第三話 全員の決意
「ねぇ、どうするつもり?」
一番最初に口を開いたのは茜だった。
オーディーに各自の部屋を案内された後、慧馬の部屋に集まって今後について話そうという話になったのだ。
各自に与えられた部屋は流石というべきか〝豪華〟と言わざるを得ない内装になっていた。
ガシュが居た一室と引けを取らない程のシャンデリアや、赤いカーペットは元より、装飾されたシングルベット。更にはクローゼットまで完備されており、五つ星ホテルに泊まっているかのようだ。
そんな部屋の中、慧馬が先程の茜の問いに答える。
「どうするこうするもない。助けるに決まってるだろ」
この答えは正直、この場にいる全員が分かっていた答えだ。
生来、まるで〝正義の味方〟のような考えを持っている慧馬。
それは普段からあまり関わりのない雪ですら知っている周知の事実である。
そんな慧馬に、冷静を貫いている海斗が問う。
「国王は僕たちに一方的にお願いをしただけだ。それに対する報酬も、ましてや帰れるという確証も無い。知らない事が多すぎるこの状況で本当に助けると言うのか?」
今言ったことは本当で、全てが正論である。
何もかもが不明瞭で、さらに帰る手段すらも分からない。その状況で相手の願いを聞くメリットはない。
だけど、慧馬の考えは揺るがなかった。
「ああ、助けると決めたからな」
長い経験上、こうなるとこれ以上言及しても考えを帰るつもりがないと知っている海斗はため息を吐く。
「はぁ。仕方がないな。だけど、これも約束だ。ついていくよ」
予想外だったのか驚いた様子の慧馬だったが、それも一瞬で〝約束〟という言葉に笑みを浮かべる。
「ありがとうな。海斗」
「別に……だけど、その性格は早く治したほうが身のためだぞ」
「ハハッ。でも、こればっかりは治せそうにないよ」
そんな友情の隣で、共に夜空を仰ぎ見ていたのは茜と珠鈴だ。
「どうするの? 茜ちゃん。あの二人はやるみたいだけど·····」
王城の窓から眺める夜空は実に格別である。
しかし、地球の夜空とは違い月が三つあったのはここが〝異世界〟であるということを意識させる。
「オーディーさんの口ぶりから人数が必要なのは分かったわ。だから、黒木くんの言う通り助けた方がいい気がする」
どうやら茜はオーディーの言葉を細部まで覚えているほどに冷静だったようだ。
他が混乱していた中で、そこまでの芸当が出来たのはさすが我らが茜様である。
「そっか……茜ちゃんは助けるんだね……」
茜の提案にそう呟くと、昔を懐かしむように目を細める。
そして何かを決心したような素振りを見せると、おもむろに立ち上がった。
「うん。私も決めたっ! 一緒に戦う。皆で頑張ったら神様なんて一発で起きちゃうよっ!!」
拳を握って張り切る珠鈴に、苦笑しながら頷く茜は雪の方を振り返る。
「奥村くんは……いや、その様子だと愚問だったようね」
振り返った先で見えた雪の楽しげな顔に茜は頬をほころばせる。
「ああ、俺も助けるよ」
雪はもちろん彼らを助けたいと言う思いはあるが、しかし、それよりもこの世界に心を踊らせているのだ。
たとえ巻き込まれて召喚されたとしても、〝異世界人〟という大きなアドバンテージがある。
なにかしらのチートや俺TUEEEEな力があると信じ、そう決断した。
「よしっ。満場一致で助けるだな! それじゃあ皆、明日に備えて早めに休もう」
慧馬の提案に全員が頷き、部屋にへと戻ったのであった。
◆◆◆◆◆◆◆
翌日――
一夜を過ごし、各部屋に支給された朝飯を食べ終わった頃。雪たちは謁見の間へと呼び出された。
ちなみに謁見の間とは昨日、雪たちが訪れた部屋である。
「早速だが、昨日の答えを聞きたいのだが」
謁見の間へと入室し、しばらくの沈黙の後、ガシュがそれを破った。
だが、不安なのか既に語尾には力が無く、見た目に反し、弱々しい声である。
見ると目元には隈ができている。どうやら不安で寝不足のようだ。
そんなガシュを元気づけるように、慧馬が昨夜話し合った結果を伝える。
「我々に出来る事であれば、協力したい所存でございます」
「おお、誠か!」
慧馬が言った答えにガシュは喜色を満面に表した。
そんなガシュは昨日言い忘れていた件を話す。
「では、昨日言い忘れていたのだが、報酬の件なのだが――」
「報酬ですが、我々を元の世界に戻す事にしてはくれないでしょうか」
報酬の話で被せるように帰還を口にした慧馬に、ガシュは苦い顔を見せる。
「帰還か·····いや分かっておる。だが、それは我の口からはどうも·····」
このガシュの様子で、大体の事を察した一同。まぁ雪には最初から分かっていたことではあるが。
しかし、そんな一同に朗報と、シュタルが衝撃の一言を言い放つ。
「勇者様。帰還の方法は存在しますっ!」
力強くそう言い切ったシュタルに全員の注目が集まる。
「昨日、皆様に説明した封印を解いて貰いたいのは四柱です」
雪たちが依頼の内容に息を呑む中、シュタルは説明する。
「その四柱の名は順に──青龍・玄武・白虎・朱雀です」
地球でも聞いたことのある神の名に雪たちは驚く。
「それぞれ東西南北に位置する神殿にて、その身を眠らせています。そして、元々召喚術というのは神々が古来より使われていた術でございます。彼らなら皆様を元の世界へとお送りする事が出来るはずです」
要は依頼をこなせば必然的に帰れるということだ。
「そういうことなら、我々としても安心できます」
「うむ、そうか。ならば、早速で悪いが貴殿らには一ヶ月間の訓練を受けてもらう。もちろん勉学もな。貴殿らには悪いと思っているが、何せあの男の復活もまた早いのだ」
〝あの男〟。この言葉に一同に緊張が走る。
「説明しただろうが、全ての元凶ともなったローノだ」
ローノ──かつて神話の時代にて神を越えようとその生涯を費やし、遂には神殺しの力を得た最凶の男。
やはり高校生。雪たちの顔は自然と沈む。
「なに、そんな顔をするでない。貴殿らは絶対に殺させはせん。そして、今回の訓練にはアイツが指導役として抜擢されておる」
どんな凄い人物なんだ? と全員の期待が込み上げる中、ガシュがその名を口にする。
「我が国、最大の騎士団の団長にして、最強の騎士·····貴殿らもよく知っておろう·····オーディーだ」
見ると、オーディーがドヤ顔しながら胸を張っていた。
「そうだ。今回俺がお前らを強くさせるからな! そうと決まれば早速訓練だ! 王よ、勇者たちを借りていきますぞ?」
既に、張り切り状態のオーディーにガシュとシュタルが苦笑する。
「ああ、要件は終わった。オーディーよ、しっかりと育てるのだぞ? それと、勉学については我が娘が努める」
シュタルが一歩前に進み出ると、ドレスの裾を軽くつまみ華麗にお辞儀をする。
その姿に雪はもちろん全員が釘付けになったのだが、隣の女性陣の目力に思わず退く。
そんな光景にガシュは笑うと、応援の言葉をかけた。
「では、貴殿らの健闘を祈る」
そして、雪たちの訓練が幕を開けたのであった。