第三十話 狙われたセラ
·····。
エルは爆音が聞こえてもなお、自分の体があることを不思議と思い目を覚ます。
上体を起こせば、軋む体に軽く「うっ」と声を上げるが、それも一瞬のこと。
霞む視界が段々とクリアになっていく·····そして目の前に広がっていたのは。
爆発の跡地。豪華とも言えた王城はその見る影もなく、王城があった所がぽっこりと消失していた。
「なぜ、これ程までの爆発があって私は·····」
生きているのだろう? ――その疑問の答えは、すぐ近くにあった。
「ユキ?」
そう、瀕死の雪の姿。所々に火傷があり、今も血反吐を吐き出している。
エルは知らないが、雪はあの爆発の時、瞬時にネックレスを取り、それを魔力で包み込み、魔弾の要領で上にへと打ち上げたのだ。
もちろんそれで、爆発の威力が殺せるはずもなく、エルを守るために、己の体を魔力で纏い盾となったのだ。
「なんで私のために·····」
少なからず、雪に救われたのだろうと察したエルがそんなことをこぼす。
だが、もちろんそんな暇では無いと、回復をかけるために近くに行く。
近くで見た雪の状態は酷かった。遠目でも分かる程の火傷は生々しくその肌に焼き付き、雪の体は所々に黒ずんでいる。炭化が進み、もはや人間の姿とは言えなかった。
「今助けます」
しかしながら、微力でもその体を直そうと魔力を込めるが、それを雪が止める。
「や、·····めろ」
驚き、目線を向ければ、辛うじて目を半開きになった雪が
「だ、いじょ·····ぶだから」
その言葉の通り、彼の体はみるみると回復していく·····酷かった火傷は修復していき、黒ずみ炭化が進んでいた肌は、本来の肌にへと変わっていっていく
目を大きく見開き、驚きをあらわにしているエルに数秒の時間をもって回復仕切った雪が、微笑を浮かべ解説する。
「俺の体は他人の奴より少し回復がはやいんだ」
だが、これは全然少し所ではない。この回復力は、もちろん神格を持っているが故のものだ。
しかし、こんな超回復は一日にそう何回も出来るわけでもなく、大体一日に一回が限度である。
しかも、超回復はそんな便利なものでもなく、己の自然治癒力を加速させていくので、あまり体にいいものでもない。
「まぁ、こんなものなんでもいいんだよ。それよりもだ。お前本当にバカだろ? 自滅なんてやめろ」
雪が軽く注意を施し、「それと」と言葉を続けようとするが、エルの泣き顔にギョッと目を剥く。
「ひぐっ、うぐっ」
「おい、大丈夫か?」
絶え間なく流れ続ける涙を、頑張ってせき止めようと両手でゴシゴシするが、当然そんなものでは止まらない。
「す、すみません。初めて他人に心配されたので·····」
「そうか」
それから泣き続けるエルの背中を擦りながら雪が寄り添った。
◆◆◆◆
数分の時を要し、ようやく涙を流し終えたエルが、目元を赤く腫れさせ、目を充血させた状態で言葉を発する。
「もう、大丈夫です。ありがとうございます」
そして、何かに気づいたのかハッとおもむろに立ち上がる。不思議そうに見つめる雪にエルが衝撃とも言える事実を告げる。
「そうだ。·····早く! 早くセラさんの元にッ! 依頼主の目的は四勇とセラさんです」
刹那、物凄いスピードでエルは浮遊感を覚えた。
理由は、雪がエルを担いだからだ。
蹴空を発動させ、空中に飛び上がる。
「急ぐぞ」
一言、次には今までに感じたことの無い風圧がエルを襲う。
向かうは『ファンスの宿』その道中にある程度の知識を得ようと、魔力で壁を作り風圧を防ぎつつ、雪が問う。
「なんでセラが狙われる?」
「そこまでは·····ですが、セラさんの報告をした時に彼が言っていたんです。『四勇の次はコイツだな』って!」
エルの必死さからも、それは事実だろう。
「分かった。なら、捕まってろ。お前にも聞きたいことは一杯ある。セラを救ったら質問するから覚悟しとけよ」
そして、超特急で蹴空を発動させたのだった。




