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第三十九話 隻腕の魔術師と神々


 ある日の早朝――


 病院からいそいそと足を忍ばせ、病院棟から抜け出す人影が三つ。

 言わずもがな雪たち三人である。


 なぜかと言われれば、怪我は完治しているのでこの国のためにも海斗を追うため、ダンジョンに向かわなければならないからだ。


 まだ日も昇ってないうちに抜け出すには深い意味はないが、強いて言えば次向かうダンジョンは南の神殿(ダンジョン)だ。場所的にも早めのうちが良いだろうと行動したのだが、王都の門を抜けた先にはカマーとカナの姿が見えた。


「こんな朝早いのにもう出発ですか?」

「まぁな」


 そして訪れる静寂。


 破ったのは雪だ。


「じゃあ俺らは行くよ」

「そう·····セラちゃんは別だけど、ユキちゃんやハクちゃんとは会って日も浅いのに何だ身の心配をしちゃうけど、しっかりとやるのよ?」


 カマーの言葉に「おかんかよ」と言葉にもならない程度にツッコミを入れ、雪は踵を返す。


「分かってるよ。今後はコイツらと()()に頑張るからな。あんな怪我はもう二度としねぇ」

「なら大丈夫。じゃあセラちゃん、ハクちゃん。ユキちゃんになんかされたらワタクシに言いなさい? 飛んで殴ってやるから」


 カマーの言葉に苦笑するセラとハク。


「もしなんかあったら教えるわ」

「うん。主様になんかされたら言うね!」


 その言葉に満足そうに頷いてカマーは雪たちに手を振って笑顔で見送った。




「行っちゃったわね」

「そう、ですね·····」


 見送りの際一人完全に作り笑いで見送ったカナは悲しげに肯定する。

  そんなカナの背中を叩き、カマーは今はもう見えない雪に向かって恨めしそうに呟く。


「うちのカナをこんなにさせちゃって罪な男ね」

「そ、そんなんじゃっ!」


 慌てて否定するがカナの頬はこれでもかも言うぐらいに紅潮している。

 異性への好意というよりも、雪に向けて抱く思いは感謝という気持ちが大きい。


「·····ギルド職員に好意の念をぶつけてこないのは、好印象でしたけど·····」


  カナ含めて受付嬢に好意の念をぶつけてくる冒険者は多い。

 雪が入った時はそういったテンプレは起こらなかったが、実際そういう経験をカナはしている。


「そうよねぇ。ユキちゃんほとんど興味を示さなかったからねぇ」

「はい」

「そこでカナの火がついちゃったってわけ?」

「そうじゃありませんッ!」


 ぷりぷりと可愛らしく怒りながら、カナは踵を返し王都へと戻っていった。

 そんなカナを見ながらカマーは苦笑いを浮かべたのだった。


◆◆◆


「ユキ! 次は南の神殿(ダンジョン)に行くのよね?」

「そうだ」


 セラを胸に抱き、ハクを背中に回し、首を掴ませ蹴空を発動させる雪。

 もちろん今会話が成立しているのは魔力で風を防いでいるからだ。


「あれ? 主様·····あれ」


 ハクが何かに気づいて雪の足を止めさせる。


 訝しげに指さされた先に目を凝らせば、人影が一つ地上にあった。

 普段なら気にもしないだろうが、何か変だ。


――と思えば、瞬間、魔力が()()()


「こんなところで何をやっている?」


 地上に着地して目の前に立っていたのは、エルだった。

 炎上の後、ある程度の事は聞いたので自由にしろも放ったらかしにしたのだが、何故ここにいるのか分からないと言った様子で雪が尋ねる。


「私は自由という事をしりません」

「そうか」

「はい。ですので、あなたについて行くことにしました」

「は!?」


  エル曰く、あなたに貰った命をあなたのために使いたいということで、雪は了承したのだが、女性陣特にセラがうるさかった。


「あなた·····私とキャラが被ってんのよ!」


  確かにエルの身長は低めでエルフの証とも言える長耳がなければ、幼く感じる。

 次に殺し屋と狼人の元の仕事を含めるとキャラが被っていると思わなくもない。


「それは私に言われても·····」


 当然、エルの言うことはごもっともであり、セラも分かってはいるのだが、自分の唯一の武器であるキャラが奪われかれん今となっては必死だ。

 しかし、エルの戦力は雪としても欲しいとは思っていたのだ。


  しかも、情報を得るのにエルの力は必要なのだ。戦いに必要なのは力と共に情報だ。

 この辺を含めて雪も一緒にお願いすれば、渋々とセラは了承する。


 しかし、今なおもガミガミするセラに雪は苦笑し、おもむろに空を見上げた。


 ようやく日が登り始め、優しく雪を包み込んでいく。


(俺らの旅はここから始まんのか·····)


  異世界召喚から始まった異世界譚。


  ダンジョンにガデスとオーディー共に訪れ、ヒトガタと遭遇し悲しみを知った。


 セラを守るために力を得た。


  ハクと出会い神主となった。


 色々な経験を積んで今ここに雪は立っている。


 今、思い返せば感慨深いところが多々あるが、しかし目の前に立つ少女たちに目線を転じれば


「おっそーい主様早くッ!」

「·····行きましょう·····」


 そしてセラが笑顔を浮かべて雪の手を引く。


「ほら! 行くわよ」


 そんな彼女たちを見て雪は思考を止める。


(これから沢山の事が俺らに立ちはばかるが·····)


 手を引くパートナー(セラ)に雪はそんな心配もないだろうと、口元に弧を描く。


「何笑ってんのよ?」

「·····いや、別に」


 何か含みがある雪にセラはこてんと小首をかしげるが、直ぐに元に戻りハクたちの元に向かう。


(きっと大丈夫だろう。コイツらとなら!)


 そして、雪は駆ける。


 それは地平線の彼方で浮かぶ太陽に向かって·····彼女たちの元に·····。


  隻腕の魔術師と神々の物語はこれを序章として、今始まるのだった。

お知らせを。

諸事情によりこの『隻腕の魔術師と神々 〜魔法適正ゼロの最弱が最強にへと成り上がる〜』は完結とさせていただきます。

今まで応援して頂いた方々に感謝しております。

他シリーズは通常通りに更新していくので良かったら見てください。

では、今までありがとうございました。

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