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第三十二話 王都炎上


「ヤバいな」


 雪がそう告げる通りに、宿から見た王都は酷かった。魔物に追われる人々、建築物は火により炎上している。


「どうするの? ユキ」


 傍らに寄り添ってくるセラに一瞥し、雪は思考を加速させていく。


(俺らが王都の空を飛んでいる時は、火事は起こっていなかった。一体どういうカラクリだ? 何故、一瞬にしてこのように出来る?)


 雪がここまで来るため、蹴空を発動させていた時は、火事はおろか、火の一つすら見えなかった。それが、海斗と接触したことにより、火事が発生し、更にここまで広げられるなんて絶対裏があるはずだ。


 もう一つ思うところと言えば、あの魔物たちだ。どうやってここまで侵入してきた? まさか――


「おい、師匠が危ねぇんじゃねぇか!」


 あの時、金をくれた衛兵。雪曰く師匠の身が危ない。こうしてはいられないと、蹴空を発動させようと魔力を足に込めれば、突如、宿が揺れた。


「どうなってやがる!」


 どうやら、宿に魔物が侵入してきたようで、耳には悲鳴が入ってくる。


「クソッ! 先にこっちを片付けるぞ! セラ、ハク! つか、てめぇ、いつまで寝てやがる」


  担いだままであるエルにデコピンをかまし、目を覚まさせると、急いで指示をだす。


「エル! てめぇへの質問は少しばかりお預けだ。とりあえず魔物を片っ端から殺せ、依頼だ。やってくれよ」


 こうして、王都を守らんと雪たちが動き出す!


◆◆◆◆◆◆◆


  同時刻――


「これはどうなってるの?」

「ギルドマスター! 魔物の襲撃です。王都も魔物と火事で甚大なる被害が!」


 冒険者ギルド本部。その一室――マスター室にてそんな会話が響き渡る。


「急いで各冒険者を手配! ギルド職員は火事の消火にかかりなさい!」

「分かりました!」


 粗方の指示を出し終わったカマーは、次はとカナを探す。


「カナ! 何処? カナぁ!!」

「ここです。ギルドマスター」


  今、現在ギルド内はパニックに陥っている。それを収めるためにカナは他の職員と共に力を注いでいたようだ。


「セラちゃんたちは?」

「それが·····。セラさんは来たのですが、ユキさんがギルドに顔を出していません」


 衝撃の事実に驚きを隠せないカマー。


「分かったわ! 私がファンスの宿に向かう! カナはこのまま冒険者たちに呼びかけなさい。手柄を上げれば金も出すわ」

「分かりました」


 いかにオカマだと言え、腐ってもギルドマスターだ。迅速な指示を出しつつ、今、この場で唯一現状を打破してくれそうな人物――雪を探さんとファンスの宿にへと向かう。


「あの時ような思いは、もう嫌よ!」


  脳裏に浮かぶ家族の姿。これは知られざるカマーの思い出したくない過去の話――


◇◇◇


 十年前――


「どうなってやがる!」


  屈強な男の叫び声が響き渡る。


 彼の名前はカマー。


 この地域じゃあ彼に勝てるものは居なかった。何せギルドマスターを任命されている彼は、この世界でも数少ないゴールドなのだ。


 しかし、そんな彼の眼前に広がっているのは、火にまみれた己の故郷。

 元々、貧しい農村に生まれた彼は、己の力一つでここまで出世してきた。


「カリンー! ナクター!」


 最愛の妻と最高の息子の名前をくちにしながら、火の中を突き進む。立ち塞がる魔物の数々、だが、そんなもんに構っている暇はない。


 やっと思いで辿り着いた自分の家、既に火が回っており、中に人がいようものなら生きているのは絶望的である程に·····だが、


「カリンー!」


 見つけ出すんだ。扉を突き破りどんどんと·····、更に先へどんどんと一心不乱に突き進む。


 そして見えた最愛の妻――の死体が·····


「カリン?」


 彼女の手の中には最高の息子の死体が·····


「ナクタ?」


 二人の口元には微笑が浮かんでいた。


 それは、そう。まるで、自らの信じるものが助けに来ると思っている、そう信じているという希望に満ち溢れたそんな笑みだった。


 それを見た瞬間何かが、壊れる音がした。


「なんで? なんで·····」


――そんな顔をしている? 何故、俺なんかを信じた? 俺はお前らを置いて仕事に出かけていたんだぞ?


「アァァァアアア」


 カマーまたの名を破壊神。彼の通り過ぎた道には破壊されたものが転がっている。その中には壊れたいや、死んだ家族すらも転がっている。


「てめぇか! カリンをナクタを殺したのは!」


 火の海の中、魔物を殺し回った。人っ子一人生きていないこの空間で一人、ただ一人で殺し回った。


「てめぇだろ! そうなんだろ!」


 最後の一匹になるまで、彼は休み一つなく戦い続けた。頭から血が流れようが、己の肉体が傷つこうが関係ない、殺した奴は目の前にいる。


「アァァァアアア!!!」


――違う! こんなヤツらじゃない俺の家族を、最愛の妻を、最高の息子を殺したのは魔物じゃない。俺だ。俺自身だった·····


 数日後――


「おい、カマーお前·····。名前だけじゃなく見た目までそうしたのかよ」

「ふふっ! 違うわ。喋り方もよ。うふん」

「おえぇ」


 最強のオカマがギルドに爆誕した。


――妻を殺した俺は、息子を殺した俺は·····もう死んだ。俺自身で殺した。


 それこそがオカマとなった所以。だが、後悔はない。次は二度と誰も失わない。次は守れるように生きるのだ。


◇◇◇


「カリン。ナクタ·····。もう一度、私を負け犬にさせないように応援しててね。あなたたちが愛した俺はもういないけど。あなたたちを守れる私はいるわ!」


 そして、いつかの自分のように一心不乱に突き進むのだった。

カマーをただのオカマにはしたくなかったのです。

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