世界の平均は50前後だな。推測だが、お前らはその倍ぐらいはあるぞ」
その言葉に雪は目の前が真っ暗になった。雪たちの·····いや慧馬たちのステータスが強いという事を伝えたかったのだろうが、雪のステータスは筋力、脚力、防御力は5、それ以外は10と全体的に低い、低すぎるステータスである。
必然的に雪のテンションはだだ下がりだ。魔法も使えない、かと言ってステータスすらも弱い。一体自分には何が出来るのか? と自問自答を繰り返す。
そんな中、雪の耳に歓喜したオーディーの声が入る。
「ほぉ、ケイマのステータスは流石だな! 生まれてこの方このステータスは見たことないぞ!?」
そんな慧馬のステータスはと言うとこうだ。
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クロキ ケイマ 17歳 男
種族 人間
職業
レベル 1
体力 200
筋力 150
脚力 150
防御力 150
魔力 200
抵抗力 100
能力
適応 魔法適正・全 成長速度・倍 取得経験値・倍 会心の一撃 限界突破
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まさにチートの一言に尽きる。オーディーの話からすると、慧馬のステータスは常軌を逸している。そして、これこそ雪の望んだステータスで
「いやぁ、それ程でも無いですよ」
これが、言ってみたかった台詞だ。謙虚な主人公。それに惹かれていく王女様、そして誰よりも強い圧倒的な力を魅せ、それによりハーレムが築かれていく·····異世界転移もの小説のテンプレ的な展開だ。
しかし、雪の絶望はここで終わらない。次々とオーディーがステータスを確認していく中、各々のステータスが如何に化け物じみてるのかが分かっていく。
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ササキ カイト 17歳 男
種族 人間
職業
レベル 1
体力 150
筋力 100
脚力 150
防御力 150
魔力 200
抵抗力 150
能力
適応 魔法適正・火・木 成長速度・倍 魔法習得速度・倍 魔力暴走
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シノミヤ ミスズ 17歳 女
種族 人間
職業
レベル 1
体力 150
筋力 100
脚力 200
防御力 150
魔力 150
抵抗力 200
能力
適応 盗み・速 地図化 気配察知 気配遮断
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ナナクサ アカネ 17歳 女
種族 人間
職業
レベル 1
体力 200
筋力 100
脚力 100
防御力 150
魔力 150
抵抗力 200
能力
適応 魔法適正・治癒・全 神の奇跡 女神の涙 詠唱省略
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(ああ、格差とはここにあったのですね·····)
もはや絶望通り越して、悟りを開く事しか出来ない雪にオーディーが来る。雪のステータスを確認する為だ。
「さぁ、最後はユキだ。どれ見せてみろ」
オーディーが未だ悟りを開いている雪の手元にあるステータスプレートを見る。当然そこに表示されているステータスに驚くわけで、それにより、どうしたものかと全員が雪のステータスを見るはめとなり、雪に"最弱"というレッテルが貼られてしまった。
「魔法適正ゼロだと!? ·····ま、まぁ、気にするな。ステータスってのはな、当然上がるんだよ。レベルと表示されているだろう? 後で姫殿下に教えて貰えるはずなのだが、この世には魔物が存在する。魔物を見事倒せば、経験値が取得出来る。それがある程度溜まるとレベルが上昇するんだ。すると、ステータスが上がるという仕組みという訳だ」
さすが、ファンタジー。レベルアップという概念が存在していたとは、これならまだ雪にもチャンスがある·····と思ったら大間違い。いや、チャンスはあるのだが、慧馬たちには生涯を費やしても追いつかないだろう。初期値が圧倒的に違うのだから。
しかし、ここでグチグチ言ってもしょうがない。だが、この中で一番この世界に心を踊ろさせていた雪は未だ立ち直る事が出来ず、これから自分に襲いかかってくるだろう、魔物たちに身震いした。
そんな雪の様子を見かねて、慧馬が励ます。
「大丈夫だ。安心しろ! 俺らがしっかりとお前を守る、助ける。だからこれから王国のために頑張ろうぜ?」
自慢のイケメンフェイスを輝かせながら、かっこいい事を告げる慧馬に、雪は次は、別の意味で絶望しかけるが、気を取り直す。
「そ、そうだな! レベルアップして強くなるさ」
「それじゃあ。みんながんばろー♪ えい、えい、おー」
珠鈴の声に合わせ「おー」と全員が声を揃えて、こぶしを高く突き上げたのであった。
◆◆◆◆◆◆◆
時は夕刻。完全に日が傾き始めた頃。ようやく今日の訓練が終わった。
慧馬は慣れない剣を振り回して疲弊し、海斗は魔法の存在がイマイチ理解出来ず難航し、珠鈴は、地球より遥かに速く動ける自分についていけず、茜は、魔力を高めようと魔力を駆使し続け、魔力欠乏症に陥っている。
そして、"最弱"の雪はと言うと
「九百九十九! せ〜ん! ッ! はぁはぁ」
ひたすら筋力や脚力という基本的なステータスを向上する為に筋トレに励んでいた。雪のステータスでは剣すら持てず、まずはステータスを上げようという話になったのだ。
というより、初日は各自、自由に訓練を行った、オーディーの特別訓練は次回からだという。理由としては最初は自分の力に慣れといた方がいいからだ。ステータスというまず、地球にない概念が雪たちの身体に作用しているので、それぞれ力に振り回されているからだ。雪を除いて·····
それは、珠鈴然りである。自分の速さについていけてないからこそ、その膝を何度擦りむいた事か。そんな珠鈴にオーディーが近寄る。
「<治癒>」
初級治癒魔法 治癒――老若男女問わず誰もが使用出来るお手軽な魔法だ。地球で言うところの救急箱みたいな感じである。
「ほら、これで大丈夫だ。よしっ他に怪我した奴は居ないか?」
珠鈴の軽い擦り傷を<治癒>で回復し終え、次に怪我した人が居ないか確認をとる。
「そうか。じゃあ今日は解散! 明日は姫殿下による勉学会だ。この世界の知識や魔法についての知識を叩き込まれてこいッ!」
怪我人が居ないことを確認したオーディーが明日の予定を伝え、解散させる。
各々疲労した顔色で部屋にへと帰っていった。ちなみに今日は全員、寝付きが早かった。
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