第三十一話 狙われたセラ 後半
時は少し遡る――
「帰り遅いね」
「·····そうね」
雪たちが泊まっている宿――クレファンスの宿の一室からそんな声が聞こえてくる。
言わずもがな、ハクとセラだ。
あの時攫われた雪を脳裏に浮かばせ、心配そうに向ける相手のいない目線を空に彷徨わせる。
「大丈夫よ。だってアイツなのよ? 非常識なユキが死ぬはずないじゃない」
「そう·····だね」
あれから、ずっとこの調子だ。
もしかしたら·····という不安もあるが、それは胸に押し込み、今か今かと待っている。
そんな二人の耳に足音が入ってくる。その数秒後、部屋の扉がガチャっと開いた。
瞬間、喜びに溢れた二人の顔は、入ってきた人物で崩れる。
「あなただれ?」
目の前に立っている少年は服装と纏う雰囲気から”ヤバい”奴だった。
「んー? 僕の名前は海斗。奥村いや雪くんの友達だよ。ね! 狼人族最後の一人――セラ=セウス?」
その言葉にセラの鼓動が早まる、背筋に汗が伝う。
突然の反応の違いにハクは戸惑うが、それも一瞬で、戦闘態勢をとる。眼前に立つアイツが交友関係として近づいたのではないということは、纏う殺気から分かっている。
「何を話しているかは分からないけど、敵なら容赦しない」
突如、普通だった両腕は、白虎の金属的な腕にへと変化していく·····。
「まさか雪が白虎をてなずけていたなんて」
海斗の表情が崩れ、驚きの顔になるが、それも一瞬で直ぐにニタァと不気味な笑みを浮かべる。
「僕に手を出したら雪の身に何があるか分からないよ?」
その言葉に一瞬の動揺が生まれた。そこを見逃されるはずもなく、海斗の右腕から黒い霧が出現し、ハクに纏わりつく。
「ギャァァ!」
黒い霧から発生するイナズマにハクは思わず、声をあげる。
「――ッ! な、何をするの?」
平静を装うセラに不気味な笑みで海斗は答える。
「交渉だ。そこの白虎と交換で君は僕に元にきてくれ」
歯噛みするセラ。仲間の命と自分の命。
(もう、逃げる訳にはいかないッ!)
あの時のような思いは二度と御免だ。逃げて、逃げて辿り着いた先はロクなもんじゃなかった。だから、だからッ! ――
「そうそう。懸命な判断をありがとうセラ」
その名で呼んで欲しい人はお前じゃない。
「そんな君にいいことを教えてあげるよ。こういう時の交渉ってのはね? 大体、嘘だったりするんだぁ」
·····知っている。だから、逃げない――
「逃げないんだァ!」
腰に差した剣を最速で引き抜き、海斗の首にへと届いた――と思った瞬間。バキンっと折れる刃。
「ふふっ、君たちに最初から勝算はないよ? あぁ、天国で雪も歯噛みしているだろうね、セラが僕のモノになるんだから」
そして、海斗はセラの首を絞める。
「グッ、あぁぁぁぁぁああ」
段々と意識が、視界が朦朧としてくる。
(ユキ、ユキぃ)
助けて·····
「汚ぇ手でセラに触るな」
その声を堺に呼吸が楽になる。
そして、目線を向ければ、この夜の空と似ている黒き髪をなびかせ、同じく漆黒のコートを羽織り、左手に魔術を発動させる少年――雪が立っていた。
「ユキぃ」
思わず、雪の元にへと駆け寄る。だが、雪が担いでいる女の子に目のハイライトが突然と消えた。
「ユ、キ?」
「いやぁ、これさ仕方がないんだよ。うん」
まぁ、助けてくれたことには変わりないが、見ると女の子はあまりの速さにからか、気を失っている。
「それよりも、だ。なぁ佐々木。良くもやってくれたな」
そして、ハクに纏わりついていた黒い霧も魔弾により晴らす。
「まさか、君が生きているなんてさ。おかしいな爆発はきこえてきたんだけど」
そして、雪よりなくされた左腕から流れる血を止血する。
「君が右腕、僕が左腕かぁ。うん、いいんじゃないかな」
そして、バッと腕を広げる。
「今日のところはセラは諦めよう。白虎も君に預けておくよ。でも、まぁこの王都から生きていたらね」
その言葉に驚き、セラは宿の窓から王都を見る。
「嘘·····王都が」
セラの目に映った王都は、所々で火事が起き、人々が逃げている、町には魔物が侵入しており、人間を蹂躙している。
「もうここに、用がないからね。さて、僕はもう行くとするよ。·····後雪、神殿の攻略早くした方がいいよ。僕が先を越すかも?」
その言葉を最後に海斗は姿を消した。
次回から王都炎上篇を書いていきます。章別にする気はないので死神編の王都炎上篇としてやっていきます。




