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第三十三話 破壊神・カマー


「やっぱりここも·····」


 やっとの思いで辿り着いた、ファンスの宿を見てカマーは呟く。


 既に火の回った宿。中からは悲鳴や怒号が聞こえてくる、恐らく宿泊客や職員のものであろう。


 その事態を改善すべく、宿に乗り込もうとした時、ドカッと勢いよく扉が弾け飛んだ。


「あぁ、クソあちぃな」


  黒色のロングコートをひるがえしながら、宿をみて愚痴をこぼす少年――雪に、カマーは無意識に安堵の息を漏らす。


「良かった。無事だったのね」

「あ? あぁ、カマーか·····。まぁ、これを無事と言えるのかね。とりあえず、セラ!」


 火の中に向かい、呼びかける雪。すると、セラが顔を出す。


「これで負傷者は全員助け出したわ。魔物はハクとエルが倒し終わった。今は、逃げ遅れた人の救出に向かってる」

「よし」


 この会話にカマーは驚く。


(若いのにここまで·····)


 若い人というのは、大体はパニックに陥るものだ。何故かと言うと、窮地に立つことにほとんど経験がないからだ。

 しかも、カマーはその身分故に雪の正体も知っていた。


(地球って所はたしか争いがほとんどないって聞いたけど)


 そう、地球とは多少の紛争などは残っているものの、日本ではまず、大々的な争いはない。言わば、この世界の若者よりも争いから無縁だったのだ。


 それが、ここまでに迅速な判断に、冷静な心。全てにおいて賞賛に値する。


(って私も考える暇はないわね·····)


「ここから先は私が引き受けるわ。あなた達にはこの事態の収拾を依頼したいの」


 この事態を収拾できるのか? という顔をしている雪に苦笑しながらもカマーは言葉を続ける。


「この事態はね、魔物襲撃(スタンピード)という現象なの。こういう時って大体指揮する魔物がいるはずなのよ! それを直ちに発見、討伐して欲しい! クリア報酬は冒険者ランク昇格と金よ! 急いでやってちょうだい!」


 そして、王都を襲う魔物を睨む。


「魔物は私が全て引き受ける。だから、あなたたちは気にしないで向かって? よろしくね♪ うふん」


 一瞬の吐き気を耐え、雪が頷く。


「分かった。無理すんなよ。行くぞ!」


 雪の一言に救出を終えた二人を含め、全員が頷き、ハクは西を、エルは東を、セラは南を、雪は北をと手分けして去っていく。


 それを一瞥し、カマーは眼前に既に集まりつつある魔物に意識を切り替える。


「次は守ってみせる。行くわよ!」


 シャドウウルフとオーガがカマーに襲いかかる。それを避けながら、シャドウウルフを掴み、オーガにへと投擲する。


「オォラ!」


 後ろからの不意打ちの攻撃に呻き声を上げながら、カマーは魔物の大群にへと突っ込んでいく


「なめんじゃないわよ!」


 火により、衣服は燃えていく、肌は焼け、むき出しになった背中に噛みつかれ、オーガの一撃が頭を襲う。


「ウガァ!」


 この光景を第三者、つまり助けられた人たちは口を揃えてこう言う


「化け物·····破壊神」


 魔物の如く、転がる建物の残骸を持ち上げ、魔物に投擲、血が流れても関係ない。ゴブリンの目を潰し、己に剣が刺さろうと、槍で突かれても一瞥し、それを利用し魔物を手繰り寄せ拳を打ち付ける。


 だが·····。


 もちろんそれが、続く訳もなく。次第と腕の力は衰え、足に踏ん張りが無くなっていく·····。


「グァ!」


 足に噛みつかれ、バランスを崩す。そこにオーガやゴブリンが好機とばかりに攻めよってくる。


(もう、ここまでかしらね·····)


 目の前に広がるのは、火の海ではない。魔物の大群でもない、最愛の妻と最高の息子――


「カリン、ナクタ·····」


――ようやく行ける。


 今までオカマとして自分を偽ってきた。彼女たちを殺したのは自分だと、今までの自分を捨てきり全く別として生きてきた。


 悲しみを他人に悟られないように、ウィンクを決めた。失ったものを数えないように、衣装を数えた。もう、あの思いをしないために己を犠牲にしてまでも他人を優先してきた。


「えっ·····」


 全てを諦め、己の目を閉じようとした瞬間、カリンやナクタは去っていく。


 まるでこっちに来るのはまだ早いとばかりに、時折笑顔を向けながら·····。


――どういう·····こと·····


 刹那、襲ってくる魔物は吹き飛ばされる。オーガは頭が弾け飛び、ゴブリンは血反吐を吐き出す。


「えっ!?」


  驚き、後ろを見れば·····。


「カマーさんよ! あんたは死なせねぇぞ!」

「そうだ!」

「マスターを守れ!」

「行くぞッ!」

「「「「「オォー!」」」」」


 冒険者ギルドに所属している冒険者たちの姿が


「カナ、あんた·····」

「ギルドマスター、手配は済みました。王都にいる冒険者たち全てに呼びかけ、ここまでの人数を集めることが出来ました」


 振り返れば、魔物を倒しながらもこちらに笑顔を見せる冒険者たちが、


「俺ァ! あんたに新人の頃救われた! 今度は俺らの番だ!」

「覚えてますか!? 私はあなたにオカマの全てを叩き込まれた者ですよ!」

「わたしはあなたに冒険者の心得を教えてもらいましたぁ!」


 今まで、自分を犠牲にしてまで救ってきた冒険者、教えてきた弟子が


「さぁ、行きましょう。ギルドマスター! 王都を守るために!」

「·····。そうねッ!」


――昔とは違う·····。あの時は一人だったけど今は違う。彼が彼女たちがいる。


「カリン、ナクタ·····。そうよね」


 破壊神としてカマーは、オカマのカマーは、あの時守れなかったカマーは、もうここには居ない。


「私は王都クレファンス。冒険者ギルド本部。ギルドマスター・カマー=ネェよ」


 そして、大声を上げて、冒険者たちに指示を出す。


「手柄を上げれば金を出すわ! 我々冒険者の意地を見せる時がきた。全員生き残りなさい! それが、私が出すクエスト·····。行くわよォ!」

「「「「「オォー!」」」」」

なんかこういう団結力ってのはいいものですね。

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