第三十四話 ゴブリンオーガ戦
冒険者たちの雄々しい叫び声が後ろから聞こえてくる。
「どうやらあっちは大丈夫そうだな」
そして、己の勘に精神を研ぎ澄ませる。蹴空て空を駆けながら、辺りを見渡す。
雪が来ているこの方面は、魔物が突撃してきた方面だ。念の為に、手分けをしたが、どうやら雪が当たりだったらしい。
「あれか? ·····っぽいな」
雪の背丈以上にある大剣を地につけて、仁王立ちで王都の燃える様を眺めている。
見た目はゴブリンに酷似しているが、その口から生える牙はオーガのそれと同じで、腰に巻くのはウルフの毛皮だった。
「ゴブリンオーガか?」
ゴブリンオーガとは、簡単に言えばゴブリンとオーガの特性を掛け合わせたという化け物だ。
ゴブリンの俊敏さ、オーガの剛腕さが合わさっているという、手強い相手だとセラが前に教えてくれた。
「アイツらはまだ来てないな。俺がやるしかないか」
上空で数回ホバリングしてから、蹴空で勢いよく、突撃する。
「魔ノ術 一ノ型<魔砲>」
「ギヒ?」
ゴブリンオーガが己の腹に手を当てる雪に気づくが、既に遅い。肥えた腹が波打ち、魔力の波が体内から崩壊を促す
「ガアァ!!」
後退し、腹を抑えるゴブリンオーガ。血を勢いよく吐き出し、呼吸音が激しくなっている。が、その痛みに耐えながら、依然変わらない圧を雪に叩きつける。
「――ッ!」
感じた圧は、優に白虎を超えている。殺気を孕ました黒き双眸をこちらに向ける。
(海斗がなんかやったのか?)
それを証明するかのように、ゴブリンオーガが口を開く。
「何処カラ来タ?」
どうやら、雪の素早さには対応できなかったようだ。
「どうでもいいだろ。お前を殺しに来た。やろうぜ!」
そして、雪は構えを取る。
「分カッタ。オデモ、オ前殺ス!」
ドガッと音をたてながら、大剣を肩に担ぎ、重心を下げ構える。
(魔砲のダメージは尋常じゃないが、あの脂肪が邪魔したか)
歯噛みするも、何も魔砲が全てではない。魔弾を無数に出現させ、雪の先制攻撃から戦いが幕を開けた。
「連魔」
それはまるで弾丸の如く寸分の狂いなく、ゴブリンオーガに向かっていく。
「小賢シイ」
そして、大剣を一振り。
ゴォォと風の音が聞こえたと思えば、魔弾が霧散される。
「普通に白虎よりも強いじゃねぇか!」
数では勝てないと察した雪は、高速で作戦を組み立て、実行しようと蹴空を発動させるが
「逃ガサナイ」
ご自慢のゴブリンの俊敏さで、雪に間を詰め、大剣を振り下ろす。
「ヤバっ!」
体を逸らし、その一撃を避け、左手を突き出す。
「なっ!」
「モウ効カナイ」
ゴブリンオーガは、大剣を握っていた右手を離し、突き出された左腕に下ろす。
ゴキッと鈍い音が響き渡る。
「グァ!」
よろめき、完全に折れた左腕を一瞥し、気持ちの悪い笑みを浮かべるゴブリンオーガに、魔圧をぶつけるが
「体ガ重クナッタ」
まるで効果がない。
「チッ! そうかよ」
八方塞がりとはこのことを指すのだろう。魔砲は効かない、魔弾も意味を成さない。それは例え魔腕を発動しても同様だろう。
(どうする?)
思考は相手を殺すだけに集中する。この状態でも依然、放つ殺気は変わらない。魔圧もゆるめることは無い。それはひとえに戦いを諦めていないのと同意義だった。
ふと、ここでステータスに含まれた力を思い出す。
(あるじゃねぇか! アレが!)
痛みに歪めていた顔に笑みが浮かんでくる。
「ギヒ?」
突如として、雰囲気が変わった雪に、トドメを刺そうとしたゴブリンオーガは頭上に疑問符を浮かべる。
雪はニィと不敵な笑みを浮かべ、
そして、困惑するゴブリンオーガに一言。
「神格化・白虎――発動」
次回、神格化・白虎の力が姿を現します。お楽しみッ!




