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第二十九話 エル

エルの一人称です


 私の名前はエル·····いや、この名前は本当の名前では無い。


 エルフという種族として生まれ、生みの親に捨てられ、種族にさえも見捨てられた私が付けた名前。


 エルフであるが、エルフとは違う、自分を自分として成り立たせるために一文字取ったのが由来。


 我ながらこの由来は、どうかしていると思うが、当時の私にとっては希望となった。


 唯一無二の自分になれた気がしたから。


 私は生まれた時からこの白い髪であった。古来よりそれは忌み子として呪いがかかった子供だと伝えられてきた。


だからだろう。親は私を捨て、種族は私を見放したのだ。


 悲しかった。毎日路地の裏でダンボールにくるまり寒さをしのぎ、店の果物やパンを盗んでは殴られ、それでも必死に生きてきた。


 当時、私が十歳の頃、日課のように店の果物やパンを盗んだ時だった。


今までは殴った人の手に傷が出来ただけだったが、この時は違い、たちまち細切れとなったのだ。


 これが初めて人を殺した時だった。


 エルフの里で、それが有名となり、私は余計に人から避けられ、時には遠くから石を投げられ、しまいには誰も私に触れることは無かった。


 私に触れると呪い殺されると·····


「私はなんなんだろう·····」


 ある雨の日私は、おもむろに空を仰ぎ見て、ようやく気づいた。


「そうか·····私は道具だったんだ·····人でもエルフでもましてや生き物でもない。私は道具、人を殺すために生まれてきたんだ。それこそが私の存在理由」


 自分の存在する理由が人を殺すためなら、そう生きようと、自分は殺人兵器だとそう思い込み、十一の時には里を抜け出し殺し屋となっていた。


 初めての依頼は浮気をしたという男の殺害だった。


わざと露出を高くし、陰部や胸を隠しただけの状態で近づいた。


 まさか、食いつくとは思わなかったが、酔っていたのか彼は吸い付くように私の肌に触れ細切れとなった。


 それに依頼してきた女性は喜び、私に金を渡してくれた。その時、私は生まれて初めて実感を感じた。


必要とされている。それがたまらなく嬉しかったのだ。


 それから、息をするように人を殺し、この混沌とした世界を生きてきた。


 いつしか歳をとらず、悠久の時を殺すために生きている私のことを人は死神として呼ぶようになった。


 その時からだった。


 殺すのに疑問を持ったのは、私の真っ白な髪が赤く染まれば、喜ぶ人はいるが蔑む人もいた。


 人を殺せば金は入るが、私の感情は抜けていったのだ。


 もう、私は本当の道具として生きているのだと分かった。それは、あの時そう決めたはずなのに、何故か悲しみを感じたのだ。


 だが、もう引き戻せない。ならと、人の温もりなどは要らない、温かさなんて要らない。孤独で生きようとそう決めたのに·····


 なのに、なのに


(私に触れる!?)


 森の中、私が触ったあの男は細切れとはならなかった。


 私が担いでも彼は切られることは無かったのだ。


 事の始まりは、ある少年の依頼からだった。


その歳に関わらず、私に依頼してきた彼はある人を捕獲して欲しいと私に話を持ちかけてきた。


  標的はユキという少年だった。


早速、依頼を済ませようと捕獲するため、彼がいるという王都にへと森を進めば、盗賊と名乗る輩とであった。


 もちろん、私に触れ細切れとなった。そう、ここまではいつも通りの光景だったのだ。


 だが、彼は、ユキは違かった。


 洞窟で問うた時、彼は知らない様子だったが、間違いなく私と同類だった。数百年という月日を生きて初めて同じ呪われた人に出会えた。


 私にも希望が見えた。彼なら私を、私を·····だが、


「このネックレスをつけろ」


 依頼してきた少年が意識の失ったユキを渡した後に、代わりにと私にネックレスを渡してきた。


「用が済めば僕はこの場から消える。その時彼を、奥村を殺して欲しいんだ」


 淀んだ瞳をこちらにへと向け、笑顔で死を語る彼に言われるがままに、私はネックレスをつけた。


「そのネックレスはね、起爆術式が組み込まれているんだ。一緒に奥村と死んで?」


 この時悟ったのだ。


 何を勘違いしていたのだ。そうだ。私は道具として生きてきたのだ。


 生きる権利も死ぬ権利すらも私にはない。全ては持ち主(依頼主)が握っていたのだ、と


「ようやく、捕まえました」


 目の前に驚くユキはじっと私のネックレスを見つめる。


「これは、自爆用の起爆術式です」


 でも、これでこれで、辛かった人生に終止符がえ打てる。


「後、数秒後にはドカァーンですよ?」


 道具として生き、道具として死ぬ。これこそが私の運命だ。


 今まで殺してきた、幾千の人物に今更謝るなんておこがましいけど、死ぬ間際となると懺悔や罪悪感が浮かんでくる。


 でも、不思議と後悔は無かった。


 ユキが何か私に叫んでいるけど、もう関係ない。


 だって、これで私は――


「あぁ、ようやく楽になれる」

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